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第38話

 静かに内なる闘志を燃やし、エルは31階層への転移陣に歩み寄ってゆく。

 先ほどのライネル達の闘いは素晴らしかった。仲間との巧みな連係と被害を最小限に抑える立ち回り。エルの参考になる動きも多々あった。

 エルの身は既に興奮で猛っていた。早く、早く闘いたいと急かすように鼓動が早鐘を打ち、武者震いして勇み立つ。

 ただし、できれば暴虐竜タイラントドレイク以外の守護者と闘いたいと、エルは願った。亜竜の動きや攻撃方法は先ほど見てしまった。協会が発行している情報誌で、守護者達の情報は得ていたが、やはり己が目で直に見ると対策も立て易い。既にエルは、暴虐竜タイラントドレイクの攻撃に対する対処法も思いついてしまっていた。もし、件の亜竜が現れたなら、ライネル達ほど苦戦することもなく倒せる自信がある。

 だが、それでは己が心は躍らないだろう。既にライネル達に問題の解答を見せてもらっているようなものだ。今回のように、ライネル達の後に守護者に挑む事など、今後はほとんどないだろう。凶悪な魔物達はそれぞれ特有の攻撃を持っている場合が多い。自身の理解の及ばない初見の攻撃に対して、どれだけ被害を少なく対処できるかが明暗を別ける場合もある。自分の成長のためにも、できれば別の守護者に中りたい。

 また、先ほどライネル達に言った様にここで無茶をする積りはない。もし自分では勝てない様な強敵が現れれたなら、一目散に逃げれば良いのだ。

 エルは気負った風もなく、足取りも軽く転移陣に近付いていった。


 転移陣を護るようにして一際強大な存在が地から浮かび上がってくる。

 暴虐竜タイラントドレイクとよりも更に大きい、小山の様な巨体を誇る多数の頭を持つ大蛇、九頭大蛇(ヴァージャ)である。複数の真っ黒い蛇頭が、長い首によって遥かに上を仰がなければならない程の高さにある。九つの首は巨大な胴部分で一つに集合し、余りにも長大で太すぎる尾が大地に横たわっている。

 エルの願いが叶って亜竜以外の守護者が現れたようだが、この九頭大蛇ヴァージャは30階層で最強の守護者である。先程ライネル達が死闘を演じた暴虐竜タイラントドレイクでさえ、この大蛇には敵わず捕食されてしまう。真なる竜種並みの強さを有する強者が、このエルの眼前に聳え立つ様に対峙する九頭大蛇ヴァージャである。

 後方からライネル達が大声で声援を送ってくる。

 エルの心は高揚し喜びを覚えつつも、不思議と強大な敵に対して恐怖を感じなかった。肌で感じる威圧感は残忍で狡猾な悪魔、魔神デネビアと比較したら大したことは無い。強さにしても、デネビアには数段劣るであろうことは間違いないとエルは確信していた。この強敵を倒せなければ魔神に挑むなどまさに絵空事だろうと、エルは己に渇を入れると即座に臨戦態勢を取った。


 九頭大蛇ヴァージャもエルの戦意を感じ取ったのか、はたまた人という餌を捕食せんとしたのかわからないが、エルの動きに呼応するかのように長すぎる鎌首をもたげ、牛や熊でさえ簡単に丸呑みにできる口を開き、長い舌をちろちろと出して威嚇すると攻撃を開始した。

 エルは直ちに剛体醒覚を行い、肉体の内部に気を行き渡らせ強化すると共に、身体能力を向上させる。巨大な大口が複数、エルを飲み込もうと迫り来るのを、強靭な脚力をもって左右、前後と素早く飛び周りながら回避する。

 黒蛇はエルに回避され大地に衝突し大穴を穿つとも一行に意に介さず、九つの頭をもって波状攻撃を継続する。将に息つく間もない連続攻撃である。それでも、魔神デネビアの巨大な翼骨による、切れ間のない怒涛の連続攻撃に比べたらまだ余裕がある。エルには当たれば即死の魔神の翼骨を、神経をすり減らしながらも完全に回避しきった事が自信に繋がっていた。

 無数に大穴を開け地形が変わる様な状況で、危なげなく立ち回りながら冷静に隙を窺い、大振りな一撃を疾歩、気を足に纏わせ脚力を向上させた移動術で、一気に首の根元まで間合いを詰める。

 そして、引き絞った右拳の力を開放するように、大木の幹よりも更に太い首の根元に中段突きを打ち放った。

 右拳が首にめり込んだ直後、大量の気を流し込み内部破壊を行う。

 徹気拳

 自分の気を相手に送り込み、内部から破壊を行う武神流の技によって、丸太の様な首が一つ、爆発したかの様に弾け飛んだ。

 残す所首八つと自身を鼓舞するエルに対し、首がもげても一向に痛痒を感じない大蛇は、別の蛇頭が大口を開け大気を切り裂きながら高速で接近する。

 緊急で後方に離脱し何とか危機を脱したエルが見たものは、根元から徐々に再生を始め、新たな首が生まれようとしている黒蛇の姿であった。


 どうやら首を飛ばしても、時間が経てば元通りに回復してしまうようだ。九頭大蛇ヴァージャの驚異的な再生能力にエルは唖然としてしまう。加えて、千切れ飛んだ蛇頭の方も未だに生きており、長い首を器用にくねらせエルに接近してくる。何とも呆れた生命力だ。

 エルは両手を振り、無数の気の刃を黒蛇の頭に叩き込んだ。エルの研ぎ澄まされた気の刃は、易々と黒蛇の皮膚を切り裂き脳をずたずたにする。さしもの大蛇も、脳を破壊されれば動けなくなる。胴体から切り離された蛇頭は、脳を破壊すれば活動を停止するようだ。

 だが、胴体の方ではどんどん根元から壊した首が再生していく。頭まで綺麗に再生するのも、あまり時間が掛からないだろう。

 この強敵を倒すにはどうすべきかと思案する間もなく、九頭大蛇ヴァージャが激しい連続攻撃を開始する。巨大な口から溶解液や火炎の球を吐き出し、別の頭はエル目がけて襲い掛かってくる。他の頭の攻撃によって傷付くこともお構いなしのようだ。余程自分の再生能力に自信があるのだろう。どの攻撃も凶悪で、直撃すればエルもただでは済まない。エルは昂ぶる心を抑えつつ、慎重に回避に専念した。

 焔が爆ぜ大地が溶け、蛇頭が地を穿ち、轟音が戦場の音楽を奏でる。

 エルは武神流の移動術滑歩と疾歩によって、大地を滑る様に高速移動して回避していく。気を用いた移動術によって、足を動かさずとも己の意志によって自由自在、縦横無尽に動き回り、余裕を持って躱していく。人間に不可能な動きであっても気を用いた移動法なら可能である。直角に曲がったり、前後左右に留まる事もなく高速で移動し続け、九頭大蛇ヴァージャの連撃を回避することに努めるのだった。


 しかし、回避に徹していたが一向に大蛇の攻撃が休まることがない。自身の火球の爆炎や溶解液によって別の蛇頭が焼け焦げ、一部が溶けても傷が見る間に再生していく。それに加えて体力も無尽蔵のようで、この嵐の様な攻撃が治まる気配はない。防御に重点を置いている間に、はじけ飛んだ首は全て再生し元の九頭の大蛇に戻ってしまった。

 生半可な攻撃は通用しない。相手の再生力を上回る破壊をもってしか、この強敵を倒せないだろうと推測を立てる。

 エルは抑え付けていた猛った心を開放し、攻撃に転じることを決意した。

 九頭大蛇ヴァージャの怒涛の連撃を回避して、複数の首が一つに集まる付け根に向かって疾駆する。首の根元まで潜り込んでしまえば巨体が反って邪魔になり、エルの攻撃を避けられない。

 エルは烈火の様な連撃を繰り出した。武人拳を、猛武掌を、徹気拳を……。

 今まで武神流で学び鍛えた技を、燃え盛る心のままに思う存分奮い、次々に首を破壊していく。

 一つ二つ三つと首を破壊したところで、残った蛇頭が器用に首を丸め根元にいるエル目掛けて迫ってくる。それに追随するかの様に、火球や溶解液も放たれた。

 だが、エルは退くつもりなど欠片もない。首を横っ跳びして回避すると、火球や溶解液が至近で炸裂し周囲に破壊を撒き散らす中を、全身を気の鎧、纏鎧で覆い、傷つくことも厭わずに首元に留まり攻撃を続行し続けた。

 火が身を焦がし、溶解液がエルに激痛を与える。

 それでもなおエルは止まらない。火の粉に包まれたまま、己が燃え盛ったと錯覚するほどの猛火の攻めを行う!!

 白と黒の混ざり合った混沌の様相を醸し出す気を纏い、昂揚感に身を任せ殴りつける。気を纏った拳を放ち、発剄を打ち、相手に気を流し込んだ。

 

 エルは己が身を削りつつ、更に首を四つ頂戴することに成功した。残こす所後二つである。

 終わりも近いとエルは残っている首を破壊しようとしたが、いつの間にか千切れた複数の蛇頭が、エルを取り囲むようにして包囲している事に気が付いた。首を取ることに夢中になっていたので、周りの様子に気付かなかったのだ。

 千切れた蛇頭達は包囲を縮め、一斉に襲い掛かってくる。

 これはまずいと気を足に溜め、大空に飛び上がって辛くも躱したが、残りのまだ無事な蛇頭、九頭大蛇ヴァージャの胴体に残っている蛇頭が口内に火を止め待ち構えていた。

 空中で身を投げ出したエルには避ける術もない。二つの大口から勢い良く放たれた火球がエルに当たると、爆音を立て火炎を撒き散らした!!

 エルが火球の爆発によって大きく弾き飛ばされる。気の鎧を纏っていても身が焦げ、咽喉や肺が焼かれるような熱さを覚える。呼吸をするの覚束ない状態で、真っ逆さまに地面に墜落した。受け身を取る余裕などありはしない。運良く肩や背中から落ちたようであるが、地に激しく打ち付けられた痛みで更に呼吸が厳しくなる。

 一瞬息もできなくなりむせ返っている間に、九頭大蛇ヴァージャと千切れた蛇頭が迫ってくる。エルは地に両手を付き荒々しく呼吸を繰り返している状態で、立ち上がるには今少しの猶予がいる。

 エルの苦境に嬉々として大蛇達が襲い掛かってくる。

 千切れた七つの蛇頭が器用に体をくねらせエルに殺到した。厳しい状況ながら何とか横に転がりいくつかは回避に成功する。だが、終には大蛇の大口を回避できずエルは飲み込まれてしまった。


 悲鳴が木霊する。エミリーが、クリスが絶叫を上げた。観戦していたライネルやダムが腰を上げ、エルを救出すべく立ち上がった。

 一方のエルは大牙だけは避けることに成功したが、飲み込まれた状態である。全身を気の膜で覆い、溶けされるのに抵抗していた。もっとも九頭大蛇ヴァージャの本体ではなく千切れた首の方なので、喉から嚥下されても胃には繋がっていない。唾液もエルの身を溶かす効果があるようだが、溶解液ほど強力なわけではないようだ。咽喉を過ぎ食道辺りで止まり、周りの内壁から圧力を掛けられ、唾液によって溶かされる強烈な痛みを味わう。

 先ほど、遠くからの悲鳴が微かにエルには聞こえた。エミリー達が声を上げたんだろう。このままならライネル達がエルを助けに動いてしまうだろう。

 自分はまた兄貴分達に心配を掛けるのかと自問した。


 否、断じて否だ!!

 周囲から圧迫され溶かされそうな危機的状況でも、エルにはまだ余裕があった。あちこち痛くとも致命傷を負ったわけではない。

 身が溶解する激痛が襲う。だが、まだ自分が生きているのだ。

 生きているならまだ動けるし、闘うこともできる。

 さあ拳を突き出せ!!

 反撃の狼煙を上げろ!!

 ここからが本当の闘いだ!!


 締め付けられ動きを封じられている状態で、ゆっくり拳を突き上げ内壁に押し当てた。そして気を流し込む。エルの白黒混ざり合った混沌の気が大蛇の体を爆散させた。

 雄叫びと共に蛇を食い破るかのように立ち上がる。エルの闘争心が劫火のように燃え盛り、飢えた獣の様な瞳が爛々と輝き出す。さあ、闘いはこれからだ。


「「エルっ」」

「「エルくん」」


 振り向くとライネル達が直ぐ傍まで接近していた。エルの救出のために駆け寄ってきてくれたのだろう。

 エルは狼の様に犬歯を剥き出しにして嗤うと、ライネル達に声を掛けた。


「みなさん、離れてください。

 大丈夫、必ず勝ちます」


 エルの激しい闘志に駆り立てられた様と見て、ライネル達も安堵の息を吐いた。ここはエルの戦場なのだ。エルに問題ないなら邪魔してはならないと、静かに後ろに下がり始めた。


 エルは魔物達に顔を向けた。九頭大蛇ヴァージャと千切れた蛇頭六個も戦意十分のようだ。九頭大蛇ヴァージャ本体はエルが破壊した複数の首も半分近くまで再生している。あまり時間を掛けられる状況ではない。

 エルは全身を大量の気で包むと、一条の矢の如く九頭大蛇ヴァージャに疾駆した。千切れた蛇頭達が襲い掛かっても、搔い潜りながら見向きもせずに本体に突き進む。

 九頭大蛇ヴァージャの残り二個の蛇頭が溶解液を吐き火炎の球を放って、接近を妨害しようとするが、九個揃った完全な時と比べて弾幕も薄い。一気に首の根元まで到達すると、残った蛇頭のある首に滑歩を用い滑る様に移動しながら、連続で徹気拳を打ち込んだでいく。

 エルの混沌の気が内部に浸透すると破壊を振り撒き、首の中から爆発したようにはじけ飛ぶ。千切れた蛇頭も迫り来るが、どうやら胴に繋がっていないと溶解液も火球も吐けないようで、咬み付きを敢行するだけのようだ。

 千切れた蛇頭を左右に飛び跳ねながら回避すると、首のない九頭大蛇ヴァージャの胴体の上部目掛けて疾歩で大跳躍し、降り立った。

 首から先は再生しても心臓はどうだろう?

 エルは、今己のできる最高の技を放つことにする。

 大蛇の胴体を粉砕するかのような猛烈な震脚から全身を捻り、膨大な気を籠めた右掌に足から得た力を伝搬させ、大木も何本も重ねた様な太い太い胴体に上方から右掌を垂直に叩き付けた!!  

 そして、右掌が胴に当たった直後、白黒の入り混じった気を流し込む。気を拳に纏わせる武人拳、掌底による発剄の技猛武掌、そして攻撃後に気を敵に流し込む徹気拳を併せた、エルの轟破掌がその凶悪なまでの威力を九頭大蛇ヴァージャに撒き散らす。

 胴体は上方から大質量の物体に押し潰された様に巨大な跡を作り窪むと、その後内部から身が弾け飛んだのだ。

 肉は飛び、膨大な血によって池ができる。エルの身も深紅に染まった。

 驚異的な生命力を誇った九頭大蛇ヴァージャの本体も、胴体のほとんどを潰されれば活動を止め、動かなくなった。再生もしないようなので、胴体の中に弱点があったのだろう。心臓が何処にあるかわからなかったので、胴体全てを破壊する積りで轟破掌を放ち胴体を無残に壊したのが功を成したようだ。

 残るは未だに動き続ける首から千切れた蛇頭達だけである。エルは気による高速移動術によって嚙み付きをか避けながら、気弾や気刃をばら撒いていく。蛇頭は本体に繋がっていないので頭を潰せは終わりである。

 エルの気によって瞬く間に駆逐され、ついには全ての蛇頭を屠ることに成功した。

 全ての敵を倒した事を確認すると、エルは声も高らかに勝ち鬨を上げた。

 強敵との死闘を誇り、自身の勝利を知らしめるかのように……。


「エル、おめでとう

 これでお前も3つ星の冒険者だな」

「エルくん、おめでとう!!

 エルくんが飲み込まれた時ははらはらしたけど、それ以外は九頭大蛇ヴァージャを圧倒していたわね」

「エルくん、おめでとうございます。

 きっと勝つと思っていましたわ」

「ありがとうございます。

 これでみなさんとお揃いの3つ星ですね」


 守護者の落し物(ドロップ)を回収したエルに、ライネル達が口々に祝いの言葉を送った。エルも嬉しそうにはにかみながら、ライネル達にお礼を述べる。

 これで晴れて3つ星の冒険者である。エルもライネル達も、下位冒険者の中堅所になる資格を得たのである。


「さあて、これから宴会だ。

 さっさと宿に戻ろうぜ」

「ダムの言う通りだな。

 俺達は誰一人欠ける事無く、守護者を無事倒せたんだ。

 今日は羽目をはずして騒ぐぞ!!」

「ライネル、ほどほどにね」

「それにしても、激闘だったせいかもうお腹がすきましたよ。

 九頭大蛇ヴァージャ落し物(ドロップ)の心臓を早く食べたいです」


 エルがお腹をさする様にして空腹をアピールした。ライネル達の戦闘の前にたらふくサンドイッチを食べていたはずだが、もうお腹がすいている様子だ。もはや何処に出しても恥ずかしくない一人前の冒険者だというのに、まだまだ子供っぽい所が残っている。ライネル達は愉快そうに笑った。


「ふふふっ、それじゃあ迷宮都市アドリウムに戻りましょうか」 

「はい、早く戻りましょう」

「よーし、協会でさっさと昇格の手続きを終わしたら、宿で宴会だ」


 エル達は31階層へ転移すると、帰還用の転移陣の傍に立つ時空神クロスの像に転移の首飾りを翳し、情報を登録すると意気揚々と迷宮都市アドリウムに帰るのだった。


 宿では居合わせた他の冒険者を巻き込んで、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎになっていた。ライネルが今日の勘定を全て持つと宣言したおかげで、大騒ぎに発展していたのだ。ライネル達にしたら、数年振りの昇格である。3つ星への到達はよほど嬉しかったのだろう。今日ばかりはとライネルが大盤振る舞いしても、エミリーも文句は言わずこの宴に興じているようだ。今日の冒険譚をクリスと談笑しながら、おいしそうに迷宮の食材をふんだんに使った料理を味わっている。

 エルはというと多くの冒険者達に祝福され、祝杯を注がれては無理やり飲まされていた。酒の弱いエルは既にできあがっているようで、頬に赤みがさし椅子に座りこんでしまっている。これ以上飲まされたら、酔い潰れて寝てしまいそうである。


「ねえ、エル

 今幸せ?」


 思考が鈍くなっている所に、いつの間にか横に座ったリリが見惚れる様な笑顔を浮かべて聞いてくる。

 エルは、ゆっくりこれまでのことを回想した。

 順調に成長した所で、不運にも魔神に出会い挫折を味わった。絶望と力への渇望から暴走し、己一人では正気に戻れなくなった所を、兄貴分達の尽力によって助け出された。自分が如何に独り善がりで周りを見ていなかったか、思い知らされた。頼りになる心優しき仲間達が傍にいるのを、改めて気付かされた。

 そこからの再起である。カイ達やオルド達、そしてライネル達と冒険し、魔物を倒し力を付けていく。アルド神官との厳しい修行によって、新たな技を覚え実戦で使えるように練磨した。

 そして、ついには30階層の守護者も己一人で撃破できるまでに成長したのである。良き師と仲間達に恵まれたことで辿り着けたのだ。

 ああ、なんと幸福なことか。

 エルは眼が閉じそうな眠気に誘われながら、うっすらと笑みを浮かべリリに答えた。


「うん、幸せだよ。

 挫折もしたけど、みんなのおかげで立ち直ってこうして祝ってもらえるんだ。

 すごくうれしいよ」

「よかった。

 やっぱりエルは、笑っている姿が似合うわね」


 エルの答えに満足そうにうなずくと、リリも楽しそうに笑った。

 宴もたけなわなのか一段と回りも騒がしくなる。

 大声で騒いでるはずだが、酔いが完全に回ったエルには子守唄のようなものだ。夢見心地で、いつ眠りに落ちても不思議でない。リリもその様子がわかったのか、柔らかい笑みを浮かべて言葉を掛ける。


「エル、おやすみなさい。

 これからもよろしくね」


 優しいリリの言葉を枕に、陽気な気分でエルは眠りにつくのだった。 


 



 

 

 


 

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