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第32話

 20階層。

 森の深奥で守護者が転移陣を護る節目の階層である。この階層を踏破し21階層に到達できれば、晴れて2つ星の冒険者を名乗れるのだ。

 2つ星は冒険者の中でも重要な意味を持っている。この星を得ることで、一人前の冒険者と見做されるのだ。星なしの下位冒険者が1つ星を得ることで、ようやく冒険者として名乗りを上げられるようになる。そこから10階層上の、20階層に到達するまでには、無数の凶悪な魔物達が冒険者を待ち受けている。特に15階層以降の森林の迷宮では、森林狼フォレストウルフに代表されるように、魔物達が群れをなし冒険者に襲いかかってくる。実力不足は言わずもがなであるが、装備や道具の不備、あるいは仲間達との連携不足など、少しの油断で命を落とすことになりかねない、試練の階層でもある。20階層を踏破できず、その命を迷宮に捧げる冒険者は後を絶たない。実力と言ってしまえばそれまでだが、才能や努力が足りず、一生かけても2つ星に到達できない冒険者達も枚挙に暇がないほどだ。2つ星の称号とは、一般市民とは隔絶した実力を有し、人の力を超越した狂猛な魔物達の領域に踏み込んだ者にだけ与えられる、栄誉の証なのである。


 エルは何の感慨も抱かずに20階層に降り立っていた。19階層で希少な魔物(レアモンスター)である翠虎エメラルドタイガーを屠り、猛虎の全ての魔素を外気修練法で取り込んでから、わずか2日後のことである。何十何百の魔物達と争い死山血河を築き、神の御業によって魔物達の体を構成する魔素を余すことなく吸収し尽くしたエルは、目を見張らんばかりの驚異的な成長を遂げていた。もはや20階層の魔物でさえ相手にならない。命のやり取りのできない魔物など、エルには成長のための糧にしか映らなかった。飯を食らうような気楽さで魔物を捜し歩いては見つけ次第殴殺し、魔素を取り込んでいくのだった。

 だが、外気修練法によって魔物の魔素全てを吸収する方法は、通常の数十倍の魔素を手に入れられるという優れた利点を有するだけではなかった。魔素だけではなく、迷宮で闘争のみを行うことを宿命付けられた、魔物の魂も知らず知らずのうちに吸収していたのだ。魔物の魂を身の内に収めることによって、エルの純白の闘気は黒ずみ始め、思考にもノイズが混じり始めていた。闘いこそが至上の喜びであるという魔物の心だ。当初は残忍で陰惨な魔神、デネビアへのどす黒い感情に支配され復讐に囚われていたが、今では闘争によって自分が傷つき、相手を痛めつけるのが楽しくて仕方がない。エルは魔物の魔素と魂を取り込む度に、心身の急激な成長による全能感に酔い痴れ、己が心が少しずつ摩耗しているのにも気づかずに行為を繰り返していた。その行為は、邪神の1柱、暗黒神セロの高位神官が御霊喰い(ソウルイーター)を用い、人の身を超えた魔人になる邪法に良く似ていた。


 20階層を徘徊する魔物では満足できなくなったエルは、20階層の最奥にある転移陣に来ていた。

 転移陣を護る守護者は3体だ。

 すなわち、邪妖精ウィキィドフェアリー巨猿戦士(ハイエイプウオーリア)、そして巨大陸鮫メルカノドンである。


 邪妖精ウィキィドフェアリーは、守護者としては初めて出会う魔法主体の魔物であった。身の丈はエルの半身程度と小型で、体よりも大きな透明の羽を2対背中に有し、空を自由に飛び回る軽快な動きが身上の魔物である。可愛らしい顏を醜く歪め、すばしっこく動いては強力な魔法を放つ、捉えるのが面倒な難敵である。また、使用する魔法も多彩で、触れると破壊の力を撒き散らす爆炎の球や、半透明で回避の難しい大気の刃、そして吸い込めば肺を腐らせ体の内部を壊す猛毒の霧など、守護者の名に恥じない苛烈なものであった。ただし、この俊敏な魔物の欠点として、その身はか弱く生命力も乏しい点が挙げられる。

 エルも初戦闘では、縦横無尽に空を駆け強力な魔法を放つ邪妖精ウィキィドフェアリーには苦戦を強いられた。火炎に皮膚を焼かれ、大気の刃に身を裂かれ、毒の霧を避けきれず少量吸い込んでは喉から食道を爛れさせ血を流した。だが、守護者の強さが、エルを傷つけられるだけの強さを有してたいたことが、邪妖精ウィキィドフェアリーの不運でもあった。闘争本能に火が付いたエルは、連日大量の魔素を吸収し己がものとした膨大な気で、純白の部分の少なくなった漆黒の鎧を形成すると、少々の被害など気にも掛けずに突進し、宙に浮かぶ邪妖精ウィキィドフェアリーに雨霰と暗黒の気弾や気刃を放ち続けたのだ。無数の攻撃に、ついには回避できず羽を斬られ地に落ちれば最後だ。エルの黒い気に覆われた右足の踏み潰し、ただその一撃で防御力が低い守護者はその身を散らすのであった。

 また、守護者を構成する魔素は通常の魔物とは比べものにならず、外気修練法によって吸収したエルはあまりの量に感動すら覚えたほどであった。

 

 続いて巨猿戦士(ハイエイプウオーリア)であるが、こちらは小鬼の王(ゴブル)などと同様で、巌の様な堅牢な巨体に凶悪な攻撃力を有している、典型的な守護者である。加えてこの魔物は知恵も高く、周囲の木々を盾として用いたり、棍棒代わりにしたりもする。さらに、パーティ戦であれば弱い仲間を集中攻撃を加える様にみせ、逆に庇いに入った仲間に手酷い一撃を与える、奸智に長けた2つ星への壁として有名な守護者である。

 その身は全身黒茶色の固い剛毛に覆われ、身の丈はエルの2倍以上あろうかという巨体である。腕や足も人間とは比較にならない程長くて太い。皺枯れた老人のような顔に気味の悪い笑顔を浮かべ、きぃきぃと耳障りな奇声を上げていた。人に近い種であるせいかその醜悪さが際立ち、嫌悪感を及ぼすほどのかんばせであった。人を餌程度にしか思っていないだろうことは、言葉が通じずともその態度に如実に表れていた。

 巨猿戦士(ハイエイプウオーリア)の攻撃は、怪腕を駆使した怒涛の連撃であった。2つの剛腕から繰り出せれる攻撃はどれも凶悪で、大地を穿ち大木を叩き割るほどの破壊力を秘めていた。しかも、大地を抉った時に手に着いた土を用いて目つぶしを仕掛けてきたり、木や岩を引っこ抜いて投げつけたりと、実に豊富な攻撃手段を有していた。その息もつかせぬ連続攻撃には、エルも舌を巻くほどであった。

 だが、悲しいかな、この種の攻撃はエルがいくつもの死闘を通して経験してきたものだ。特に、デネビアの当たれば即死の連撃などは、魂を取り込み過ぎてもはや自我が保てなくなってきているエルにしても、色褪せない強烈な記憶として残っている。巨猿戦士(ハイエイプウオーリア)の猛烈な連撃をしても、あの残虐な魔神の攻撃には到底及びはしない。エルはいくつか攻撃を貰うことはありはしたが、漆黒の気を用いた守護者以上の疾風怒濤の連撃で魔物を撃ち滅ぼすのであった。


 そして今、また20階層の最奥の転移陣の前にエルは立っている。

 守護者と闘う条件は、別の階層から守護者の階層に訪れることのみである。つまり、21階層に転移した後直ぐに20階層に戻り、転移陣から離れれば再び守護者と闘うことが可能なのだ。守護者は迷宮を徘徊する魔物に比べて格段に強いが、その分吸収できる魔素も多く報酬も破格である。特に、希少な落とし物(レアドロップ)を手に入れられれば大金も夢ではない。加えて、流通量も少ない守護者の戦利品はいつも品薄で、オークションやギルドのクエストでもいつも要望があるくらいだ。エルの用いた手法は、冒険者達が守護者と連戦するために使われる常套手段であった。

 エルは既に邪妖精ウィキィドフェアリーを5体、巨猿戦士(ハイエイプウオーリア)を8体仕留めていた。戦利品と共に、守護者の魔素や魂を外気修練法で吸収し、更なる成長を遂げている。エルの自我は霞が掛かり、自分の目的さえも怪しくなってきている。ただ強敵と闘い喰らいたいという欲求のみが肥大していった。


 21階層へ転移陣から離れると、その傍から一際巨大な影が出現した。

 20階層最大の強敵、巨大陸鮫メルカノドンである。この魔物は25階層の守護者にも匹敵ほどの強さを有し、出会ったら即逃げることを推奨される魔物だ。尾鰭から頭までの全長は砂礫竜サンドドレイクよりも長く、背鰭を除いた背中までの高さにしてもエルの何倍もある、あまりにも大きい、小山のような大鮫である。巨大陸鮫メルカノドンの感情のない冷え冷えとした瞳がエルを獲物と認識し、巨大な、狂猪マッドボアの巨体であろうと一飲みにしそうな大口を開け、何でも噛み砕きそうな鋭いノコギリの様な歯を光らせている。

 巨体であるということは、それだけで脅威だ。人間は、いや動物は本能的に己より大きなものを相手にすると恐怖を抱く。自分以上の力を有することを視覚的に感じ取るせいかもしれない。巨大陸鮫メルカノドンは小山ほどのとてつもない大きさであり、体重なんてエルの百倍近くあると推測される。通常なら砂礫竜サンドドレイクと初めて遭遇した時のように、魂の根源に根ざされた畏れによって身が竦んでもおかしくない。しかし、エルは犬歯を覗かせ獰猛な顔で嗤うだけで、動揺など微塵も見せない。魔物の魂を、そして守護者の魂を取り込んだエルは、人間染みた弱い心も少なくなっていたのだ。強敵との激闘の予感に胸躍らせると、もはや白い部分がほとんどない暗黒の気に身を包み、戦闘の開始を告げる獣じみた咆声を上げるのだった。

 エルの怒号の声に呼応するかのように、巨大陸鮫メルカノドンが動き出す。エル目掛けてその巨体を左右にくねらせながら、大口を開けて接近してくる。この魔物の攻撃手段はシンプルだ。その口で敵を噛み砕くか、身体を振った尾撃ぐらいしか持ち合わせていない。それでは、何故この魔物が20階層最大の敵と呼ばれるのだろうか。それはこの噛み付きを防ぐことができないからである。大盾で防ごうにも、この大口なら盾ごと飲み込まれてしまう。防御する術がないのだ。前衛殺し、盾殺しなどの数々の異名で呼ばれるこの咬み付きは、動きの遅い重戦士や魔法使いの命を1撃で刈り取る死神の鎌なのだ。巨大陸鮫メルカノドンは、まさに防御重視のパーティの天敵であり、絶対に闘ってはいけないとされる強敵なのである。

 だが、疾歩や迅歩などの高速移動術を有するエルにとっては、攻撃範囲は広くともそこまで早いと感じる攻撃ではない。気を足に貯めると、疾歩によって高速で真横の飛び退く事で、大鮫の顎門を余裕を持って回避した。巨大陸鮫メルカノドンはエルを通り過ぎると、巨体ゆえに直ちに止まる事ができず、エルの後方の木々に突っ込んでしまった。そのまま大口に大木を収め咀嚼しているようだ。この大鮫は性格も獰猛で食欲も旺盛である。何でも飲み込み食べてしまう。胃などの消化器官の発達しているであろうことは容易に想像が付く。飲み込まれてしまえば、エルなど簡単に溶かされてしまうだろう。

 尾を左右に振って方向転換する間に、漆黒の気弾や気刃をばらまいてみる。巨鮫の青く澄んだ鮫肌の表面はびっしりと金属と見紛うばかりの楯鱗に覆われている。この楯鱗は魔鉱製の鎧と遜色のない、いや、下層の魔鉱製の鎧など歯牙に掛けないほどの防御力を持っている。エルの気の攻撃を受けても、表面が浅く傷つく程度であった。加えて、大鮫は生命力も高いので、長期戦は必至である。疲弊し注意力が散漫になり回避を怠れば、あの大口で咬み付かれ即死の可能性もあり得る。なんとも厄介な強敵である。エルは拳を握り締めた。自分の最大の攻撃力を誇る武人拳をもって、あの強固な表皮を突破する心算なのだ。だが、そのためには至近距離まで接近する必要がある。

 竜巣に入らずして竜卵を得ず

 危険を冒さずして、どうして望みを得られようか。エルは自我が薄れ、次第に闘争に特化した思考のみがクリアになっていく。闘いに無類の喜びを覚えながら、その他のことは頭の中から消え去って行った。そう、デネビアへの復讐心さえも……。


 エルは吠えた。

 巨大陸鮫メルカノドンの咬み付きを避けると、通り過ぎる巨体に追い縋り横鰭のある体の中央付近に高速で接近する。そして、尋常でない多量の気を右拳に纏わせ、渾身の中段突きを大鮫の横腹に叩き込んだ。

 はたしてその攻撃は、気の攻撃では弾かれた表皮をやすやすと突き破るのだった。

 気の力とエルの鍛えた肉体、そして何年も磨きに磨き抜いた技が合わさり、強固な楯鱗を貫いたのである。穿たれた肉体から血や体液が流れ出る。

 巨大陸鮫メルカノドンもこの攻撃には痛みを感じたのか、大暴れを始める。横原付近にいたエルに、その巨体を活かした体当たりを仕掛けたのだ。エルと比べるのもおこがましい巨体の体当たりである。至近距離では回避は困難である。気の鎧で防御したので酷い怪我を負うことはなかったが、体当たりの勢いに抗えず遠くに転がされてしまう。

 ゴロゴロと地面を転がるも、慌てて体勢を整え飛び上がるように立って魔物を探すと、なんとあの巨体が影も形もないではないか!!

 刹那の間にエルの生存本能が警鐘をかき鳴らす。この場に留まっていては危ない。

 エルは本能の告げる危機に従って、全力で気を練り足に纏うと強靭な脚力で大地を砕き、かつ気を推進力として用いて高速で横で飛び退いた。

 その直後、天から地獄への扉が降ってきた。

 なんと巨大陸鮫メルカノドンはあの巨体で天高く跳びあがり、真上からエルを捕食せんと急襲したのである!!

 エルの高速移動で窮地を脱したが、もし魔物を探そうとあの場に留まっていたら、死を賜っていたかもしれない。あの小山の様な身体からは想像すらもできなかった、予想外の方向からの攻撃である。

 エルは大声で可笑しそうに嗤った。敵の強さに、その強靭の肉体に愛おしささえ感じるほどである。激しい闘気を漲らせ目をギラギラと輝かせると、今度はこちらの番だとばかりに暗黒の気を身に纏った。攻撃方法が分かってしまえば、元々攻撃手段に限りがある魔物である。加えて、先程のエルの武人拳によって、自慢の鎧に穴が開いている。最大の攻撃であり、ほとんど唯一の攻撃と言っていい咬み付きを回避し様に、そして回避して大鮫が振り向くまでの大きな隙に、鮫肌を破り肉を覗かせる部位に気弾をいやと言うほど叩き込んでいく。楯鱗のない身の部分では、エルの暗黒の気弾を防げるわけもない。気弾が炸裂する度に身は裂け、夥しい血や体液を流し傷付いていく。エルは慈悲も容赦もなく、猛り狂った様に攻撃の手を休めない。幾十、幾百の気弾が巨大陸鮫メルカノドンの傷目掛けて降り注いだ。

 やがて、大鮫の身体はに巨大な穴が開いた。血と体液による池ができるほどだ。鮫の体液が気化し、辺りに鼻を突く刺激臭が充満している。身は削がれ、骨も砕かれ、真っ赤な心臓も大気にその姿を晒していた。

 徐々に動きは悪くなってきているが、それでも大鮫はエルを喰らわんと攻撃の手を休めない。呆れるほどの脅威的な生命力である。だが、もはや闘いの趨勢は決していた。このまま気弾で心臓を破壊すれば、さしもの巨大陸鮫メルカノドンといえど死を迎えることは間違いない。しかし、遠距離攻撃の気弾で倒してしまうのは、少々味気ないとエルには思えた。ここは、試行錯誤中の新技で止めを刺そうと意を決した。

 エルが今まで見た中で最も強い攻撃、アルドが一度だけ見せてくれた轟天衝だ。

 いや、轟天衝に似せた技である。

 もちろん、エルが如何に才能があるといえど、神の御業である轟天衝を会得することは並大抵の努力では不可能である。完全に修得にするためには長い年月が必要だ。エルが今試行中の技は、轟天衝の要訣を基にした独自の技である。轟天衝は、拳に気を纏うと共に発剄を行い凶悪な攻撃を放つと共に、攻撃を加えた刹那、膨大な気を解放し竜巻を模した気の奔流を至近距離で喰らわせる秘奥義なのだ。つまり轟天衝とは、肉体に気を纏わせた攻撃、発剄、そして攻撃後の一瞬の内に気の解放による更なる加撃を加えるという、3つの要素から成立つ複合技なのだ。エルは既に武人拳などの気を身体に纏わせた攻撃法、そして猛武掌や短震肘、纏震靠などの発剄の技も修めている。加えて、気弾や気刃などの気の遠距離攻撃技も持っているのだ。後はこの3つを合わせればよいのだ。

 貧狼もかくやとばかりの野獣の様な貌で嗤い、巨鮫を待ち受ける。

 巨大陸鮫メルカノドンは大穴から多くの血が流し、身が切れるほどの痛みを味わいながらも咬み付きを敢行する。

 健気ささえも覚える鮫の大口を、エルは無情にも横に大きく飛び退き回避すると、足に気を籠め一瞬で間合い詰める。攻撃が終わった直後の巨鮫は、自分の身体を止めるために隙ができている。

 エルより大きな真っ赤な身を大気に晒し、生命を鼓動を奏でる巨大な心臓に、暗黒の気を纏ったエルの右掌が唸りを上げて迫る!!

 大地を割る震脚によって得た力を、全身の捻りによって掌に集中させた発剄、猛武掌に気を纏わせた武人拳の複合技である。漆黒の気を纏わせた猛武掌が炸裂した刹那、掌に貯めておいた大量の気を無秩序に開放し、気による更なる破壊を撒き散らした!!

 

 発剄の力はただでさえ恐ろしい。外部に強烈な衝撃を与えると共に、衝撃を内部に浸透させ破壊させることもできる。その力を気によって何倍にも増幅させるのだ。そして、その驚愕の一撃の後に気の解放による追撃が加えられるのだ。

 エルの壮絶なる攻撃は、巨大陸鮫メルカノドンの心臓など木端微塵に爆散させ、その巨大な肉体をも2つに裂けるほどの、身の毛もよだつ戦慄の破壊を振り撒いた。


 轟破掌


 それが、アルドの轟天衝を基に編み出した驚愕の奥義である。しかし、今の一撃は気の解放が遅く、アルドの見せた御業ほどの威力が出せていない。加えて無秩序の気による全方位攻撃ではなく、一点特化して威力増した気の本流にしたり、発剄の様に気を性質変化させ振動のような波として伝える等の、改善の余地もあるだろう。

 だが、エルは嗤い声を上げるのを止められなかった。

 未だ試行錯誤の攻撃で、この威力である。

 完成したらいったいどれほどの破壊をもたらせるか、想像するだに愉快でまた嗤いが込み上げてくる。

 げらげら嗤いながら外気修練法にて、巨大陸鮫メルカノドンの骸が魔素に変換され次第、迷宮に還る前に猛烈な勢いで己が身に取り込んでいく。

 全ての魔素を吸収し尽くす頃には、純白の気など何処にもない。エルの気は完全に闇のように黒い、漆黒の色に変わっていた。

 そして、エルの自我も深い闇の中に落ちており、もはや闘いのことしか眼中になかった。

 ただ敵を屠っては喰らう、闘いのみに生きる修羅が生まれ堕ちた瞬間であった。

  

 



 


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[一言] 討伐されて、新しい主人公出てくるのかなぁ
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