表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/107

第19話

 決戦の時が来た。

 真新しい防具に身に包み、陽光を反射して眩く輝く魔鉱製の武器を抜き放つと、カイは仲間達に激を飛ばす。


「皆、準備はできてるな?」

「ええ、問題ないわ」

「よし。

 それじゃあ、後は昨日の打ち合わせ通りに守護者と闘うだけだ。

 必ず勝って新人ルーキーを卒業するぞ!」

「「「はい」」」


 皆一応に士気が高くやる気に満ちている。その様子をエルは間近で見ながら破顔すると、4人に声援を送った。


「皆、頑張って。

 でも、一番大事なのは皆の命だからね。

 どうしても無理だと思ったら逃げて、再挑戦してもいいんだからね」

「ああ、死ぬつもりはねえよ。

 闘ってみた感触次第だが、皆に生命を賭けさせるほどの無理はしねえさ」


 エルはカイの言葉に頷くと静かに後ろに下がった。ここからは自分の出る幕はない。4人の戦場だ。見守る事しかできないのが歯痒いが、今迄共に努力してきた彼等の力を信じてエルは精一杯の笑顔を浮かべた。


 4人はカイを先頭にゆっくりと5階層の転移陣に向かって行った。

 すると転移陣の手前に眩い白光と共に巨大な魔物が現れる。小鬼の王(ゴブル)の出陣だ。右手に長大な棍棒を掲げると、大気を震わせるような咆哮を上げカイ達をねめつける。

 小鬼の王(ゴブル)のあまりの威圧感に、ミミは思わず小さく悲鳴を上げてしまう。

 カイは負けじと大声を張り上げ仲間を鼓舞する。


「怖気付くな!

 今まであんなに努力してきただろ。

 俺達は負けない」


 仲間達の強張りが薄れ出すのを見ると、カイは再度大声を出しながら守護者目掛けて駆け出した。シャーリー達もカイの勇気溢れる行動に戦意が高揚すると、カイに遅れまいと後を追って走り出す。

 だが、カイが剣を持っていたとしても小鬼の王(ゴブル)の方が間合いが広い。

 カイが接近するのを見て取ると、魔物は片手で棍棒を天高く掲げると無造作に振り下ろした。重い棍棒が小鬼の王(ゴブル)の怪力によって信じられない速度でカイに迫る。カイは咄嗟に真横に大きく飛び退き凶悪な一撃を回避すると、棍棒はそのまま大地に激突し、爆発したかと錯覚するほどの大音響を発しながら地面を陥没させた。

 背筋が凍る様なぞっとする攻撃だ。

 昨日、エルが守護者との戦闘を見せてくれなかったら回避できなかったもしれない。もし頭などに真面に受けたなら、一撃で戦闘不能になってもおかしいほどの剛撃だ。そんな恐ろしい考えが頭をよぎると、カイの首筋に冷たい汗が伝った。

 だが、直ぐ様かぶりを振ると、カイは己を強く叱咤した。自分が闘わねば誰が仲間を守るのかと。

 幸い魔物は獲物を地面に叩き付けたばかりで隙ができている。意を決したカイは剣を腰だめに水平に構えると、全身ごと体当たりをするかの様な突きを放った。

 小鬼の王(ゴブル)の攻撃後の隙をついたカイの渾身の突きは、避けられることなく魔物の右脇腹に突き刺さった。

 しかし、強靭な筋肉に阻まれ表面を浅く傷付けただけで、カイが歯を食いしばりながら力を込めて押し込もうとしても刃はびくともしない。鋼鉄の鎧を着ていると言われても納得できるほどの恐ろしく堅牢な肉体である。

 カイが剣を押し込めることに集中している束の間、小鬼の王(ゴブル)は体勢を整えると、目の前の小賢しい獲物を叩き潰さんと棍棒を振り上げた。カイの方も事態の変動にようやく気付いたが、魔物は今にも得物をカイに叩き付けようとしている。もはや避けることはかなわず、受けるしかない。自分の不明を恥じながらきつく歯を噛み締めると、四肢に力を込めカイは己が剣で棍棒を防ごうと試みた。

 ところが、カイを叩き潰さんと武骨で長大な棍棒を振り下ろそうとする小鬼の王(ゴブル)にむかって、後方から高速の矢が飛来した。しかも、魔物の目元に向かって突き進んでいる。さしもの小鬼の王(ゴブル)も目は弱点なのか、攻撃を中止すると長大な棍棒を顔前に掲げて矢を弾いた。

 だが、矢を防御したことでカイが動く余裕ができる。慌てて小鬼の王(ゴブル)から大きく飛び退くと、シエナに短く礼を言う。


「シエナ、助かったよ」

「カイ、集中して。

 エルが小鬼の王(ゴブル)の攻撃を受ける時、どうするって言ったか覚えてる?」


 シエナの注意を聞いて、カイは知らぬ間に強大な魔物と相対することで、我を忘れて熱くなり過ぎていることに気付いた。ゆっくり息を吐き出すと、昨日のエルとの会話を回顧する。真面に受けず、相手に突っ込んで武器の根元か手の部分で受けるようにとエルに助言されたことを思い出す。冷静さを欠いた自分の不様な行動にほぞを噛むが、危険な攻撃を受ける前で良かったと楽観的に受け止めることにした。

 カイは頬を叩くと気合いを入れ直し、仲間に声を掛ける。


「みんな、ごめん。

 さあ、ここからが本番だ!」

「ええ、昨日皆でたてた作戦を思い出しながらいきましょう」

「がっ、頑張ります」

「みんな、慎重にね」


 カイは仲間達の声にしっかりとうなずくと、舌なめずりして待つ醜悪で巨体な魔物に再び突撃を敢行した。

 長い長い死闘の幕開けであった。

 

 そこからはカイ達と小鬼の王(ゴブル)との一進一退の攻防が続いた。

 カイも慎重に立ち回ってできるかぎり魔物の攻撃を避け、どうしても回避できないものだけを相手に肉薄して威力を減じさせながら受け止めた。

 だが、受けるのは小鬼の王(ゴブル)の剛撃である。上手く受けても、剣を持つ両腕が痺れる。また、完全に受けきれずに棍棒の一部が顔に当たって負傷したり、時には受け止めきれずに吹き飛ばされ、地面に転がされることもあった。

 カイが危機に陥った時には、シャーリーやシエナが急所を狙った鋭い一撃を放ち、魔物の追撃を妨害した。時間が稼げたことによってカイが窮地を脱し、体勢を立て直して再び小鬼の王(ゴブル)に突撃できたのだ。連日の迷宮の戦闘で培った仲間との連携である。後ろから観戦していたエルも思わず手に汗握る、カイ達の成長であった。

 そして、ミミもこの強大な魔物との戦闘で大活躍していた。カイやシャーリーが傷付き負傷すると、すかさずミミが癒しの魔法を唱え傷を癒す。そのおかげで、カイは傷つく事を恐れずに、正面から小鬼の王(ゴブル)と対峙する事ができたのだ。まさにミミが継戦の要といっても過言ではなかった。

 また、シャーリーはひたすら魔物の側面に回り込み、偃月刀グレイヴで攻撃を加え続けた。急所以外は通らないとエルに言われたが、試しに側面から脇腹に刃を薙いだが、肉を抉る所が全く刃が立たず弾き返されてしまった。予想通りとはいえ厳しい現実に萎えかけるが、この凶悪な魔物に真正面から立ち向かうカイやミミ、そしてシエナの姿に勇気づけられ、シャーリーは自分の役割、すなわち仲間が窮地に陥った際の時間稼ぎと余裕がある時の急所狙いの攻撃、に徹することにした。その甲斐あってか、カイが致命の一撃を受けることなく危機を脱せたは、ひとえにシャーリーの尽力の賜物であったと言える。シャーリーは自分の役割に忠実に遂行し、仲間が危険な攻撃を受けないように努めた。

 シエナは寡黙に矢を射続けた。ある時は小鬼の王(ゴブル)の隙を狙って、またある時は仲間の窮地を救うために矢を放ち続けた。ただし、強靭な肉体を有する魔物は急所以外では矢を受けても全く痛痒を感じず止まらない。必然的にシエナは急所である、目や耳、あるいはのどを狙い続けるしかなかった。しかも、仲間達の状況を見極めながら適切な時に矢を放なたなければならなかった。その疲労たるや想像を絶するに難くなかったが、シエナは気力を振り絞り矢を射続けた。


 この4人の力が合わさる事によって、はじめて小鬼の王(ゴブル)と戦闘を続けることが可能になった。強敵と渡り合い、綱渡り的な危ない状況を仲間との連携によって切り抜け闘い続けた。

 そこには、エルが当初出会ったような慢心した頼りない新人達の姿は微塵もなく、立派に成長した一端の冒険者達の姿があった。彼等の成長と奮戦ぶりに、エルは感動を禁じ得なかった。エルは自身が昂ぶるのを覚え、つい自分も参戦したい気持ちが芽生えたが、4人の奮戦に水を差すまいと拳をきつく握りしめて堪えながら、静かに彼らの戦闘を見守った。


 やがて、終わりの時がきた。

 傷を負い疲労を相まって雑になった棍棒の横薙ぎをカイが接近し根元で受け止めると、シエナの鋭い矢が左目に突き刺さったのだ。魔物の隙を見逃さない、シエナの性格の表れた一撃であった。

 小鬼の王(ゴブル)が顏を手で覆いもがき苦しむところを見逃さず、今度はシャーリーが粗末な腰蓑の奥にある一物に偃月刀グレイヴを突き立てた。岩より硬い筋肉に覆われていない性器はやすやすと刃を通し、血を噴出させると共に魔物の口から絶叫を上げさせる。さすがの小鬼の王(ゴブル)といえども激しい痛みに耐えかね、ついには膝をついてしまう。下がった頭の位置は、カイの剣の届く絶好の場所であった。

 カイは顔面も固い可能性を考えて、残った右目に全身全霊の突きを放った。体中に激しい苦痛を受けた魔物はカイの一撃を避ける余裕など存在せず、そのまま右目に刃が迫るのを茫然と見つめるしかなかった。カイの全力の一撃は右目を通り越し、脳まで突き刺さる必死の一撃であった。小鬼の王(ゴブル)は声を上げることもできなくなり、前のめりに倒れ伏すと動かなくなり、やがては消え去った。カイ達の苦闘の末の勝利であった。


「やった。

 やったぞー!!」


 カイは疲れを忘れたかのように大声で勝鬨を上げた。女性陣も顔をほころばせる。長い闘いのすえの勝利である。この勝利の味は一入であった。


「みんな、お疲れ様。

 みんなの今までの成果が出た、凄い良い闘いぶりだったよ。

 見ていて思わず僕も闘いたくなったほどだったよ」


 エルが掛け値なしの賛辞を4人に送った。カイ達も小鬼の王(ゴブル)相手に理想に近いような連携が取れて大満足であったし、エルの賞賛にさらに笑みが深くなる。


「エルさん、今までありがとうございました。

 これで私達は新人ルーキー卒業ですよね?」


 ミミがうれしそうに尋ねてくる。エルも笑顔で返答した。


「うん、そうだね。

 これでみんなは下位冒険者さ。

 皆本当に良く頑張ったね。

 おめでとう」


 エルの言葉をそれぞれが思い思いに噛み締めた。カイは言葉通りに称賛を受け止め、喜びが抑えきれないのかにやけている。シャーリーは今迄の苦労が報われたのが嬉しいのか、晴れ晴れとした表情になる。ミミはエルとの冒険の日々を思い出したか、喜びもさることながら感謝の気持ちが溢れた。そして、普段は全く表情が変わらないシエナも、この時ばかりはぎこちない笑顔を浮かべた。エルは4人に笑顔を浮かべると、ふと思いつきを提案することにした。


「それで今日の夕食だけど、僕から皆へのプレゼントということでおごらさせ貰おうと思うんだけど、いいかな?」

「そんな、エルさんには色々よくしてもらっているのに悪いですよ」

「みんなの頑張りを見ていたらうれしくなってね。

 ここは気にせずおごらせてくれないかな。

 それに、お金のかかる迷宮の食材は今から取りに行こうと思っているから大丈夫だよ」

「えっ、今から行く気なのか。

 エル、大丈夫か?」


 エルの言葉にカイが驚いたように疑問をぶつける。今は夕方近いが、まだ時間はある。カイ達はこれから協会で下位冒険者の話を聞かなくてはならないし、心身ともに疲弊しているからすぐには食事は取れないだろう。すこし遅めの食事になるだろうから、エルにとっては都合がいい。


「うん、みんなも疲れているだろうから休んでからの食事の方がいいでしょ?

 遅めの食事ならまだ十分時間があるから、大丈夫だよ」

「エルがそれでいいなら俺はうれしいが、本当にいいのか?」

「うん、ここは下位冒険者への祝いだと思って気にせず受けてくれればいいよ」

「エル、ありがとうね。

 うれしいわ」

「エルさん、すいません

 ありがとうございます」

「エル、ありがとう」


 皆からのそれぞれの感謝の言葉にエルも自然と笑顔が浮かぶ。

 エルは4人の疲弊具合を少しはとれたのを見てとると、移動を促した.


「それじゃあ、転移陣を使って町に戻ろうか。

 協会の受付カウンターに行って、冒険者カードを更新してもらおうよ」

「おう、これで下位冒険者か楽しみだぜ。

 みんな行こうか」

「ええ、わかったわ」


 エルはカイ達を先導して転移陣をくぐり6階層に降り立つと、地上への帰還用の転移陣の使い方を教え、4人と共に帰還した。

 エルは10階層に転移すべく、ここでカイ達に一時の別れを告げた。


「僕はこれから迷宮に潜ってくるから、みんなは協会に行った後に宿で休んでいてくれないかな?」

「わかった、エルも気を付けてな」

「うん、かったよ。

 それじゃあ、夕食を楽しみにしててね」


 女性陣からの別れの言葉を聞きエルも笑顔で返答すると、エルは一人10階層に赴いた。

 4人の素晴らしい戦闘で昂ぶりを覚えていたエルは、この熱を開放すべく直ちに魔物を探し始めた。そして、4人との楽しい夕食に思いを馳せながら手当たり次第に魔物を狩り、今日の楽しい一時に華を添えるであろう美味な食材をかき集めるのであった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ