第14話
協会までの大通りを、エルは道行く人を上手に避けながら走り抜けセレーナのいる受付に息せき切って駆けつけた。
昼前の空いた時間のせいか、受付付近にはあまり冒険者の姿が見られない。
ちょうど人のいないセレーナの受付に呼吸を荒げながら詰め寄ると、エルは早口で捲し立てる。
「セレーナさん、聞いてください」
「ちょっ、ちょっと、エル君。
何があったか知らないけれど、まずは落ち着いて」
エルの余りの勢いにセレーナは及び腰になったようだ。
エルは聊か礼を失した態度にまずいと感じたのか、大きく深呼吸して態度を改めると頭を下げる。
「すいません。
驚かせてしまったみたいで、申し訳ないです。
嬉しいことがあって興奮していました」
「そんなに嬉しいことがあったの?」
「はい、実は神の御業への試練の啓示を授かったんです」
「まあ、凄いじゃない。
エル君、おめでとう」
「ええ、とてもうれしいです」
エルは弾けんばかりの笑顔を見せる。セレーナも内容が内容なだけにエルの興奮ぶりに納得すると、本題を促すことにする。
「それで私に聞いてほしいことって何かな?」
「実は、試練の内容が未熟な新人達を冒険者にしろって、内容なんです。
セレーナさん、心当たりはありませんか?」
新人といっても、迷宮都市には冒険者になろうと毎日の様に多くの人々が訪れる。心当たりが多すぎて特定できない。
セレーナは啓示の詳細を聞き出すことにした。
「エル君、試練の詳しい内容を教えてくれない?」
「はい、齢も近い若く未熟な新人達を心身共に鍛え上げ冒険者足らしめた後、10階層を守る守護者を己独りで打ち倒せ、とのことです」
セレーナは神託の内容を吟味する。
齢も近いとは、エルと同い年辺りということだから15歳前後ということだ。また、未熟な新人達ということだから、新人でパーティを組んでいるものに限られる。そして、心身共に鍛え上げろというお告げは、肉体や技を鍛えるだけでは不十分で今のままの心の在り様では冒険者になれない、あるいはなれたとしても続かない可能性が高い人物達とも考えられる。
要約すると15歳前後の新人のパーティで、肉体だけでなく心も鍛えないといけない未熟な者達となる。
そこまで限定すれば該当する者達も特定できる。
セレーナはエルとほぼ同時期に迷宮都市を訪れた新人で、冒険者が続けられるかどうかの瀬戸際の4人組のパーティが思い浮かんだ。おそらく彼らのことだろうと当たりをつける。
「エル君、私に心当たりがあるわ」
「本当ですか?
それなら助かります」
「彼らは既に迷宮探索に出ていると思うから、受付に戦利品を売りに来た時にエル君のことを話しておくわ」
「ありがとうございます。
今度何かお礼の品を持ってきますね」
「ふふっ、期待して待ってるわ。
それじゃあ、明日の朝にでも顔合わせしましょう。
待ち合わせ場所はここでいいかしら?」
「ええ、構いません。
セレーナさんに相談してよかったです。
非常に助かりました」
「いいのよ。
一人でも多くの新人が冒険者になってくれれば、私も嬉しいわ。
でも、エル君にお願いするパーティは大変よ。
正直私から見ても危なっかしくて見てられなかったよ」
「それほどですか……。
僕で大丈夫か心配になってきました」
喜び勇んでいた心が、現実の問題に直面し急激に冷える。自分を鍛えるのとはわけが違うのだ。
加えて、エルは人付き合いが苦手で今迄表面上の付き合いしかしたことがない。また、他人の機微に疎く口下手なので、自分が上手く新人達を導けるか懸念がある。武神も難解な試練を与えてくれたものだ。
思い悩み青褪めるエルをセレーナが優しい眼差しで励ます。
「そんなに悩まないの。
同時期に冒険者になった人達の中でも、エル君は非常に優秀よ。
30日も掛からずにソロで8階層を探索できるようになったのは、エル君ぐらいなんだから。
自分に自信を持っていいのよ」
「そうでしょうか。
でも、僕は人付き合いが苦手で……」
「神様もエル君の苦手なことを克服させようと、この試練を課したんじゃないかしら?
だいじょうぶ。
誠意を持って接すれば、きっと彼らも心を開いてくれるわよ」
セレーナの言葉にエルはなんとか頷く。
超常の力を有する神のことである。この試練はエルが乗り越えなくてはならないものだと判断したのだろう。
ならば、この試練は冒険者として成長するためにも避けて通れないものなのだ。
エルは自分の弱気を振り払うと、必ず試練に打ち克ってみせると決意を新たにした。
「セレーナさん、ありがとうございます。
おかげで落ち着きました。
とりあえずやれるだけの事はやってみます」
「ええ、その意気よ。
頑張って。
それで、面会は明日だけと今日はこれからどうする?
迷宮に探索に行くかな?」
セレーナの問いにどうするか自問する。
未だ昼前であり時間も十分にあるので、いつも通り迷宮に潜るのも悪くない。 神の試練の事で頭が一杯になっていたが、先ほど発剄を成功させたばかりなのだ。魔物相手の実戦で新技を試してみようと気合を入れ直す。
「今から迷宮にって、8階層に潜ってきます」
「わかったわ。
クエストはどうする?」
「そうですね……。
多分いつもの豚鬼の戦利品関連になると思いますが、豚鬼のクエストは数が多く無くならないので、迷宮探索後の戦果をみて考えますよ」
「ええ、わかったわ。
それじゃあ、気を付けて行ってらっしゃい」
「はい、行ってきますね」
セレーナに別れを告げると、エルはやる気を漲らせ足早に迷宮に向かうのだった。
8階層に降りたエルは、ようやく体得できた発剄の技である猛武掌を実践に投入し、心置きなく魔物達にその猛威を振るった。
岩蛙の頑強な皮膚を容易く砕き、豚鬼の丈夫な
魔鉱製の鎧ごと陥没させ、体中の穴から血を墳血させ惨たらしく殺めたりもした。さらに、狂猪の突進を猛武掌で跳ね返すだけでなく、そのまま鼻を潰し頭部に衝撃を徹すことで脳を破壊し絶命させたりもした。
発剄の恐ろしい所は、掌底の威力を高めるだけでなく内部に衝撃を伝えられることだ。エル自身もアルドから発剄を受けて体験しているが、手加減された発剄の一撃さえ、衝撃が腹筋を越えて内臓まで到達し苦痛で倒れこむほどであった。
魔物相手に手加減なしに放った猛武掌は、あっけいないほど簡単に魔物の内臓を破壊し殴殺できるほどであった。猛武掌は気を用いた武人拳と遜色がないほどの脅威的な威力を持っていたのだ。
ただし、欠点も存在する。まず、両足がきちんと大地に接する事ができる状態でなければならい。さらに、全身の回転運動に加えて筋肉を締めるので、硬直が長く隙が大きいことが挙げられる。
今の所エルの攻撃を躱せる魔物には遭遇していないが、将来出会わないという保証はない。今後のためにも発剄の絶大な威力を保ったまま隙を失くし、連続で放つ事ができる様になる必要があるだろう。
それにしても、苦難の末に新技を覚えたと思ったら直ぐ様新たな課題ができる。武術とはなんと深淵なものだろうかと、エルは感嘆せずにはいられなかった。まるで、果てしなく続く坂を昇り始めた様である。
だが、エルはこの坂を途中で降りる心算など欠片ない。伝説に謳われる英雄達との距離がどれほどあるか皆目見当もつかないが、課題を一つ一つ克服し必ず到達してみせると故郷を旅立った時と些かも変わらぬ情熱を再確認し、エルは魔物達との血で血で洗う激闘に身を投じるのであった。
翌日、早朝から協会に赴き、受付にて件の新人達の面会を果たした。
彼らは4人組のパーティであった。傷んだ革鎧に身を包み腰に長剣を差した長身の青髪の青年に、片刃の偃月刀を携えた赤髪の短髪の少女。そして粗末な(聖衣)ローブに樫の杖を持ち頭衣から獣耳を除かせる小柄な獣人の少女に、矢筒と木製の長弓を背負ったエルフの少女の4人組だ。
全員の装備が使い古され薄汚れた印象を受ける劣悪なものだ。金銭的に困窮していて装備を整える余裕がないのだろう。
また、彼らはエルをを歓迎しているとはわけではないようだ。拒絶が二人、不安が一人、そして無関心が一人といった負の感情しか顔に浮かべていない。
いつまでも無言のままではいられないので、努めて明るい声を出しエルは挨拶を交わすことにした。
「はじめまして。
僕はエル。
星なしの下位冒険者です」
「俺はカイ」
「あたしはシャーリー」
「わっ、私はミミです」
「私はシエナ」
「あんたは大層優秀な冒険者だそうだが、俺達には必要ない。
俺達だけでもちゃんと冒険者としてやっていけるんだ」
名前を交わすや否やの拒否の言葉である。シャーリーも同意見らしく、カイと同様に全身から強い拒絶を露にしている。ミミは不安な様子なまま、視線が落ち着かずにカイとエルの間を彷徨っている。シエナは我関せずといったところだ。
エルとしては導くべき新人達との邂逅に期待を寄せていた分、初っ端からの拒絶に意気が見る間に減衰していく。
事の成行きに面食らっているセレーナに、訝しげに低い声で問いかける。
「セレーナさん、彼らは僕の助けは要らないそうですが?」
「エル君、本当にごめんさない。
昨日きちんと言い聞かせたつもりだったけど、まだ納得がいっていなかったようだわ。
この子達には本当にあなたの助けが必要なのよ。
皆も意地張らないで。
あなた達はこのままだと1週間もせずに路頭に迷うことになるわ。
今が冒険者を続けられるかどうかの瀬戸際なのよ」
セレーナが切羽詰った声でカイ達の説得を試みる。セレーナの言葉には不承不承頷くが、カイは納得がいかないのか不満そうな表情を隠そうともしない。
嫌な顔だ。自分達が危うい状況にいるというのに、焦燥感もなくただ子供じみた癇癪を起こしているようにしか思えない。彼らの往生際の悪い低劣な態度に心が冷え出し、急激にやる気が減退する。
もはや彼らへの興味が失せたエルは静かにカイの前に立つと、最後通牒のつもりで問いかける。
「僕は拒絶されているのに態々助けるほどのお人好しじゃない。
君達が必要ないというなら帰るけど、いいかな?」
カイはエルに気圧され後ろに後ずさる。本心では今が最後の機会だとわかっているが、生来の性格のせいか、それとも自分のプライド故に頷けないのか言葉を発せない。
やがてエルの視線に堪えかねたのか、視線を逸らし俯いてしまう。
エルはカイの態度を拒否と受け取ると、ため息をつき踵を返した。
そのまま歩き去ろうとするエルに、悲鳴のような静止の声が掛かる。
「まっ、待ってください」
気弱そうなミミが、目に涙を浮かべながらエルに声を掛けたようだ。エルの傍まで走り寄ると地に頭を擦り付け懇願する。
「私達がエルさんに不快な思いをさせたなら謝ります。
どうか許してください。
でも、私達にはエルさんの力が必要なんです」
ミミの必死の態度にエルは愕然としてしまう。他人からこの様な哀願を受けた経験などなかったので硬直してしまったのだ。
慌てて立ち上がらせようと手を伸ばすが、別の手に押し止められる。エルの手をエルフの少女である、シエナが止めたようだ。エルが不審そうに見ると、ミミの横に手をつき地に頭を垂れた。
「私からもお願い。
失礼な態度をとってごめんなさい。
でも、どうか助けて欲しい」
「ミミさん。
シエナさんも……」
彼女達の形振りも構わない藁をも縋る態度にエルは驚愕するも、それと同時に深い感銘を受けていた。自分が同じ窮状に陥ったとしても、彼女達のように潔く他人に助けを求められるだろうかと感心したのだ。
人は現状を認識していたとしても、様々なものが邪魔して最善の行動が取れないことなどよくあることだ。今も、ミミやシエナの行いに仲間から非難の声が上がる。
「ミミ、シエナ。
お前たちにプライドはないのか」
「そうよ。恥ずかしくないの?」
カイとシャーリーの糾弾に、エルは醜いものを見た気分になる。彼らは己が誇りのため、いや、幼い未熟な心ゆえに他人に助力を乞えないのだ。
なるほど、武神が心身共に鍛えよと天啓を下すはずである。なんとも見苦しい態度に辟易させれる。
この二人だけだったら見捨てた可能性も無きにしも非ずだが、ミミとシエナの行いに無にするのは気が引ける。彼女らの嘆願に報いるためにも人付き合いが苦手などと弱音は吐いていられないと、エルはたどたどしくも説得を試みる。
「君達は今までどうにもならなかったから苦しんでるんじゃないの?
だからこそセレーナさんに言われて僕に会いに来たんじゃないのかい?」
「ふんっ、お前に会いに来たのはセレーナさんの顔を立てただけだ」
「私達にあなたの助けは必要ない。
これからも4人だけでやっていけるわ」
けんもほろろの対応である。エルの言葉など冷淡に切って捨てられ、全く相手にされない。
だが、ミミやシエナは地面に手を付けたまま顏だけ上げて、縋る様な瞳でエルを見つめている。なんとかしなければと気持ちばかりがあせる。エルは自分の経験から拙いながらも迷宮探索の心得を説いた。
「迷宮はいつだって命懸けなんだ。
装備の不備や、道具が一つ足りないだけで致命傷を受けることだってある。
魔物との実力差を測れなければ、じきに無謀な闘いをして死ぬことになる。
現実を直視できない者には冒険者を続けることはできないんだ。
君達は本当に自分達の置かれている状況をわかっているのかい?
自分達で解決できないから今の状況になったと思わないかい?」
「ふん、たしかに苦しい状況だけどなんとかなるさ」
「あなたにわざわざそんな事言われなくてもわかっているわよ。
私達なら大丈夫よ」
「だいたい、赤の他人のお前が何で俺達を助けてくれるだ?
どうせ裏があるんだろ?
怪しいもんだぜっ」
「そうよ、怪しいものだわ。
それよりミミ、シエナ、早く立ちなさい。
見苦しいわよ」
エルは謂れのない中傷に小刻みに体を震わせる。もはや彼らにはエルの稚拙な言葉は届かず、態度を変える事はないだろう。苛立ち紛れにこのまま走り去りたい気分だ。
だが、ミミの円らな瞳に映る涙が、エルを思い止まらせた。ここで逃げるわけにはいかない。
エルはもはや仕方ないと強行手段に出ることにした。カイとシャーリーの首根っこを両手で捕まえる。
「何するんだ。
くそっ、離せよ」
「そっ、そうよ離しなさいよ」
二人は抗議の声を上げて暴れるが、エルはびくともしない。それどころか万力ような力で締め上げ彼らをエルの顔傍まで引き寄せると、至近距離から彼らを見つめながら問いかける。
「彼女達より見苦しいのは君達二人だと思うけど、違うかな?」
「何で俺たちが?」
「そうよ、なんで私達の方が見苦しいのよ?」
「君達は後1週間で冒険者を続けられなくなるそうだけど、ちゃんとわかっているかな?」
「そっ、それは……」
「そんなことくらいわかっているわよ」
「じゃあ、君達の力だけじゃどうにもならないこともわかっているよね?」
「そんなことない。
俺達だけでも挽回できる」
「そうよ、これからやり直せるわ」
「そうかな?
セレーナさんから聞いていると思うけど、僕は神の啓示を受けて来ているんだ。
君達は神様から心身共に鍛え上げないと冒険者になれないと告げられるほどの未熟者なわけだけど、君達だけで本当に冒険者になれると思ってるの?」
エルの冷徹で正鵠を射た物言いに二の句が継げないのか黙りこくってしまう。
沈黙する二人の頭をぶつけると、エルは燃える瞳で睨みつけながら激しく詰問する。
「黙っていないで答えろっ。
本当に君達だけでなんとかなるのか?」
「それは……、俺達だって本当はわかっているさ」
「……、私達だけじゃ無理よ」
「それならさっきの態度はなんだ?
無理なのは分かっているのに虚勢を張って、僕が断っていたらどうする積りだった?」
「……、わるかったよ」
「ごめんなさい」
「じゃあ、最初に質問に戻るけど、君達と彼女達の態度で見苦しいのはどっちだ?
これが最後の質問だと思って、よく考えてから答えるんだ」
エルはカイとシャーリーを向き合わせると、首を締め付けていた手を放した。二人は揺れる瞳でお互いを見つめ合う。しばらくして、まだ地に手を着き気遣わしげにこちらを見るミミやシエナに視線を向ける。
やがて、二人は頷き合うとミミ達の横に行き地に頭を着けてエルに詫びる。
「俺達が間違っていた。
どうか助けて欲しい」
「ごめんなさい。
どうか私達を助けてください」
エルは大きなため息をつくと、地に頭を擦り付ける4人を一人ずつ助け起こした。自分が彼らに土下座を強要したようで、何とも表現し難い後味の悪さが広がり、つい彼らに皮肉を言ってしまう。
「君達は初めから強情を張らずに、ただ僕に助力を願えばよかったんだ。
そうすれば、こんな後味の悪いことをしなくて済んだのに」
「悪い、俺達に覚悟が足りなかった」
「ごめんなさい」
「エルさん、すいません」
「ごめんなさい」
心底反省している彼らの態度に、いつまでも愚痴っていても仕方ないと気を取り直す。今なら彼らもエルの言葉を真摯に受け止めてくれるだろう。
エルは4人の瞳を順に見つめると力強く言葉を紡ぐ。
「それじゃあ、改めてよろしく。
僕が君達を鍛えよう」
「ああ、よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
「エルさん、よろしくお願いします」
「よろしく」
成行きをはらはらしながら見守っていたセレーナも、安堵の息をついたようだ。態々面会の機会を用意してもらったのに、心配を掛けたようで申し訳なる。
だが、一度お互いの感情をぶつけ合ったおかげで、あけすけに物を言えるようになったとも言える。年も近いのでわだかまりも無くなれば、何の障害もなく打ち解けられるだろう。
そんな未来を想像し微笑むと、エルは彼らの現状を聞くことにする。
「それで、君達はどこまで潜っているんだい?」
「俺達は3階層まで探索したことがある」
「3階層の敵はどうだい?
素直な気持ちを聞かせてくれないか?」
「……敵が1体なら勝てるが、複数なら無理だ」
「3階層の敵は、正直私達には手に余るわ」
先ほどの体験からか、カイやシャーリーも真面目に答えてくれる。
片意地を張らなければ、正確に戦力差を測れるようだ。いい傾向である。
だが、安心はできない。エルは彼らを心身共に鍛え上げねばならないのだ。
「とりあえず、今から3階層に行って敵と闘ってみようか」
「そのっ、大丈夫でしょうか?」
ミミは心配そうにエルに問い掛ける。彼女は4人の中でも一番臆病なようだ。無謀な闘いを挑むよりは臆病な方がいいが、自分の心に負けて縮こまり他者の意見に身を委ねているだけでは、いつまでも成長できない。彼女に勇気を持たせることも試練の一つかもしれないと推測する。
エルはミミに笑顔を向けると優しく諭した。
「こう見えても僕は8階層をソロで探検できるだけの力があるから、3階層の敵には負けはしないさ。
危なくなったら助けに入るし、皆にはまだ早いと判断したらすぐ2階層に戻るから大丈夫だよ」
「そうですか。
それなら安心ですね」
ミミもようやく安心すると、エルに笑顔を向ける。
他のメンバーも頷いたようなので、エルの意見に納得したのだろう。
「よし、それじゃあ3階層に行こう。
皆の力を僕に見せてくれ」
「ああ、腕が鳴るぜ」
「ええ、よろしくね」
「はい、頑張りましょう」
「頑張る」
カイ達の威勢の良い肯定の声に気が漲る。
セレーナに頭を下げ別れ告げると、エルは新人達を引き連れ揚々と迷宮に向かうのだった。