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第4章「紅霞の向こう」


 アリスとローエングリンの再会、その3日後の夕方。奈々子がアリスの部屋を訪れた。

「どう、ホンシアとは会えた?」

 奈々子は部屋に上がるなり冷蔵庫を開け、缶ジュースを取り出す。

「あっ、それはダメ。それは私が飲もうと思っていた物なのよ」

 アリスが止めるのも聞かず、奈々子は缶ジュースを開け、飲み始めた。

「私から給料貰っているのも同然でしょ。だから、これくらいは許してよ」

「むぅ……」

 かわいい。奈々子は不満そうなアリスを見てそう思った。

 この愛嬌もデザインされたものなのだろうか。だとしたら、『構造体』の技術は美容整形にも応用出来るかも知れない。人間のイメージから人間そっくりの存在を作れるのなら、人々のニーズに合わせた顔を作ることも可能なはず。

 『構造体』は単なる魔力の発生源ではなく、それを含めた先進科学によって構成された、まさに『構造体』なのだ。それを支配出来たならば、もしかしたら世界を支配することすら可能なのでは無いか。

 その考えを、奈々子は馬鹿馬鹿しいと思った。

 可愛らしい馬鹿面から、世界征服?

 論理の飛躍にも程がある。

「それで、今日は何しに来たのかしら」

 ベッドの上にちょこんと座り、アリスが言った。見た感じでは淑やかに見えるが、広がったロングスカートの中で胡坐をかいているのが奈那子には分かった。

「言ったでしょ、ホンシアとは会えたか、って」

 アリスの表情が変化したのを、奈々子は見逃さなかった。何かがあったのは間違いないようだ。

「どうなの?」

 アリスが何かを迷っている。あまりにも顔に出すぎているので、奈々子は少し面白いと感じてしまった。

「えっと……」

 結局、アリスの答えは――

「会えなかった……まだ会ってないわ」

 予想通りの答えではあった。東京の空で特定の魔導士と偶然、再会する。3日という日数では、それが実現する可能性はかなり低い。しかし、アリスの顔色はそれを否定していた。

「ふーん……まぁ、3日で会えるとは思っちゃいないけど」

「……ごめんなさい」

 何故か謝るアリス。

「どうして謝るの。たった3日しか経ってないんだから、会えなくて当然」

「うん……そうね、そうよね。ふふふ」

 誤魔化すような、怪しげな笑い。

「今日はどうしたの、アリス。いつもと様子が違うみたいだけど」

「そ、そんなこと無いわっ!」

 アリスが大声で否定する。奈々子は思った。

 この子、馬鹿だ。

「そうね、気のせいだよね」

「え、ええ。気のせいよ、気のせい。気のせい」

 面白い……

 アリスの反応に悪戯心が刺激された奈々子は、さらなる意地悪を仕掛けることにした。

「ところでアリス、日本には面白い習慣があって、人が嘘を吐いたらその人の舌を引っ張らないといけないの」

 アリスがびくっ、と全身で反応した。

「それでね、もしその人が嘘を隠すためにさらに嘘を吐いていたら、今度はその舌を切り落とさないといけないんだよね」

 奈々子が不気味な笑みを浮かべてそう言うと、アリスの顔色がさーっと青くなった。

「ねぇ、アリス。正直に答えてくれるかなぁ……」

 笑みはそのままに、ゆっくりとアリスの顔に詰め寄る奈々子。泣きそうな顔をしながら、アリスが後ずさる。

「ホンシアと……会ったの?」

 見開いた眼で、奈々子は見つめた。

「それとも会わなかったの、どっちなの?」

 その表情に圧倒されたのか、何も言わず、ふるふると微かに首を横に振るアリス。

 奈々子は思った。いじめ甲斐がある、と。しかし、これ以上は流石に可哀相だと考え、奈々子は大きな声で締めの一喝を発した。

「ハッキリしなさい、どっち!!」

「ごめんなさい!!」

 頭を下げて謝ったアリス。その額が奈々子の額と激突する。猛烈な痛みに奈々子は額を押さえ、呻きながら床を転げまわった。

「だ、大丈夫……?」

 心配そうに見つめるアリス。体を丸めながら、奈々子はアリスの肉体が凶器であることを改めて実感する。

「痛た……どうにか生きてるけど、脳震盪くらい起こしたかも」

 ゆっくりと起き上がり、うな垂れるようにベッドに腰掛ける奈々子。

「ご、ごめんなさい……」

 完全に萎縮してしまった様子のアリス。奈々子はかぶりを振った。

「気にしないで。それより、さっきの『ごめんなさい』の意味を教えて欲しいんだけど」

「それは……」

 やはり言い辛そうなアリスに、奈々子は優しく言う。

「怒らないから。約束する」

 その言葉で僅かに気が楽になったのか、アリスは小さく頷いた後、ゆっくりと口を開いた。

「ホンシアに……会えたんだけど……」

「だけど?」

「えっと…………逃げられちゃった……わ?」

 何故かアリスは、疑問形のように語尾を上げた。まるで「これでいいのかしら?」と尋ねるように。

 これも嘘なのだろうか。奈々子にはそんな予感がした。

「そう、逃げられちゃったの」

「ええ……」

 アリスはまだ居心地の悪そうな顔をしている。

「大丈夫、怒らないって言ったでしょ。まぁ、奇襲作戦にしては単純すぎたし、相手に読まれたら失敗しちゃってもしょうがないね」

 だが、失敗したのならアリスが無傷でいるのは何故なのか。そして、その事を今まで報告しなかったのは何故なのか。

 まだ何かを隠していると、奈々子は察した。

「ホンシアと何か話した?」

「ええ。えっと……世間話をしたわ」

「世間話……それだけ?」

「……ええ、それだけだわ」

「そう……」

 追及を続けたら白状するだろうか。奈々子は無理矢理にでも真実を語らせるべきかを考え、その選択を破棄した。

 何か、事情があるのかもしれない。だとしたらそれを考慮しない強引な追及は避け、少し話題を変えることで言葉を誘導する方が良い。

 そう考えた奈々子はアリスの隠し事を引き出すため、自身の推測を話すことにした。

「何にしても、無事で良かったわ。この件、腑に落ちないことが多すぎるから」

「腑に落ちないこと?」

 アリスの眼が興味有りげに揺らめいた。

「そう。特にホンシアの暗殺をテレビで報道していないことと、ホンシアの捕獲任務を私と貴女の2人だけに任せていること。この2つがどうしても理解できないの」

「あっ、そういえばテレビで見たこと無いわ。ホンシアの事件のこと」

「そうでしょ。ということは、狙撃事件は隠したい、って事だと思うのよね」

「隠したい?」

「そう。公にしないことで何かを企んでいるのかもしれない」

 疑問符を浮かべているかのように、アリスが難しげな顔をした。

「企むって、誰が何を企んでいるのかしら?」

「これは私の推測なんだけどね……多分、ホンシアの裏にいる人間は、それなりに影響力のある人間なんだと思う。それで報道を規制させてる」

「そんなに凄い人が、ローエ……ホンシアに命令をしているの?」

 アリスが思わず「ローエ……」という人名を口にしそうになったのを、奈々子は聞き逃さなかった。

「そして、その人物は貴女とホンシア、もしくは他の誰かを会わせようとした」

「私と……ローエングリンを……?」

 奈々子は的を射たりといった風に微笑を浮かべる。

「ローエングリンって、誰?」

 アリスがしまった、という顔をして両手で口を押さえた。だが、もう遅い。

 アリスは、ホンシアとは別に何者かに会ったのだ。それも恐らく、アリスと旧知の中であろう、誰かと。奈々子はそれを確信した。

 ローエングリン。有名なオペラの名前。アリスと同じく多くの人々に知られる作品から取られた名前を持つ、何者か。その正体がアリスと同じ大シンボル、『構造体』の住人であることが、奈々子には容易に想像できた。

 アリスが真実を話したがらなかった理由もそれで察しがつく。アリスがホンシア捕獲に失敗したのは、そのローエングリンなる人物がいたからだろう。旧知の仲であるその大シンボルが、何かしらの事情でホンシアと共にいる。敵に随伴する知人に、アリスは複雑な感情を抱いたはず。その気持ちの整理が済んだかどうかも怪しい。

 だから、言わなかった。いや、言えなかったのだ。

 アリスが隠そうとした事柄に関して、奈々子はそのような推察をした。「ローエングリン」なる人物との間に何があったのか、細かいことまでは分からないまでも。

 人物――そう言うべきでは無いのかもしれないと、奈々子は思った。人間ではなく、アリスと同じく人間の想念から作られた者なのだから。

 人外の存在、大シンボル。それを使役し、報道、警察組織を動かせる程の大物。

 超常の者と、暗殺者と、自身の影響力を用いて。さらに、アリスまで引き入れようと画策して。仕組んだその先にある目的は、何か。

 奈々子は感じつつあった。事件を通じて言い知れぬ流れに巻き込まれてしまったことを。

 アリスと共に、その渦中へと。


 扉の閉まる音と共に、アリスは肩の力を抜いた。

 ついローエングリンの名前を口に出してしまった時、嘘を吐いた事を怒られ、さらには根掘り葉掘り質問攻めに遭うとアリスは思った。だが結局、奈々子は何も聞かなかった。アリスがはぐらかしていると、優しげなため息を吐き、「言いたく無いなら、別にいい」と言い、それ以上の追及をしなかった。

 1人になったアリスはベッドの上に仰向けに寝転がり、気を使ってくれたのかしら、と何となく思う。

 ローエングリンのことは正直、まだ整理が出来ていなかった。アリスはこの3日間、ローエングリンの動機を考えていた。もしホンシアの言うとおり、ローエングリンの行動が『女王』の命令で無いとしたら、何かしら重大な目的があるはずである。だが、2人の人間を殺すことと繋がるような何かに、アリスは思い当たることが出来なかった。

 理解出来ない。そのもどかしさは、自分とローエングリンとの関係も考えさせた。

 今の私にとって、ローエングリンとは何なのかしら。友人、師弟、それとも過去の存在、別の何かかしら。

 アリスは自問自答するも、その答えはやはり、出なかった。

 以前と今で、ローエングリンに対する印象は変わった。でも、どう変わったのかが言い表せない。だからアリスは何一つ整理することが出来なかった。もし奈々子に聞かれたとしても、答えられなかっただろう。自分とローエングリンとの間にある、言葉にしがたい溝。一体どうすれば、それを埋められると言うのか。

 アリスの脳裏にふと、もう1人の存在が思い浮かんだ。ローエングリンと共にいた、ホンシアの姿が。

 たとえローエングリンともう一度会えたとしても、彼は本心を語らないだろう。しかし、ホンシアなら何かを知っているだろうし、話してもくれるはず。会って話すべきなのはローエングリンでは無くて、ホンシアなのだ。

 それに気付いたアリスは起き上がり、時計を見る。時間は夜7時を少し過ぎた辺り。

 3日間、夜中に空を飛び回ってローエングリンを探したが、結局一度として見つけることが出来なかった。それでも、今日は待っているかもしれない。ローエングリンでは無く、あの場所で、あのホンシアが。最初に出会った時と同じように、2度目に会った時と同じように。

 何もしないよりは、少しでも動いた方が良いに決まっているわ。

 アリスはベッドから降りて、玄関に向かう。

 そうだ、その前に何か食べなくちゃ。お腹が空いていては、何も出来ないわ。

 心の中でそう呟きながら。


 ノックが4回、大きなドアから響く。

「失礼致します」

 両開きのドアが開き、書類を抱えた女性が部屋に入って来る。手を触れずにドアを開けたその姿を見て、机に向かっていたもう1人の女性が言った。

「やはり、物を持って入るには不便なようだな」

「そんなことはありません。少なくとも、私たちには」

 2人の女性は共に20代に見えた。書類を持っている方の女性は細く美しい脚を持ち、机に向かっている方の女性は長く艶やかな金髪を持っていた。

 美しい脚の女性は艶やかな髪の女性の前に書類を置く。

「調査しておりました、例の狙撃事件に関する報告をお持ちしました」

 艶やかな髪の女性は無言でそれを手に取り、一瞥する。

「2名とも我が社、いや、私のと言うべきか。私直属の魔導士であった。そして、周紅霞なる狙撃手がそれを殺害した。それは良い。問題はそれでは無い」

 穏やかな、しかし潜在的に威圧感が感じられる声で、艶やかな髪の女性はそう言った。

「報告はこれだけか、カレン」

 美しい脚の女性――カレンと呼ばれた女性は、おずおずと言葉を紡ぎ出す。

「まだ……未確定な情報なのですが、我々以外に日本の警察に介入している者がいるようなのです」

「我々……以外にか」

 女性は不敵な笑みを浮かべた。それはまるで、獲物を捉えたかように。

「恐らく、それがホンシアを雇った者達だろう。何者か見当は付いているか?」

「いえ、それはまだ……申し訳ありません」

 カレンは小さく頭を下げた。艶やかな髪の女性は笑みを浮かべたまま、机に両肘を突き、手を組む。

「重要なのは、カレン。何処から情報が漏れたかだ。魔導士に関する情報は、匿秘情報の中でも特に機密性の高い物だ。殺された2名も、我が社との関係が分からぬように注意を払っていた。だというのに、だ」

「……」

「彼らは殺された。何故だ。彼ら2人は、お互いに何の関連性も無い。私の下にいる魔導士であるということ以外はな。その2人が、同一の人間、同一の団体の手によって殺害されたのだ。それはつまり、我々の情報が漏れているということ、そして――」

 女性は組んだ手を解き、目の前に立つカレンに微笑みつつ、言った。

「我々に対する、挑戦なのだ」

 女性は椅子から立ち上がり、机の後ろで夜景を見せている巨大な窓へと歩き出した。壁には絵画が飾られ、部屋の各所に骨董品を思わせるインテリアが置かれたこの部屋の中において、その大窓は異質だった。他の物品には存在する、物質としての立体感が喪失していたのだ。

 それもその筈だった。女性がその窓に触れると窓越しの夜景が消え、幾つもの顔写真がそこに映し出される。それは窓などではなく、巨大な液晶スクリーンだった。

「これは……?」

 尋ねるようなカレンの呟きに、女性は振り向いて答えた。

「2人を狙撃したのは、挑発であろう。真の目的は、やはり私の暗殺だ」

「そんな……」

「今までだって何度もあっただろう。君達や多くの優秀な者達の助けもあり、私は今も生きている。そして、今回の件の首謀者は正攻法による暗殺は難しいと考えた者だと、私は睨んでいる」

 女性の言葉に、カレンは首を傾げた。

「それと2名の殺害、どのような関係が」

「1つ。情報が漏れているということを明示する。2つ。私の興味を煽る。それが、2人を狙撃した理由だ」

「何故、そのようにお考えに?」

 女性はふふっ、と笑った。

「この事件に、私が興味を持っているからに他ならない」

「……それはつまりCEO、貴女がこの件に興味を持ったのは犯人の計画通りだと、そう仰っているのですか」

「その通りだ。見事に私は、敵の術中に捕らわれたのだよ」

 CEOと呼ばれた女性は、何故か嬉しそうに言った。

「私には分かりません。どうして貴女の興味を惹き付ける必要があるのです?」

「敵はだね、カレン。私の心理を理解しているようだ。機密情報の漏洩。そして世界でも数少ない、魔力を持った狙撃手による挑発。心が騒ぐのだよ、踊るのだよ、カレン」

 CEOは両腕を広げ、歓喜しているかのように笑みを浮かべた。

「敵は私が無視できないのを知っている。敵が叩き付けた挑戦状を、私が無視できないことを。相手は私の上を行こうとしている。魔導士で以って、私の魔導士を殺す。魔導士の運用において、私を越えようとしているのだ。嬉しいじゃないか、楽しいじゃないか、素晴らしいじゃないか。そして、それを黙って見過ごす訳には行かない。そうだろう、カレン」

 カレンは呆れたかのように首を振った。

「お言葉ですが、決め付けるべきでは無いと思われます。2名の殺害に最も適した人物として、純粋にホンシアが選ばれた可能性も充分にあります」

「カレン、分からないのか。魔導士に関する機密情報は、そうそう漏れるものでは無い。最も考えられるのは、内部からの密告者、獅子身中の虫、裏切り者の存在だ」

「まさか……!」

 その言葉に、カレンは絶句した。

「考えられません。そのような事をすればどうなるか、分かっているはずです。死を覚悟してまで、情報を漏らすような者がいるとは……」

「情報を漏らしたのではない。裏切り者は、敵に全面的な協力を行っているのだ。死を覚悟してでも、殺すつもりなのだ、私を、この私を、だ」

「信じられません……何故そのようなことを」

「それは聞いてみないと分からない。その事も興味深く思っているよ、私は」

 CEOは机の前まで歩き、再び椅子に腰掛けた。

「このスクリーンの写真は……機密情報にアクセス出来る者、つまり裏切り者の候補なのですね。だから、私の写真まで入っている」

「君が裏切り者だとは思っていないが、その通りだ。この中の誰かが、私に殺意を抱いている」

 カレンはスクリーンに映された写真を1枚1枚確かめるように見る。その枚数は30枚強。

「恐らく、事件の真相はこうだ。裏切り者は、何らかの理由で私を殺そうと考えた。しかし、協力者がいなければ事が簡単に行くはずは無い。だから警察に介入が出来るほどの力を持った協力者、パトロンを見つけ、その力を借りて魔導士の狙撃手を用意し、私の部下2人を殺害。私を挑発して、おびき寄せようとしている。それが、私の予想だ」

「可能性は考えられますが……ですがやはり、決め付けるのは早計かと……」

「想像するだけなら自由だよ、カレン。決め付けているわけではない。ただ、そんな気がするだけだ」

 先ほどまでの高揚にも関わらずそう言ってのけるCEOに、カレンはしばし沈黙した。その後、小さくため息を吐く。

「とにかく、この件に関してはもう少し調査した後、再度報告させて頂きます。それまでどうか、勝手な行動はなさらないで下さい」

「分かっているとも。この夜空の下で撃たれる危険性は否定できないからな」

 カレンは無言で扉の方を向き、足早に部屋を出て行こうとする。その後姿に、CEOが声をかける。

「カレン、私が日本に到着した日の夜に最初の狙撃事件が起こった。そして私は、安全のためにここを動くことが出来ない。これも相手の思惑だとしたら、別の手を打って来るかも知れない」

 カレンは振り返る。CEOはカレンの眼を見つめ、ニコリと微笑んだ。

「電子メール等にも目を配らせておいて欲しい。何らかのメッセージが送られてきているかも知れない」

「……分かりました」

 深々とお辞儀をするカレン。そしてCEOは言った。

「以上だ、女王」


 最後に奈々子と会った日から2日。ローエングリンと再会した日から5日。

 その間アリスは毎夜、マンションの屋上から空へと飛び立っていた。『不思議の国のアリス』を模した正装、あのエプロンドレスをまとって。バールのようなものを持って。

 屋上まで向かう途中、日によってはマンションの他の住人と会い、「こんばんは」と挨拶することもあった。相手の多くは軽く会釈を返してくれるものの、奇異の目で見ているのは明らかだった。もっとも、アリス自身はそれに気付いてはいなかったが。

 今宵に関しては、アリスは屋上に着くまで誰とも会わなかった。

 屋上に着くまでは。


 いつもと同じ屋上では無かった。

 見慣れない人影が視線の先、屋上の手すりに座っていた。アリスが目を凝らすと、銀色の短髪に明かりが反射し、揺れた。

 この数日間、探し続けていた相手。ホンシアが、そこにいた。

「や」

 ホンシアが片手を上げて挨拶をした。思いがけない再会と態度に、アリスは戸惑ってしまう。

「えっと、ホンシア……かしら?」

 思わず、確認の言葉を口にしていた。ホンシアはニコリと笑って、「そうだよ」と答えた。

 アリスは警戒しつつも、ゆっくりとホンシアへと歩み寄った。歩を進めながら、何を話そうか、何から聞けばいいか、そんな事を考えつつ。

 手すりに座るホンシアから3歩程離れた位置まで歩いて、そこでアリスは足を止めた。ローエングリンの事、ホンシアがここにいる理由。いくつもの想念がアリスの中で渦を成していた。

 春の風が頬に吹き付ける中、お互いがお互いを静かに見つめる。

 ホンシアが何を思っているのか、アリスには分かるはずも無かった。だが、5日前に差し伸べられた優しさを、彼女は信じたかった。今日この場所に来たのも、決して戦うためじゃない。そう、信じたかった。

 だからアリスは、右手に握られたバールのようなものを振るわないと決めた。約束だから、先制攻撃は絶対にしないと。

 沈黙の時間を破り、ホンシアが口を開いた。

「今、私をそのバールでぶっ叩ける大チャンスなんだけど」

 アリスは返答する。

「約束だからしないわ。それに、バールじゃないわ。『バールのようなもの』よ」

 軽く口元を緩ませるホンシア。

「逆に、私が先手を撃つって思わない?」

「私、貴女がそういう人じゃ無いって思っているもの」

 それを聞いたホンシアは何も言わず、アリスの顔をまじまじと見つめた。

 そして、小さく笑った。

「そんなに信用されると、逆に困るなぁ。でも、うん。そうだね。嬉しい。ちょっぴし、嬉しい」

 ホンシアの優しげな笑顔につられ、アリスも微笑んでしまう。

「今日はちょっと話したくて来たんだ。だから立ってないで、横に座ったら」

 右手で手すりをポンポンと叩き、ホンシアはアリスを招く。その誘いに乗り、アリスはホンシアの右隣に座った。

「それで、話って何かしら」

「話と言うか、そっちが何か聞きたいと思って。ローエングリンの事とか、気になるんでしょ」

 ローエングリン。アリスが一番聞きたかったことを、ホンシアは一番最初に挙げた。

「私が話せることなら、話すけど。その代わり、そっちが話せることも話して」

「私が話せること?」

「ローエングリンがどんな人なのか。私より付き合い長いんでしょ」

 その言葉からアリスは察した。ローエングリンが、ホンシアに対しても多くを語っていないことを。

「付き合いは長いかも知れないけれど、私にはもう、何が何だか分からないわ」

「それをハッキリさせるためにも、ね」

 アリスの左手を、ホンシアの両手が包み込んだ。自身の手が武器を持たないことを強調するかのように、暖かく、優しく。

「うん……そうね、そうしましょ」

 その温もりに、アリスは頷いていた。

「良かった。それじゃあ、どこから話す?」

 笑みながら首を傾げ、ホンシアが尋ねた。

「えっと、貴女とローエングリンは、どうして出会ったの?」

「私が今の雇い主に頼まれてね。今回の仕事を手伝ってくれそうで、優秀な魔導士が欲しいって。それで私が色々探していたら、アイツがコンタクトを取ってきたってわけ。無名の魔導士だったけど、魔力は強かった。信用は出来なかったけどね」

「信用出来なかったのに、どうして一緒にいるの?」

「雇い主がひどく気に入っててね。何か理由があるんだろうけど」

「理由って、何かしら?」

「さあ?」

 肝心の部分を答えて貰えず、アリスは少しムッとした表情をしてしまう。

「ただ、目的が一致したんだと思う。そんな気がする」

「目的って、何かしら」

「それは言えないわ。トップシークレット、ってやつね」

「誰か……殺すの」

 ホンシアはその言葉に口を噤む。そして、ゆっくりと頷いた。

「それじゃあ、ローエングリンが誰かを殺しがっているってこと?」

「多分……そうだね」

 信じられないと、アリスは思った。ローエングリンが自分の意志でそんなことを望むなんて。もし誰かを殺すとしたら、それは『女王』の命令以外に考えられないことだった。

「本当に、ローエングリンは『女王』の命令で動いていないのかしら」

「前にも言ったよね。私は違うと思う」

 ホンシアは何かを振り払うかのように、ううん、と首を横に振った。そして、低く、力強い声で言い直した。

「それだけは絶対に、無い」

 その声はまるで、殺意のようだった。

「でも、私の知ってるローエングリンは誰かを殺そうなんて、そんなこと思ったりしないわ」

「……きっかけがあれば、人を殺したいって感情はすぐに生まれるものだと思う」

 ホンシアは何処か、遠い昔を思い出しているような眼差しで言った。

「きっと、ローエングリンにも何かあったんだよ」

 その眼差しは、高層ビルの輝きに夜が浸食されているような、そんな摩天楼の夜景に向いていた。

「それは……貴女にも?」

「……私の事、私の経歴とか、もう知ってるんでしょ?」

 その言葉に、アリスは彼女の不幸な経歴を思い出す。アリスは同情の念を覚えつつ、小さく頷いた。

「私の場合は両親が死んで、行く当てが無かったから。そんなものだよ、理由なんて」

「そんなものって……」

 自分の親が死んでしまったことが、「そんなもの」で済んでしまうのか。アリスはその疑問に対する答えを、口調とは裏腹なホンシアの目付きから感じ取れた気がした。

 もしかしてホンシアは、寂しいのかしら。お父さんとお母さんがいなくなってからずっと、独りぼっちで。でもそれと人を殺すことと、どんな関係があるっていうのかしら。人を殺したら、もっと辛くなると思うのに。

「人を殺して、貴女は平気なの?」

 うーん、とホンシアは考える仕草をして、呟いた。

「人を殺したこと、ある?」

 アリスは首を振った。それをホンシアは横目で見る。

「狙撃銃で人を殺すのってね、簡単なんだと思うんだ。頭や心臓を狙って、意識を集中して、引き金を引くだけ。相手の怖がってる表情とか、殺した時の感覚とか、そういうのを覚えなくて良い。深く考えなければ、ただ鉄の塊を弄くるだけ。それだけのこと。アナタの持っているバールのようなもので叩くのより、ずっと易しい。私の心にも、私の身体にも」

「怖くないの?」

「怖い……かぁ」

 ホンシアは両手をこすり合わせる。春が訪れていても、高所の風は冬の冷たさに近かった。

「どうして、怖いって思うの?」

 どうして――どうしてかしら。

 人を殺めるという行為に対する嫌悪。それは確かにアリスの中にあった。しかし、彼女は殺人というものを上手く想像することが出来なかった。まるでそのように思考回路が組まれているような、不思議な感覚を彼女は覚えた。

「分からないけど、怖いわ」

 そう答えるのが、精一杯だった。

「同じ。私もね、怖い。何人殺しても、怖い」

 意外な言葉に、アリスはホンシアの顔を見た。

「怖いのに、どうして殺すの?」

「殺さない方が怖いから……かな。私には、これしかないから。自分らしく生きる方法は、これしかない。それ以外の道を選んだら、きっと自分じゃなくなる。それはとても怖いことなんだ」

 きょとんとした眼で、アリスは尋ねた。

「ホンシアは、人を殺さないといけないの?」

 ホンシアは、その質問と眼に何を感じたのだろうか――まるで羨むかのような視線をわずかにアリスへと向け、そして屋上のコンクリート床を見つめ出し、黙ってしまう。

「ホンシア……?」

 アリスの呼びかけ。静かに、ゆっくりとホンシアが口を開いた。

「本当なら、誰も殺さない人生が良かったんだと思う。でも、そこまで幸せになれなかった」

 ホンシアの答えは、アリスに3つの問いを生まれさせた。

 人を殺しているホンシアは、もう幸せになれないのかしら。

 誰かを殺そうとしているローエングリンは、幸せでは無いのかしら。

 そして、誰かを殺すなんて想像も出来ない私は、幸せなのかしら。

 しかしそれらの問いはすぐに霧散した。アリスは、その答えなんて考えたくも無かったから。そんな問題自体、ナンセンスだと思い直した。

 気付くと、寂しげで優しげな微笑みでホンシアがアリスを見つめていた。

「次はアナタの番。聞かせて、ローエングリンのこと。それと、アナタのことも」


 アリスはゆっくりとした口調で語った。脚色し、偽り、それでも語れることを。

 生まれた場所はイギリスの田舎町にした。本当は、太平洋の深海なのに。ローエングリンは近所に住んでいる、昔からの付き合いということにした。本当は、『構造体』から出る時までほとんど話したことも無かったけど。世界中を旅して、ある場所でエルザという少女と仲良くなった。これは本当。そこで何ヶ月か過ごした後、アリスは日本に行くことにして、ローエングリンと別れた。

 そのような内容をアリスは語ったが、奈々子のことは話さなかった。奈々子が口にするなと言いそうな事も、アリス自身が言いたくないことも言わなかった。真実ではないが、ローエングリンとアリスの今までを表すには充分な、そんな作り話をした。

「これが、私とローエングリンの今までよ」

 所々で相槌を打ちながら話を聞いていたホンシアは、「なるほどね……」と言いながら何度も頷いた。

「結構普通の人生だったんだね、アイツも。もっと壮絶かと思った」

 ホンシアがどんな人生を想像していたか、アリスは考えないようにした。ホンシアの人生より悲しい人生なんて、想像したくも無かったから。

「でもそれがどうして、こんな世界に?」

 こんな世界――人殺しの世界。

「そんなの、私が聞きたいわ」

 アリスの答えに自分と似た事情を想像したのか、ホンシアは気まずそうに眼を逸らした。

「えっと……ローエングリンって、昔はもう少し愛想良かったの?」

「少しはマシだったわ。私が日本に行くちょっと前くらいから、どんどん無愛想になっちゃったのよ」

「原因って、心当たりある?」

「あったら、こんなに悩んで無いわ。本当、誰かの心の中って全然分からないわ」

 アリスは膨れっ面をして、夜の街並みへと目を移す。

 もしあっちの方からローエングリンが飛んできたのなら。夜風と一緒に、ビルの隙間を縫うようにして。そうしたら、バールのようなもので叩いてでも本心を聞かせて貰うわ。ホンシアが知っていたのも、貴方の外側だけだったから。

 そうよ、ローエングリン。貴方はまるで、卵みたいだわ。塀の上でうまくバランスをとっているから、割れたりしない。だから、中身も見えないのね。だったら、叩いて落とすだけ。一度落とせば、それでおしまい。何もかも、まる分かりよ。

 そんなアリスの思考を否定するかのように、ホンシアが言葉を発した。

「確かに他人の心は分からないけど」

 アリスの耳がその言葉に反応する。

「だから人と話すのって楽しいんだと思う。お互いのことが、ほんの少しずつ分かっていくから」

 その言葉を、アリスは反芻する。今まで、そんな考え方はしたことも無かった。力づくでこじ開ける、それが彼女のやり方であったから。しかし、一言一言を交し合いながらゆっくりと開けていく楽しさというものも、彼女は確かに感じていた。ホンシアの言葉は、その理由を説明してくれるものであった。

「そうかも……そうかも知れない」

 今まで多くの人と話して来たのは、相手の心が分からないから。

 今まで多くの人と話して楽しかったのは、相手の心が分かって行くから。

 それはアリスにとって、真理であった。そしてその真理は、ローエングリンの閉じた心にも通じるはずだと。

 割れてしまった卵は、きっと元に戻らない。力づくでこじ開けたら、昔のローエングリンは戻って来ないかも知れない。だから少しずつ、一言ずつ開かせなきゃ。そしてそれを楽しめば良い。楽しかった、昔のように。

 思いもしなかった糸口に気付けた嬉しさが、アリスの心を満たしていく。

 会おう、ローエングリンに。話そう、ローエングリンと。

 何があったのか、何を思ったのか、その全部は分からないかも知れない。それでも、ほんの少しなら分かるかも知れない。許せるかも知れない。そうしたら、こっちの気持ちも伝わるかも知れない。

 もはや、迷うべくも無い。

「ありがとう、ホンシア。やっと分かったわ、どうしたら良いのか、決心がついたわ」

 アリスは満面の笑みをホンシアに向ける。

「そう、良かった。力になれたんなら、嬉しいかな」

 その笑顔にホンシアは微笑みで返す。しばし見詰め合い、急に彼女は吹き出した。

「ごめんごめん、すごく嬉しそうな顔だから、ちょっと面白くて」

「嬉しい時は、笑うものよ」

「そうだね、今までアナタ泣きそうな顔ばっかりだったから、ちょっと驚いた」

 2人、声を合わせて笑った。

「なんか久しぶりだな、女の子とこんなに楽しく話したのって」

 ホンシアが夜空を見上げながら言った。

「そうだ、今度の日曜日って暇かな。一緒にさ、買い物とか行かない?」

「お買い物?」

 突然のホンシアの誘いに、アリスは戸惑いつつ答える。

「大丈夫だと思うわ。でも、どうして誘ってくれるのかしら?」

「女2人が一緒に買い物に行くのに、理由なんていらないでしょ。それに……」

 ホンシアがゆっくりと浮かび上がる。

「楽しい時のアリスも、見てみたいからね」

 思わず、アリスは宙に浮いたホンシアに手を伸ばす。その手は何にも触れずに空をかいた。

「日曜日の朝10時、この場所で待ち合わせ。いい?」

 星を背にして、ホンシアが尋ねる。アリスは座ったままそれを見上げ、こくり、と頷いていた。

「約束ね」

「約束は守るわ。絶対、守るわよ」

 その言葉に頷きで返し、ホンシアはさらに上空へ、そして遠くへと飛んでいった。残されたアリスは、そういえば、と気が付く。

 ホンシアはいつも、私を残して飛び去っていくのね。日曜日のお買い物でもそうなるのかしら。だったら、ちょっと面白いわ。

 紙袋を持って空を飛ぶホンシアの姿を想像し、アリスは苦笑した。


 そして次の日曜日。アリスは試着室の中にいた。

「そろそろ穿いた?」

 カーテン越しにホンシアの声が聞こえ、アリスはもう一度鏡に映った自分を確かめる。

 似合わない……全然似合わない。こんな格好じゃ、恥ずかしくて外も歩けないわ!

「開けるよ」

 そう言ってホンシアが試着室のカーテンを開け放つと、普段の少女趣味とは半回り違う格好のアリスが、両腕で庇うように上半身を隠した。

「はい、両腕をピンと広げて。もっとよく見せて」

 ニヤニヤ笑いのホンシア。恥ずかしげな表情をしつつも、アリスは渋々その言葉に従った。

 上は黒のキャミソール・カットソー。下はローライズのジーンズ。足元には脱いだ服が乱雑に散らかっている。

「試しにと思って適当に選んだけど、それなりに良い感じだね」

 ホンシアはアリスの全身を舐めるように見た後、視線を緩やかなカーブを描く胸部に移した。

「胸以外は」

「うるさいわねっ!」

 先ほどと同じように胸を隠すアリス。どうして、こんな格好をさせられる羽目になったのかしら!

 その日の朝、アリスは約束通りマンションの屋上へと向かった。まだ日曜の喧騒は所々から聞こえるだけで、静かな朝の澄んだ大気が心地良い、そんな朝だった。

 屋上への階段を上り終えた午前10時丁度、ホンシアは既に屋上のフェンスに座って待っていた。そして腕時計を見ながらアリスの姿を確認し、こう言った。

「10時ちょうど。本当に約束は守るんだねぇ」

 まるでアリスを試したかのようなホンシアの一言。アリスは思わずムッとした表情をしてしまった。

 そんな朝の出来事を思い出したアリスは、機嫌を損ねつつあった。1度ならず2度までも遊ばれるように試され、しかも身体的な特徴まで馬鹿にされて。

「こんな恥ずかしい服を着ている人たち、おかしいわ!」

「いい歳して少女趣味な格好をしてんのもおかしいと思うけど。胸が小さいこと以外、スタイルは抜群なんだから。もっと大胆に行った方が良いって」

 またしても胸のことを言われ、アリスは完全に機嫌を損ねた。

「いいの、私は可愛い服が好きなんだから!」

 へそを曲げたアリスは、カーテンを思いっきり閉める。危うく、試着室の壁ごとカーテンを破壊しそうになった。


 2店目、3店目、4店目……アリスに数えられたのはそこまでだった。

 数え切れないほどの店をホンシアと回ったアリス。やっと座れたオープンカフェの椅子から店内の時計を見ると、時刻は3時過ぎ。陽射しはビルに遮られ、雑踏はその向こうの車道が見えないほどに休日的であった。

「ふぅ……」

 アリスの一息。だらりと全身の力を抜いて、彼女は椅子にもたれる。ホンシアはその姿に、勝者のような微笑みを見せた。

「どう、疲れた?」

 ホンシアの椅子の左には紙袋が2つ、右には3つ。服だけでなく小物の商品も乱雑に詰め込まれているため、重量は膨らんだ見た目と比べても重いに違いなかった。

「いつもこんなに沢山のお店を見て回っているのなら、買い物の病気だわ」

「女の子はみんなそういう病気だよ。まぁ、今日はちと買いすぎた気はするけどね」

 アリスはちらりと左側の地面を見る。椅子の左にもたれ掛かる紙袋が2つ、それはアリスの買った物であった。

「日曜日の度にいっぱい洋服を買って、一体何年かけて買った物全部を着るつもりなのかしら」

「一生かな」

 皮肉のつもりで言った質問をあっさりと受け流され、アリスは口を尖らせる。

 アリスは今日の買い物で何度も不機嫌になった。だが自身の紙袋に詰まっているような、一部の品々に対する好奇心がそれを打ち消していた。彼女もまた、買い物に夢中だったのだ。

「さて、少し遅くなったけど昼食にしよっか。お腹空いたでしょ」

 ホンシアの提案に、アリスは即座に姿勢を正して頷いた。言うまでも無く空腹だった。

「お腹に溜まるものがあれば良いけどね」

 メニューを広げながらホンシアが言った。


 パスタが乗っていた皿を脇にどかし、チョコレートムースを正面へと動かすアリス。それはそれは、嬉しげな顔で。

「甘いもの、好きなの?」

「もちろんよ」

 ホンシアの質問に即答する。二又の小さなフォークでゆっくりと先端近くを切り離し、突き刺し、食べる。

「甘いものが嫌いな人なんていないわ」

「甘すぎるのは少し苦手だけどね」

 そう言うホンシアの前にはチーズケーキが一切れ。対するアリスの前にはチョコレートムース、チーズケーキ、ホイップクリームが乗ったプリン、それらが1皿ずつあった。

「頼みすぎるのもだけど」

「大丈夫、半分払うわ」

 皿の比率と代金の比率がおかしい事に、アリスは気付いていなかった。ホンシアは不機嫌そうに黙り出す。

 お互い無言でデザートを口に入れ続け、アリスが1皿目を食べ終わった直後、ホンシアが口を開いた。

「ねぇ、アリス」

 チーズケーキの皿を引き寄せようとしていたアリスが、視線をホンシアに移す。

「女王って……誰?」

 思いがけない禁句に、アリスの脳が一瞬にしてイメージで溢れ返った。

 『女王』――金色の、長い髪の、深い青の、開かれた眼の、勝ち誇ったかのような、愛玩するかのような、上から見下ろすような、遥か高みにいるかのような、鮮明な一瞬の残影。

 記憶から想起された姿に、言い知れぬ感情が湧き上がる。それがアリスの全神経を突き動かし、彼女の全身は力み出し――

 我に返った時には、彼女のフォークは親指によってぐにゃりと曲げられていた。

「あっ……ごめんなさい」

 自分の無意識動作を謝りながら、アリスは曲がったフォークを指で挟み、擦った。魔力による圧力を加えつつ、元の形へと整えていく。重苦しく、強張った表情で。

「大丈夫……?」

 ホンシアの伺うような声にも、アリスは応えなかった。ただ黙ってフォークを見つめ、取り繕うかのようにそれを直している。

 2人の間に漂う沈黙。真っ直ぐに戻ったフォークをテーブルに置いた後も、アリスはホンシアの方を見ようとしなかった。デザートからも目を逸らし、店の脇を流れる雑踏を、頬杖を突いて見つめた。

 アリスは不快感を追い払おうと、空想する。街を歩く、人、人、人。この中には、決して『女王』はいない。傲慢な『女王』は、口で何を言おうとも人間の中に紛れはしない。だけど『女王』と違い、自分はきっと紛れたいのだ。人間の中で人間として、ただの魔導士として。それでも夜は自分らしく空を飛び、何者にも縛られないでいたい。

 人であることと、自分であることの両立。それを目指すから、自分は『女王』とは違う。『女王』はきっと、人間の世界でも特別になろうとしているに違いない。だけど、そんなに全て上手くは行くはずが無い。きっと、蹂躙される。傲慢さをまとった心も、しなやかな豪腕を振るう体も、すべてすべて。

 もちろん、私が倒した後でだけどね。

 自らの空想によって、アリスは呪縛とも言える『女王』のイメージを少しずつ崩して行く。それと同時に、不快感も次第に薄れて行った。

 そんな彼女の目が、人波の不自然な流れを捉える。

 微かに人が避け、好奇の目で見ている空間。そこには変わった風貌の少女がいた。

 クマの耳を模したカチューシャ。こげ茶色のショートヘア。幼い顔立ち。ガラス玉のような瞳。まるで人形のようなその顔は、まさしく――

「ベイビードール!!」

 アリスは立ち上がり、人波の向こう側に大声で呼び掛ける。突然の行為に驚いたのか、ホンシアは椅子ごと後ろへ転げそうになった。

 道路沿いの手すりに腰掛けていた少女は1度だけ頷き、通行人を掻き分けてアリスへと歩み寄る。目の前にその少女が来た瞬間、アリスは少女を抱きしめた。頬擦りをされ、少女はくすぐったそうに眼を細める。

 14、5歳の顔立ち。身長はそれよりも僅かに幼く。首から下はパジャマ風のクマの着ぐるみを着て、首から上は茶色の髪にクマの耳を付けて。

 クマを真似する、その姿。

 大シンボルの1人、「ぬいぐるみの女神」――ベイビードールだった。


 アリスは抱擁の拘束を解き、ベイビードールの頬を2度、優しく叩いた。

「久しぶりね、ベイビードール」

 ベイビードールは「ぐあぁ」と獣のような声で答えた。その瞳は、動物のような無垢を湛えている。

「とにかく座って。お話しましょう」

 アリスは近くにあった空き椅子を自分たちのテーブルの前まで引き、ベイビードールを座らせる。そして先ほど立ち上がった時に倒れた紙袋に気付き、こぼれた品々を袋に突っ込んだ後、再び椅子の横に立て掛けた。

「こんな所で会うなんて、まるで奇跡みたいだわ」

 目を輝かせながらアリスは言う。ベイビードールは「がぁ、ぐああ」と、またも言葉にならない声を発した。

「……何て言ったの」

 ホンシアが怪訝な顔をして言った。

「私にもわからないわ」

 不審な者を見る目つきに益々変わっていく、ホンシアの両目。それとは対照的に、アリスはつい先ほどまでの沈黙が嘘のように屈託の無い笑顔を見せた。

「ねぇ、ベイビードール。どうしてこんな所にいるの。この近くに住んでいるのかしら?」

 アリスの問いかけに対する反応なのか、ベイビードールは着ぐるみの腹部にある大きなポケットからペンと薄い板を取り出した。

「なにかしら、それ?」

 ホンシアとアリスが見つめる中、ベイビードールは板に何やら書き始めた。

「ぐぁ」

 ベイビードールは板を引っくり返し、裏面をアリスたちに見せる。裏面には白い紙が貼ってあり、曲がりくねった筆跡で「ひみつ」と書いてあった。

「秘密って、せっかく会えたのにそれは無いんじゃないかしら」

 アリスが残念そうな表情で不満を吐く一方、何故かホンシアは興味津々といった様子でベイビードールが持つ板を見つめていた。

「ちょっと待って、これって……」

 ホンシアが人差し指で紙に触れる。

「液晶……?」

「液晶って?」

 アリスも板に貼ってある紙に触れてみる。その質感は紙とは全く違い、テレビの画面などと同様のものであった。

「もしかしてこれ、電子ボード……ペンで字が書けて、しかもこんなに自然に見えるなんて」

「えっと、どういうことかしら?」

 首を傾げるアリス。ホンシアは電子ボードから指を離し、背もたれに寄りかかった。

「超薄型のタッチパネル式電子ボード。軽量でしかも解像度も光度センサーもとんでもない、多分最新型の、高級品」

「よく分からないけど、そんなのを持っているということはお金持ちの人と一緒に暮らしているのね、ベイビードール」

 アリスの突飛とも取れる結論に対し、ベイビードールは小さく頷いた。

「やっぱりそうなのね。もしかして、住んでいる場所が秘密なのもそのせい?」

 ベイビードールは再び頷いた。

「そうなの……それじゃあしょうがないわね」

 すまなそうな表情で、ベイビードールは小さく「ぐうぅ……」と言った。

「あのー……話の腰を折るようで悪いんだけど」

 ホンシアが右手を顔の高さに挙げ、その右手で今度はベイビードールを指した。

「結局、この子って誰なの?」

「この子は、ベイビードール。私とは、昔からの仲良しなのよ」

 ベイビードールが電子ボードを抱えたまま、ホンシアに会釈した。

「変わった名前だけど……あだ名?」

 その言葉に、アリスは自分たちが人間で無いことを隠さなければならないことを思い出す。ベイビードールと再会したことの嬉しさのあまり、危うく奈々子との約束を破る所であった。

「ええ。でも本名みたいなものよ。ずっとそう呼んでいたから」

 我ながら上手い誤魔化し方だと、アリスは心の中で自画自賛する。

「幼馴染ということは、ローエングリンとも知り合いってこと?」

「ええ、もちろんよ」

 ベイビードールも頷く。

「ふーん…………まぁ、いっか」

 ベイビードールが現れてからずっと訝しげだったホンシアの視線が、穏やかなものに変わる。

「ケーキでも食べる?」

 アリスの前にあったチーズケーキの皿を、ホンシアはベイビードールの前に移動させた。

「あっ、それは私のだからダメよ!」

「久しぶりの再会なんでしょ。ケチなこと言わない言わない」

 ベイビードールは下手な字で「ありがとう」と書いた電子ボードをホンシアに見せると、チーズケーキを右手で掴み、小さな口を大きく開いて食べ始めた。

「……どういたしまして」

 ぎこちない2人のやり取りを見ながら、アリスは少々不機嫌になりつつ残ったプリンを食べ始めた。


 奈々子はウェブ端末の前に大量の書類を広げ、思案に耽っていた。

 可能性として、最も高いのがこの人物。でも、あくまで可能性に過ぎないのも確か。物証も何も無い今、この人物と接触を試みるのは賢い判断では無いのだけれど……

 奈々子の思考は堂々巡りしていた。上司の最近の行動、接触した人物や受け取った電子メールの送り主などを調査した結果、奈々子はある人物に行き着いた。その人物こそ恐らく、アリスとローエングリン、大シンボル同士の接触を画策した計画者。そして、ホンシアの雇い主。

 陰島俊二。

 1983年生まれ、現在61歳。公家華族の流れを汲む名家、陰島家の家系に属する。陰島家は華族制度の廃止後も資産運用に成功し、現在まで廃れずに残ることが出来た。だが陰島家には不穏な噂、血統を重んじる余り近親婚を行っていたという噂が広まったことがあった。

 その根拠としては、年齢に対する容姿の若さが挙げられている。陰島家の人間は老化の進みが遅く、長寿である傾向が強い。それは近親相姦の歴史が生んだ突然変異では無いか、そのような突飛な論説であった。

 奈々子はまじまじと陰島俊二の顔写真を見つめる。60歳には見えないが、どんなに若く見てもせいぜい50歳程度だと彼女は感じた。陰島家の他の人物に関しても、外見と実年齢に信じられないほどの差がある人物はいなかった。総じて外見は若くはあるが、ゴシップが流れるほどのものでは無い。奈々子はそんなものだろうと予想しつつも、それを調べるための資料を根っからの好奇心から集めてしまっていた。

 しかし、収穫もあった。魔導士登録者の人数が異様に多いのだ。魔導士は10万人に1人の割合で存在すると言われているが、陰島家に関してはそれを遥かに超える確率で存在する。

 調べた107人の中に、3人。100人程度の中に3人というのは、偶然なのだろうか。理知的に考えるなら偶然とすべきであろうが、奈々子はどうも釈然としなかった。

 陰島俊二が、非常に強力な魔導士だからである。

 以前アリスを検査した研究施設を通じて手に入れた資料から、奈々子は陰島俊二の魔力がアリスに匹敵する事実を知った。魔導士を高確率で生む家系の中に、強力な魔導士がいる。これは血筋によるものでは無いか。

 魔力の謎に興味を持つ奈々子にとって、陰島家は興味深いものになりつつあった。それは同時に、陰島俊二こそが狙撃事件の首謀者であるという予感が確信の方向へと動いていることでもあった。

 この数日間、大々的とは言わないけれど目立ってしまう程度には動いた。もし陰島俊二が黒幕なら、こっちに気付いてるかも知れない。私に監視が付いていたとしても不思議は無いわね。

 ホンシアの狙撃が行われなくなって、既に1週間近く。事態は次の段階へ進んでいるのかも知れない。だったらいっそ、接触を試みた方が良いのかも。今を逃したら、何も分からない可能性がある。それだけは避けたいから。仮に無関係だったら、それで良い。シラを切られたなら、それでも良い。だけど、アリスを仲間に引き入れるつもりなら私も懐柔したいはず。それを期待するしかない。殺される可能性はかなり低いのだから、ここは思い切って行くべきかもね。

 決心のついた奈々子は、陰島俊二の連絡先へと電話をかける。電話のコール音を聞きながら、奈々子はふと父親を思い浮かべ、自嘲気味に笑った。

 自分が殺されない可能性の大部分は、警察官僚の父という存在が保障している。嫌っていても、やはり父は立派なのだ。

 奈々子はたった一瞬、ほんの少しだけ、父に感謝した。


 チーズケーキを平らげたベイビードールは、指についたケーキの屑欠片を舐めている。袖までは着ぐるみに覆われていたが、彼女の小さな両手は剥き出しの素肌であった。

 そんなベイビードールの仕草を静かに見つめながら、アリスはプリンの乗っていた皿にスプーンを置く。

 それにしても、こんな所でベイビードールに会えるなんて本当に不思議だわ。いつ何処で誰に会えるか。ローエングリンの時もそうだったけれど、偶然の再会は突然すぎて、心の準備が出来ないわ。もし分かっていたら、もっと色々なことをベイビードールに話せたのに。

 そういえばホンシアとも、奈々子とも出会いは突然だったわ。出会いはいつだって突然なのかしら。もし予め分かっている出会いなら、それはどういう時なのかしら。

 アリスがそれを考え始めだそうとした時、ベイビードールが電子ボードを取り出した。

「どうしたの、ベイビードール」

 優しく問いかけたアリスの前で、ベイビードールは言葉を書き出す。携帯端末を見ていたホンシアも、視線をそちらに移した。

 ベイビードールが電子ボードの画面を2人に向ける。「もう、かえらないと」と書かれた画面を。

 それを見たアリスは顔を曇らせる。せっかく会えたのにもうお別れなの、と彼女は口に出そうとした。それを遮るように、ホンシアがこう言った。

「そう……仕方無いかな。何か用事があるんでしょ?」

 その言葉に、ベイビードールは頷く。アリスは開きかけた口から言葉を出そうとして、ホンシアの睨むような視線に気付いた。

 ベイビードールにはベイビードールの都合がある。それを邪魔してはいけない。ホンシアの目がそう語っているように感じたアリスは、寂しさを隠せていない微笑みを浮かべる。

「ベイビードール……」

 アリスの寂しげな眼に反応してか、ベイビードールも寂しげに「がぁ……」と声を漏らした。

「また、会いましょう。絶対、必ずよ」

 差し出したアリスの手を、ベイビードールは優しく握った。返事の代わりに、アリスも弱い力で握り返す。

 その力を緩めた瞬間、ベイビードールの手はするりと離れ、彼女は椅子から立ち上がった。

「それじゃあね」

 ホンシアがにこやかに言った。その声の感じに何かが引っかかったアリスだが、別段気にせず、ベイビードールに続いて立ち上がった。

 無言で見つめ合う、アリスとベイビードール。お互いの間にある何かを確かめるように。

 しばしの後、ベイビードールはお辞儀をした。そして雑踏の中へと歩き出し、彼女は群れの中に消えて行く。その姿をアリスはただ、黙って見ていた。

 ベイビードールの耳が、見えなくなるまで。


「面白い子……だったね」

「素敵な子よ。言葉は喋れなくても、一生懸命なのよ。もっと、お話したかったわ」

 アリスは椅子に腰掛ける。再び、2人だけのテーブル。

「でも、元気そうで良かったわ。こっちに来てたんなら、言ってくれれば良いのに」

「連絡先が分かんなかったんでしょ、多分」

「あっ、そうよ!」

 何かを思いついたアリスが、大きな声を出してしまう。

「携帯のアドレスを教えてあげれば良かったんだわ。どうして気付かなかったのかしら。今からでも、追いかけて教えないとっ!」

「もう遅いって。飛んで追いかけるわけにも行かないし」

「でも……」

 アリスは不服そうに口を尖らせる。

「それに、大事な話もあるから」

 そう言うとホンシアは手提げバッグの中から紐で閉じられた封筒を1つ取り出し、皿を退けてテーブルの上に置いた。

「何かしら、これ?」

 アリスが触ろうとした瞬間、ホンシアがこう言った。

「この中身を見る前に、1つだけ聞かせて」

 アリスは視線をホンシアの顔に移す。

「少しでも、私やローエングリンに協力する気は、ある?」

「それって、つまり……」

 人殺しの手伝いをする気が、あるか。

「それは……分からないわ」

 アリスは正直に言った。人を殺すことが悪いことであることは、アリスにも分かっている。しかし自分が誰かを殺すイメージ、それは全く浮かばなかった。

 殺人は、アリスにとって想像の範疇外の行為だった。だから、否定が出来なかった。

「そう……可能性があるなら」

 ホンシアは封筒を手に持ち、封を解いて行く。開いた封筒の中身は、何枚かの資料。

「これを見てから、決めて」

 テーブルの上に、数枚の紙が散らばる。その中に1枚、写真。

 アリスがそれを発見した時、彼女の――

 

 彼女の両眼は見開かれた。

 彼女の体毛は逆立ち始めた。

 彼女の心臓は鼓動を早めた。

 彼女の両手は震え出した。


 あまりにも、それはあまりにも突然だった。たとえ写真越しだとしても、それはいつも通りの、偶然の再会。

 いや、果たして今までの再会は本当に偶然だったのか。誰かが再会を望んだからこそ、再会は果たされたのでは無いのか。

 その答えを、今のアリスには考える余裕が無かった。

 ただ、震えるだけだった。

 彼女は自身の宿敵を、人間の世界で初めて目撃した。

 言うなれば、感動的に。

「それが私たちの殺害標的。バンクス・アンド・ガーフィールド証券CEO、ルーシー・ガーフィールド」

 ホンシア、違う、違うわ。これは――

 これは、『女王』よ。

 私を打ちのめした、私を馬鹿にした、私を弄んだ、私を悩ませた、私を挫折させた、私を苦しめた、私を、私を空っぽにしようとした、無力にしようとしたっ!!

 敵、『自由の女王』という名の、敵。

 憎たらしい、ルーシー。

 私の、標的。

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