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第四十六話 雷濠、終の彼方

本物語は「タテ書き小説ネット」のPDF縦書きのみですべて文章調整しています。横書き、携帯ですと読みづらいかもしれませんがご了承ください(挿絵は横書き、携帯のみで閲覧できます)。

 米国内で最も危険な街のひとつ……デトロイト・シティ。



 世界的な自動車工業都市として名を馳せた黄金時代は過ぎ、GM、クライスラー社の凋落により、荒廃したダウンタウンはその凶悪さをより顕著なものとしていた。


 都市再生の象徴とも言うべきルネッサンスセンターの超高層ビル群は、それら貧困層をせせら笑うかの如く、デトロイトの富裕層との格差を、残酷に描き出している。


 ゼネラルモーターズ本社が入るそのビル群のなかに「タワー400」と呼ばれる、日本領事館も同居する39階建ての南東側高層ビルがある。


 その頂上階から数階に渡り、ビルのフロアを占拠しているのが、「SGLS」七つの黄金燭台教団の総本部である。


 この教団は、対外的にはダウンタウンの貧民層に対する手厚い保護と、その慈悲深い救済・宗教活動により市民から信頼され、畏敬の念をもって迎えられていた。


 しかしその実態は宗教活動どころではなく、一部の官僚・政治屋・国外スパイまでが出入りし、各産業界、工業地域との連携・癒着など、下手な国内マフィアでは太刀打ちできないほどの強大な力と、残虐非道極まりない性質を秘めた悪魔のような教団だった。


 特に中東イスラム系組織の派閥争いを巧みに利用し、世界各国のテロ活動にまで影響を及ぼす教団の力の前には、FBIすら躊躇するほどである。


 そして……それら教団の各種執行が「普通の」人間によるものでないことが、SGLS教団がいまだ壊滅の憂き目に遭っていない最大の理由だった。



 地下5階にあるスペシャルゲート前。


 タングステンカーバイド製の超硬合金を使用した鉄壁のゲートは、大型の掘削機械をここに持ち込んだとしても、多分開閉は困難である。さらに屈強なインペリアルガード数人が、その門前で侵入者を詳細まで閲覧していた。



「…………此処は、

 シーメイル野郎がウロウロして良い場所じゃあ……

 ねぇんだぞッ?

 坂本様に知れたら――――…………ッッ……

 ――――――げ、―――ぅく、――ぐっ……」


 青鉄鋼色のボディアーマーを身につけた、大柄なインペリアルガードが、自分の首を必死に抑えていた。

 自ら首を締めているわけではない。

 が、顔は真っ青に、全身の筋肉は硬直し、


 ぐぅぅっ――ッッッ…………

 ――――――――――――ぐっ、

 ――――ぐっ、はあああああぁぁぁぁぁッッ!!


 死霊、悪霊の類を玩具のように弄び、SGLS教団の索敵・情報戦をも司る人々。


 彼らの先祖は、その凄惨な罪状が欧州の宗教裁判記録にも残っているほどで、強力な降霊術はその時代々々の権力者に利用され、翻弄され、悪用されてきた。



「騒ぐな…………狡い奴らだな、

 しかも賢しい……また物乞いか? 

 あれだけ報酬を渡してもそれ、か……?」


 灰色の外套を被るひとりの大柄な男が、タワー400の最上階に乗り込んできた。


 この最上階には、幹部連と秘書程度しか出入りしない。

 通常なら厳重なセキュリティガードの包囲を突破できるわけがないのだが、黒衣死霊魔導士(ネクロマンサー)とも恐れられるその超常能力は、物理的排他機構などたやすく崩壊させてしまう。


 坂本劉(さかもとりゅう)は、いつもの法外な報酬交渉に、メイジ(魔道士)どもがまたやって来たのだと、思っていた。


「…………雷濠は中々の出来だったと言ってやりたいが……

 先日のシンジュクでは男谷涼に加え、

 今井一族も討ち漏らした、って……話だ。


 そのていたらくで……さらに俺を――――

 …………強請(ゆす)るの、か?」


 タワー400最上階の月明かりを浴び、イタリアン・ダブルブレストのスーツが、ニビ色に光り輝く。


 坂本劉は愚者を見下すような表情で……

 その外套の男に振り向きもせず、


「……そいつは、筋違いってもん……―――――ッ――ッ、

 ――っ、―――――げ……―――――」



 ――――――――――ぐ…………ッ、 

 …………ッウ、

 ぐぅぅぅぅッ…………ッ、



 ……や、やめッ……っ、く、

 ――――――――――っ、お、

 ………おッ、お前はァァッ!!」



 

 まるで……工業用の精密加工機器で水平方向と垂直方向に美しく切り裂いたプラスティック部品のように、坂本劉の身体は、直方体のオブジェ数百個と成り果てた。


「…………貴様が龍馬の末裔だと? 

 ……フッ、冗談も程々にしたらどうだ………………?」


 その紅いゲル状の物体は、ルネッサンスセンターの最上階フロア全域に飛び散り、青龍、紅龍が美しく描かれた天井と床……そのすべてを、真紅に濡らした。


「―――――――――来世で逢おう、

 …………海瑠璃色(ウルトラマリン)の瞳よ………………」




 後悔はない。


 彼の思念は、あの桂浜の美しい水面(みなも)に遠く…………

 置かれるばかり、だった。




残りの(・ ・ ・)坂本劉は……頼んだぜ…………?

 ……――東、―――菊花ァ…………」










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