第三十三話 遺体確認六千三百八十七体
本物語は「タテ書き小説ネット」のPDF縦書きのみですべて文章調整しています。横書き、携帯ですと読みづらいかもしれませんがご了承ください(挿絵は横書き、携帯のみで閲覧できます)。
夕刻6時過ぎ。
JR新宿駅からサブナードへ……
地下を歩く人々をスルスルとすり抜けるように、背の高いサラリーマン風の男数人が、西武新宿駅方面へ走り抜ける。
会社帰りのOL、暇そうな学生達、数多くの買い物客……平松晶子の魅力的なナレーションが地下街を華やかに彩る中――――
台車に乗せられて無造作に運ばれてきた、女性のマネキン人形は何の違和感も無く、5分程ドトールコーヒーの入り口近くに佇んでいた。
着せられたヒスグラの(ピンクレオパード柄)ワンピースには、欧米女性のヌードアートと共に「SAKAMOTO」と、ご丁寧にプリント済みだった。
数秒後、ゲルコートとガラス繊維製の淑女は、
死屍累々の行列を生み出す死神となる…………………。
……ピッピッピッ…………ピッピッ……ピッピッ……
―――――――――――――――――……シュウ……ッ……
――――………………シュ、シュ……シュ………………
――――――――――――――――――――――――カチッ
――――――――ドドドドドドドドドドドドドドドゥッ!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!!
新宿サブナード地下街を、巨大な爆光が――――――――
――――――――ドドドドドドドドドドドドドドドゥッ!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!!
その青白い閃光は、爆風で数百メートル先の壁に人間の束を叩きつけ、黄金色に燃え上がる炎の塊を、密集した地下街の区画全てに撒き散らした。
三千度を越える超高温の爆炎は、硬直した肉体のひとつひとつを一瞬のうちに溶解し、その悲鳴は地下街の闇に消え去っていく。
――――――――――――――ぎゃああああああァァッッ!!!
全身が焼けただれ、どす黒い噴煙にまみれた人の形をした物体が階段を駆け上がってくる。
数メートル下は超高温下の焦熱地獄であり、人々の断末魔すら掻き消され、その絶叫が聞こえてくることはなかった。
同時刻より約30秒後……かつて伝説的アニメショップが入っていた新宿御苑前のビルから、やはりスーツ姿の男が新宿通りを四谷三丁目方向に走り抜けて行く。
タイミングを間違えたのか、既に受身姿勢を取るような形で逃走していた。
――――――――ドドドドドドドドドドドドドドドゥッ!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!!
こちらも青白い閃光爆裂を見せた。
定番のコンポジション4か、あるいはその改良型か。
続いて新宿御苑前とほぼ同時刻に、都庁第一庁舎から新宿中央公園を抜けて、熊野神社の狛犬に飛びつくように伏せるスーツ姿の男。
――――――――ドドドドドドドドドドドドドドドゥッ!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!!
高速爆轟が都庁前で炸裂……A4出口前に駐車していたタクシー、自動車が向かい側の新宿住友ビル側の歩道まで吹っ飛び、壁に叩きつけられ炎上爆発……続いてNTT代々木ビル横のガード下、新宿マインズタワーと、新宿駅を中心に、次々と爆煙が上がって行く…………。
「―――――――――ついに狼煙が!?
……いきなり新宿でやらかすとは、な…………
全隊を消火、救助に回せッ!
――――カモフラージュは解かんでいい。迅速になッ!」
東千住の教会前で、46号から連絡を受けた今井信次郎。
傍らの部下に指示を飛ばす。
フィリピン、台北、漢城……坂本劉のきまぐれな大量殺戮事件にも立ちあって来た信次郎。この惨事下に於いても慌てることはなかったが、その先発隊の初動には注目していた。
「新宿といえば……歌舞伎町の例のマンションに動きはあるか?
男谷の姐様はッ!?」
ヤクザ、暴力団員が多数入居し、36もの団体が同一マンションに在を置く。
暴力沙汰や殺人事件も頻発している有名な高層マンション・通称『ニニギ』は、歌舞伎町の外れにある。
マスコミ、組対課の捜査員らも常に目を光らせているほどで、SGLSの息のかかった組員、教団関係者も出入りを繰り返していた。
岡田雷濠ら先発隊がその首を狙う反坂本派の首領らも、その姿を見せるマンションである。
「……ニニギに張り付いている23号からは何も連絡は………姐様の携帯、トラックの発信機等はGPSから消失したままです!
AVNIR―5でも追えません!」
「……姐様と連絡が取れないとは―――――――……
新宿のこの惨状を知れば、
ニニギ辺りに姿を見せてもいいはずなのだが……」
今井信次郎は特殊クルーザーから愛機SPヨタハチに乗り換え、
「……ここからはひとり、わしは単独でゆく。
貴様ら、消火・救出・事態収束に集中し、
総監からの撤退命令が有り次第、
車両、装備を各署に解放して本部に戻れ!」
対ショックブーツの紐を締め直す信次郎。
亞蘭家の私兵は、彼の茶飲み友である警視総監・古屋佐冶郎が直接動かす場合もある。彼らの中には、警察組織の内部に入り込んでいる者も多数いるのだ。
「し、しかし……大佐おひとりで……?
我らもバックアップに回ります!」
「坂本劉の真意はともかく、この現状では岡田雷濠ら先発隊の来日は、多分……反坂本派の首領殺しが第一目標ではない。
直接わしと京也に……喧嘩を売っておるのだッ!!
我々の私闘に………………
何の罪もない一般市民を、これだけ巻き込んで…………」
今井信次郎の言葉はそれ以上続かなかった。
冷静な瞳が震え、
隠しきれない老年剣士の憤怒の表情が……端々に溢れ出た。
「―――――岡田雷濠は男谷一族と同様、
超常のチカラを持つ……あるいは、
別種の能力も持ち合わせているともいうが……
わしひとりでは……彼奴は倒せん…………ッ!」




