第ニ十九話 トウキョウ虐殺・シンジュク崩壊の章 開幕 その1
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関東天国門のだだっ広い車両置き場。
田畑を埋め立てただけの雑な作りの駐車場には、
白線すら引かれていない。
パッと見は、単なる空き地でしかなかった。
すべてのトラックがこの敷地に集まる事はなく、ローテーションを組み、常時全体の四分の一程度の台数しか駐車しないようになっていた。
偽造ナンバープレートを毎日取り替えるあたりは当然としても、トラックのボディカラーまでは簡単に交換出来ないからである。
違法産廃トラックの出動は今日も行われたが、今日に限っては不可思議な事態が重なり、約半数のトラックが帰還することは……………………なかった。
「――――――――――なんだってッ!?
……っそ、そんな、馬鹿げたこと……が……
秋元までやられたってのかい!?
あいつは確か、ケツもちだったはず……」
男谷涼が激昂する場面は、珍しい。
現在天国門に在籍している人間は、彼女のそんな姿を一度も見たことがなかったはずである。
「……いえ、それがちっとも状況が判らないんで……
奴のトラックがいきなり転倒して……」
「秋元だけじゃありません。前田も、下田、
安河のアニキに、仁平の奴も……」
国道沿いで原因不明の頭痛、嘔吐で停車が3台。
パンク2台、電気系統故障が2台……他のトラブルも複数発生し、ほぼ半数の車両が犯行前にストップせざるを得ない状況だった。
残ったメンバーで強引に産廃トラックの移動を敢行すると、不思議なことに全てのルートに警察車両がくまなく配備され、天国門のトラックはただ逃げ惑うしかなかったという。
しかも、不可思議な車両転倒も続発した。
ドライ路面にも関わらず、素人のようなスリップダウン、パワステの電気トラブル……到底考えられない事故が多発。
―――――――しかもそれらは、
ほぼ同時刻に起こっていたので……ある。
「……単なる不運だの、運転ミスとは思いたくないねぇ?
フッフッ、お釈迦様にでも嫌われたのなら、別だけどねェ……」
怒りを通り越して……苦笑するしかない、男谷涼。
彼女はそこらのヤクザ者など、縮み上がるほどの地獄をくぐり抜けてきた。この程度のトラブルなど日常茶飯事。どうということは、ない。
ただ、今回ばかりは何者かによる作為的な犯行であることは間違いなく、しかも最大の問題は、どう考えてもそれらを人為的に行うことは、限りなく不可能………。
究極的に言えば……それらは全て、人間に……
よるものでは、ない―――――――。
「姐さん……本店から連絡が……」
あまりに同時多発。
その電話のタイミングも奇妙すぎた。
そしてその電話の内容が、男谷涼を心底震え上がらせるほどの衝撃であったことは……最悪の事態すら脳裏に浮かび、いつもは老成持重な彼女が少なからず狼狽している……それは周囲の誰の目にも明らかだった。
「……あ、姐さん……集合掛けますか?」
恐る恐る聞く松谷トモキ。
天国門ではベテランのひとりである。
彼女の困惑の表情に、これ以上ない程の恐怖を、感じ取っていた。
「…………集めてる暇はないね……小一時間中にも、
ここから全員消えたほうがいい。
あまりに危険すぎる……皆への避難指示は頼む。
それと……」
流石の男谷涼も……思わず息を呑む。
「タクミには、あたしに直接連絡するように言っておくれ。
ツレのあの子は任せたよッ!」
言い放つと、事務所に駆け込む男谷涼。
机からTT―33、床下からAKS―74、
そして一振りの轟剣・備前長船兼光を取り出した。
「………ちッ、こんなところで……
精一郎様の佩刀を……使う破目になるとは、ねェ……」
ひとりつぶやきながら、携帯を押すその表情に、
男谷涼の決死の覚悟が―――――――にじんで、いた。




