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第ニ十八話 SSS 「榊原組」

本物語は「タテ書き小説ネット」のPDF縦書きのみですべて文章調整しています。横書き、携帯ですと読みづらいかもしれませんがご了承ください(挿絵は横書き、携帯のみで閲覧できます)。

「貧血でも起こしたのか? 


 外傷もないし……おい、

 あんた…………大丈夫か、?」



 ゆっくりと、その両の瞳を開き始めた東菊花。


 星々の輝く夜空を見上げると、右から流れ星が往く。

 僅かな街灯の光が差し込む。



 ……………はっ、と我に帰る菊花。



 目の前には眉目秀麗な少年の顔があった。


「……ふぇっ!? ……あ、……あれっ!?」


 ガンダマセンチュリー(みのり書房 伝説の書)を探そうと身を起こそうと……しかし、身体が言うことを聞かない。その時初めて、菊花はその少年の筋骨逞しい両腕に……抱きしめられていることを、知った。


「……っ!? きゃっ? ……っっ、!? ……っっ??


 ―――――きゃあああああああああああああぁぁぁっッ!!」


 太腿に男性の手が触れた感触に、少女は思わず絶叫。

 少年の両腕から転げ落ちる菊花。


「……あ、おいおい大丈夫かよ? 

 ……何だよ一体……びっくりさせちゃったか?」


 (……あれ? ……あたし確か……―――――

  ――――血だらけになって、片手も……ちぎれて…………

  それに、あの……ふたりの狐面は……?)


 きょろきょろ辺りを見回し、瞳をパチクリさせる菊花。

 少し照れるような表情で、

「……あ、あの、あたしィ…………どうしたんだろ? 

 あ、……あははははっ……」


 とりあえず笑うしかない。

 先程まで死をも覚悟していた壮絶な記憶は、殆ど消え去っていた。


「さ、送っていこう……汚ったねえバイクだけどさ。

 お嬢さん、おウチはどこかな?」


 その少年は優しく手を差し伸べ、少女のスカートのすその埃を叩く。暗がりではっきりとは見えないが、少年の精悍な顔つきに菊花も思わず頬を赤らめた。


 が……瞬時に、少女の目はつり上がった。


 自分を子供扱いするような、フェミニスト気取りの……その異国人の様な少年の優しい物腰が、東菊花の癇に障ったらしい。


「……け、結構ですわッ! あ、あたくしの家、

 すぐそこですし………ご、

 ごめんあそばせッ!」


 プイッ、とふくれっ面で、踵を返し足早に走り去る菊花。


 顔を真っ赤にしていたのは怒っていたわけではない。

 この恋愛未経験・不器用少女が、異性を前にして恥ずかしげな表情でムキになったのは……人生初めての経験だったのかもしれない。


 (……メンズってばさ、これだから嫌なのよね……ったくゥ! 

  よりによって初対面の女性のフトモモにさぁ、触るなんてさァ、

  ぷんぷん! ぷんぷん! ぷんぷん!

  デリカシーってかさぁ、……ぷんぷんぷん! 

  そーゆーものが、さぁ……!)


「……おい、こんな夜道じゃあぶないぞ、

 送ってってやるから……おいおい、待てよォ……」


 スーパーカブを押しながら、夜道を送っていく榊原タクミ。

 

 腫れ物を触るかのように、菊花をなだめるタクミだったが……。

 内心は、《助けてやったのは俺なのに……なんでこーなるの?》と困り果てていた。




 ……しかし少年は、なぜかその少女に惹かれるものが……あった。


 恋愛感情では、ない。


 ―――――この少年にとって、

 初めて出会った人間に、こんなに会話が続いた経験は……

 今まで、無かった。



 まして徒党を組んで狂犬のように隣人に噛みついていた、

 あの頃には……。





 SSS――榊原組、とも呼称された、

 飲酒運転のドライバーを、その場で完膚なきまで叩きのめす凶悪な暴力グループ……その首領(リーダー)が榊原タクミ、だった。


 主に繁華街、夜の酒場に出没し、飲酒者が車に乗るのを待ち構えてその車両を破壊、ドライバーを車から強引に引きずり出し、半殺し以上殴り続けるのが常套で、その飲酒運転のドライバーが「二度と公道を走れなくなる程、恐怖と絶望感を与える」というのがメンバーの活動主旨だった。


 もちろん、元々はタクミの母親が飲酒運転のトラックに、数キロに渡って轢きずり殺された悪夢から始まったことである。

 13年間悪夢に苛まれたタクミの思いと、他のメンバーの思惟が必ずしもシンクロしていたか……というと疑問は残り、特にメンバーが増えた活動後期には、証拠写真・動画撮影まで行うメンバーも現われた。


 タクミ自身は衝動にかられるように飲酒者を殴り続けていただけだったが、後にはそれら証拠データをそろえて警察に違反ドライバーを突き出し、義賊気取りのメンバーまで現われるようになっていく。



 彼があるメンバーの裏切りで警察に売られ、活動を停止せざるを得なくなった後は、島田虎仁がそのグループの仮のリーダーとなったのだが………。






「……えっ!? ここが!? お嬢さんのお家だってェ……!?」


 唖然とする榊原タクミ。


 背が高くて……髪が長くて……

 変なオタクグッズを多数持ち歩いている少女。


 そう、聞いてはいたが……こ、この女の子が!? 


 門前で彼女の正体を知ったとき、タクミの表情は一変した。


 


 全身が硬直し、少年は言葉に詰まった。




「――――――あ、……っ……あの、さ……

 島田のこと……俺、聞いたよ。


 俺自身、色々あったから……長い間、

 あいつの処に行ってやれなかったんだ………


 島田って、あぁ見えて……結構、

 マジメなトコロもある奴で、さ………


 屋上の自殺のことでずっと悩んでて……あいつ、

 ずっとマジで、死にたがっていたんだ。

 苦しんで……いたんだ。


 あの日が来るまで、は…………さ」






 榊原タクミの言葉は、そこで停止した。

 

 慟哭、後悔、そして、感謝…………

 少女の顔を見ることすら敵わず…………暫くの間……。



 


 榊原タクミの土下座は、続いた。

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