第十一話 菊花、背中の傷跡
本物語は「タテ書き小説ネット」のPDF縦書きのみですべて文章調整しています。横書き、携帯ですと読みづらいかもしれませんがご了承ください。
無事マザーベースに着艦した第一次特別攻撃部隊。
その大戦果を報告すべく、第二理科室に集結していた。
しかし中将閣下はご機嫌ナナメ……。
「――――――……で、おまいらは結局、
何をやらかしてきたんだッ?」
理科室の教卓に座り、
ひくひくと唇を振るわせながら丈太郎が3名に問うた。
「爺から重大発表があると聞いて来てみれば……
プール更衣室で変質者が3人出ただの、
爆破テロが起きただの……しまいにゃ、
俺まで同類と見られた日にゃ……」
頭をかかえる丈太郎。
ふるふるふる……と、子犬のように泣いている。
「ふっふっふっ、丈太郎様ご案じ召さるなァ!
星1号電撃作戦は無事完了致しましたぞッ!
撃墜王が2名も我が軍にはおりますでなァ。
ふっはっはっはっ!」
嬉々とする爺。
「クックックックッ……これで、
制空権は我が軍が掌握したも同然ッ!
宿敵ハルトマンとの決着の日は近いぞッ!
妙、最終決戦兵器の用意はどうじゃッ!?♂」
興奮冷めやらぬ忍。
「ヒッヒッヒッヒッ……ゲルドゥルバ照準で
スタンバッておりますゆえにのぉ……♪♀」
一体何をさらに準備しているのやら、妙は大きなダンボールから何やらゴソゴソと取り出し、着々と第二次攻撃の準備に入ろうとしていた。
時々、冷静な爺すら悪ノリ・暴走することがあり、こうなると丈太郎も手がつけられない。
「……わ、判った……貴様らの情熱は相判った。
東菊花攻略作戦は一旦中止だ。
それよりも、結局今回の『戦果』って奴は
一体、何だったんだ?
彼女の秘密が何か判ったのか?」
とりあえず第二次攻撃部隊を出撃させるわけにもいかず、
必死に話題を変える丈太郎。
「――――フッフッフッ、兄者ァ、驚くなッ!
……それは……♀……」
もったいつける忍。
「―――それはッ!?」
馬鹿にしていたわりには、身を乗り出す丈太郎。
「彼奴の乳あてバンド………意外や白、
にござったアッ……♀♀♀」
自信満々の亞蘭忍。
…………はっ、はあぁァァっ!? 拳を握り締める丈太郎。
「……乳あてどころかサルマタまで白とは…………
それがし不覚にござったァ……♀♀♀」
「……あのなァ……下着の色まで調査せよ、
って俺が言ったかぁ!?」流石に丈太郎もただ笑うしかない。
「おっほっほっ、兄者、忍の冗談はさておき、
東菊花の十字架のネックレス、ご存知か?♀」
「……ネックレスは……
何か掛けていたような気もするが、な……」
やっと本題に入った雰囲気に、ホッとする丈太郎。変質者の仲間入り認定の挙句、襲撃目的が下着色調査ではたまったものではない。
「あのクロスのネックレスには、
例の家紋の彫刻が確認できましてな。
それから……♂」
「……それから!?」
「……クロスの裏には……『信友』……
の二文字が彫り込まれておりましての……♀♪」
「――――――信、……友………………?」
「友を……友だちを信じる、って意味かなァ……
爺ィ、どう思う?」と丈太郎。
「ふうむ、何でしょうな……
漢字の意味からするとそうなりますが、な……」
「あ……あと、あの施設名が「精信」だったろ?
そこから一文字とって……あるいは、
単に好きな漢字でも彫りこんだんじゃないのかね……?」
「……むぅ……」
考え込むような姿勢で、丈太郎の推理を聞く爺。
「忍、妙……あ、あとは……何か気が付くことはあったか?」
まとまらず次の質問に移る丈太郎。
「あとは……オパ~イがひたすらなめらか、
ぷっちんぷりんを遥かに超越した婬猥さ……♀」
「く、首筋が、猥雑な団地妻あたりとは比較にならぬ程淫猥で猥褻な、しかも淫靡な……♀」
…………ふんふん♀♀、
と今度は爺がカラダを乗り出して聞き耳を立てる。
「……っ、……お、おまいらなァ…………」
あきれて理科室を出ようとする丈太郎。
「……ととっ、お待ちをッ、兄者……
その首筋の下にはッ! …………」妙が引き止める。
「首筋の下には……!?」
扉に手をかけつつ、丈太郎が顔をヒクつかせながら振り向く。
「――――――東菊花の首筋から背中にかけて……
結構大きな傷跡があったのよん。
女の子なら、ありゃあ色々と厳しいだろうねェ……
水泳嫌いも頷ける……わなぁ」
「………背中に………傷?」
理科室の窓側に視線を移す亞蘭妙。
「最近の傷じゃあないよ。
結構年数経ってる傷跡と見たね……」
忍、妙、そして今井信次郎も、このときだけは……
少しだけ表情が陰っていた。
亜蘭丈太郎は、明日にも実行に移そうとしていた、
その「決断」に………………
もしかしたら自分の認識の甘さが多分にあるのではないか、
と暗澹たる思いにかられていた。




