第十話 星1号電撃作戦 (挿絵)
本物語は「タテ書き小説ネット」のPDF縦書きのみですべて文章調整しています。横書き、携帯ですと読みづらいかもしれませんがご了承ください(挿絵は横書き、携帯のみで閲覧できます)。
まだ六月。夏には少し遠い。
気温は日々上昇しているが、流石に水泳にはまだ早い時期。
しかしこの中学校には室内プールが完備され、夏場に限らず水泳の授業は行われている。また他校から練習に訪れることもあり、年中このプールは稼動していた。
そんな中、現世では異形とも言うべき出で立ちの2人組が、プールへと続く廊下の曲がり角に佇む。死をも恐れぬその瞳は、歴戦の勇士そのものだった。
彼らにとって、水泳がどんな意味を持つのかは皆目検討もつかなかったが、しかしまともに水泳を学ぶ、授業を受ける……いや、泳ぐと言う行為そのものすら……全く想定はしていないのだろう。
あれは泳ぐ格好ではない。
あるいは――――…………――――「飛ぶ」のだろうか?
「……レッド2、すたぁンディンばぁいッ!
ドゥーゆぅコぁーぴぃ? かまんダー?(妙)
「おぅーケィぼォーいず、ECCMオンッ!
ほぉールッタイッ! あクセラれいッ!
ッタック・すぴードゥッ!」(忍)
訳の分からないカタカナを叫びつつ、戦闘隊形に入る忍と妙。
「――――――2、3、4ジャベリンッ……
レェでぃ! せっツ!」(妙)
本気と書いて「マジ」と読む……ふたりの表情は、
見た目には真剣だった。まぁ、真剣なのは顔だけ……だったが。
スクール水着を着つつ、上半身を90度倒すケツ出し姿勢で両手を広げ、廊下を滑空する。それだけでも十二分に、世界変態チャンピオンシップは連覇可能な光景だった。加えて頭部には戦闘機の機首部分と思わしきパーツが増加装備され、ご丁寧に左右の両耳には戦闘翼らしきパーツもくくりつけられ、突き出したお尻には垂直尾翼まで……。
なぜここまで細かいところにこだわるのかは知る由もないが、さらに太ももには所属部隊マーキング、ナンバリング、ほっぺたにはパーソナルマーク……忍がブルータイガー、妙はホワイトウルフ。おまけに撃墜マークまでぺったんこの胸元に施されていた。
ちなみに撃墜マーク有り、ということは初陣ではない。
歴戦の勇士・撃墜王なのだ。
両手にはクラッカー数個、ドラゴン花火、また他の武装も追加装備されているようで、長距離爆撃も可能としたバトル・アタッチメントは抜かりない。
「嗚呼、神風の伊勢の海の大石にや……
細螺のい這ひもとへり……うちてしやまむ……」
爺が女子更衣室の横で敬礼しつつ、出撃して行くエースパイロットたちに戦勝を祈願する。
ただ、「紫色」の背広姿と言うものは、女子更衣室前にあってはならない恰好のひとつかもしれない。プール更衣室の横を通り過ぎていく女子生徒の誰もが、
「誰ぇ? この変態ジジイッ?
……ゲロマジィ!?」
「……ずいぶん派手なノゾキ野郎じゃんッ!?
…………ってか、死ねッ」
「おっさん………………正気ィ?」
……と、爺が完全なる変態超人扱いであったことは、言うまでもない。なぜか、白髪の頭頂部にのみ……垂直尾翼がお茶目にも装備されている。
「さぁて……忍様と妙様のお手並み拝見、
と参りましょうか……ほっほっほっ……」
爺はどんなに変態扱いされても、精神的にはノーダメージらしい。
女子更衣室前にも関わらず堂々と胸を張り、
彼は軍人の何たるかを誇示していた。
……いや、別に彼がココに居なくても、本作戦には何の支障もなかったのだが……彼なりの性的嗜好の現れ……もとい、作戦参謀としての責任感だったのかも、しれない。
そんな時、メインターゲットが遂にその姿を現した。
忍と妙の瞳が輝く。
「来たなァ……連邦のッ!」(忍)
「忍ちゃんかい? 早い、早いよォ……」(妙)
「ターゲットがブラに手をかけるまで……手を出すなよッ!
奴は俺がやるッ!」(忍)
忍と妙のスク水・ハンケツ丸出しの変態飛行、もとい編隊飛行は数分間、女子更衣室前にて変態ショーの如く繰り広げられ、不必要な大勢のギャラリーを生み、歓声まであがる始末。
しかしターゲットがその姿を現した瞬間、ステルスモードに変更。爺が大きなラシャ紙で第303戦闘機小隊を包み込み、廊下の壁と一体となった。
……多少無理のある、木遁の術……だったが。
「……やだなぁ…………あたし、水泳嫌いっ……」
東菊花は泳ぐのはあまり好きな方ではない。
今年は中学校指定の水着は購入出来ず、昨年の小学校時のスクール水着を、そのまま着用するしかなかった。
6年3組のネームタグの縫い跡が、余計にそのほのぼの感を演出し、水着のおしりの部分には、プールサイドで擦れた「毛玉」が多数付いているのも恥ずかしかった。
ただ、他にも水泳嫌いの理由はあったのだが……。
「……と、取れないっ……ったく、毛玉って奴ってばぁ……」
昨夜30分ほど毛玉と格闘したが、毛玉の全削除は到底不可能。また身長が伸びた事でタイトになってしまった昨年のスクール水着。試着すると胸部は明らかにキツかった。
更衣室に入り、がさがさとその水着を取り出す菊花。まだ誰も更衣室にはいない時間。菊花は手早く着替えてしまおうと思ったのだろう。
「あーもォ~水泳、休んじゃおうかなぁ……」
そのほうが良かった。
その選択が最良だった。
運命を先読みできれば、人は分かりあえる。
人の革新……宇宙世紀にあっても尚、誰もが知り得ながら愚かな間違いを繰り返す。東菊花もまた、同じ轍を踏んでしまった。
女子更衣室はそれほど広くはなく、戦闘翼展開には多少支障はあった。しかし歴戦の勇士であるレッド2とゴールドリーダーは、躊躇なく最大戦速に移行していく。
菊花が制服の上着を脱ぎ始めた。ゆっくりとスカーフを外す。
「……あ~この水着ィ、絶対きついな~
胸ぇ、入るかなァ……?」
その長い黒髪が上着の襟を通過するとき、彼女の視界は一瞬ブラックアウト状態になる。流石の東菊花も、この瞬間だけは無防備極まりない。血に飢えた狼たちが、その好機を見逃すはずはなかった。
忍のターゲットスコープが煌いた。
妙もバックアップ体制に入る。
突撃変態……編隊は、メインターゲットにインメルマン・ターンを仕掛け、縦方向の空戦機動はターゲット側に一瞬の隙を生み出していく……
厚いジャマーが俺を熱くするぜッッ!!
「……スティィおんッ・タァーげッつッッ!!」
「でィスィズィッつッ! ぼぉーイずッッ!!」
突乳ゥ――――――――――開始ィッッ!!
すぽぽぽぽっ♪ ……ぽぽぽぽっ♪ ……ぽぽっ♪
……ぷにゃ♪ ぷにゅ♪ ぷにぃぃ♪―――――――っ、
―――――――――――――こっ、これはッッ!?
♂♀……ぷにゃゃっ♪ ぷにぃぃ♪ ぷぬぬぬっ♪
ぬぬぬっ♪ ぬぬぬっ♪ ……ぷににににににっ♪♪
ふんふんふんっ♪♪♪♪ ふんっ♪
ふんふふんっ♪♂♀…………!?
…………えっ!? ………………あ、あたってるっっ!?
「……っ!? きゃっ?
――――――きゃああああああああああああああっっっっ!!!」
菊花の悲鳴が、空虚なプール女子更衣室に響き渡る。
胸の谷間に異物が――――突乳していくッッ!!
……ぷににににににっ♪
「~むぅうう……こりはふにふにして極楽じゃのぉ……
プルプルプル☆♀☆♀」
その機首を胸元にねじ込み、ひとり悦に入る忍。
紅潮した白肌があたたかく、心地良い。身長が高いので目立たなかったが、意外とバストサイズは大きめだった。
一方、妙は東菊花の背中側に回り、ゴソゴソとなにやら隠密工作を行っていた。
「……お、おまえらぁ~~~や、やぁめい!
下着があぁ……の、伸びるでしょっっ!」
「……あっ、っ…う…うぅ……
うんっ………っ、あ………」
身体をねじらせ必死に抵抗、
「…………や、や、やぁめなさいぃィ!!」
力が入らず、憤怒の言葉すら弱々しい……顔を真っ赤にして、恥ずかしげに身体をくねくね震わせ抵抗し続ける菊花。しかし、ブラがどんどん下にズレ、さらに垂直尾翼が制服にからみつき、動くに動けない。
「ねぇちゃんエエやないかァ~エエ乳しとるがなァ~
カラダのほうは正直やでぇええぇ♪♂」
忍の暴動は止まらない。
執拗な胸部攻撃は、本能の疼きも多少あったのかもしれない。
「……や、や、やぁめてって……いぃ、
言ってるでしょっっ!」遂に半泣き状態………
「……あっ……あん……あ、…んんっ!……」
恥辱からか、必死に抑える喘ぎ声が………
「ちょ、ちょっと、あ、あの……ほ、ホントォ……」
悩ましげに更衣室にこだまして………
「―――――や……やぁ、やめてえぇぇぇぇっっ!!!」
とうとう泣き笑い状態の菊花………
「………………やはりあの家紋!」不意に亞蘭妙が叫ぶ。
「……えっ!?」
その時、
「誰かいるの!? 大丈夫ぅ!?」
悲鳴に気づいたクラスメイトが、数人更衣室に走ってくる。
「……忍ッ! 確認したッ! 各員ッ!
可及的速やかに脱出セヨッ!♂」
「アイサーッ!♀」
妙は手に取っていたネックレスらしき物体を手放すと、東菊花のスカートをズリ下げながら、手にしていたクラッカーを複数同時に鳴らした。
「――――――パパッパ☆パパパパッ☆
パパッパパパッパァ☆アアァァァンンッ!!!」
爆発音と共に、同時に凄まじい煙幕が発生。簡易スモークディスチャージャーは、彼らの狙い通り……視界ゼロ空間を演出していく。
「ぢゃ、そーゆーことで♪♂」
双頭の撃墜王は一目散にヒット&アウェイよろしく、更衣室を走り抜け、見事脱出。カラン……カラン……と、コスプレ部品はいくつか脱落していたが……。
「…………てててて……あててっ……」
下着がからまってスカートはズレまくり、豊満? な胸元もほとんど露わに……。思わずその場にペタン、と座り込んでしまった菊花。
「菊花ちゃん、だ、大丈夫ぅ!? 怪我はないっ!?」
クラスメイトの風間真子だった。真子は菊花の元に駆け寄り、あられもないその姿に思わずサッ、と炎の一角獣が描かれたスポーツタオルをかけてあげた。いつものこととはいえ、あの姉妹には誰もがあきれてしまう。
唖然茫然。
顔は紅潮したまま、涙目の東菊花。
「……あ、あいつらぁ……
一体ナンの……つもりだったんだぁ!?」
クラッカーの煙が消えつつある中、しゅるるるるる……と、
残響音が……。
何故か……蛇花火が数個、可愛らしくその身をくねらせ、
独特な狼煙を放出していた。




