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三題話(恋)

Once again

タイトルを見て変な妄想をした方、

それセクハラですから

 黒い瞼が瞬くようにして、テレビのチャンネルが次々変わっていく。

 一つのチャンネルを映す時間は一秒もなく、次々に移り変わっていく。

 アニメキャラのモンスター、新発売のお菓子のCM、

深刻な顔をしたニュースキャスター。

 映像はどれも脈絡なく、気ままに何度も、

時折さっき通り過ぎた映像を映しながらも、どんどんと移り変わっていく。



 テレびの画面から目を離し、

さっきからテレビのリモコンで遊んでいる彼女に目を向ける。

 うつぶせに寝転がり、足をゆらゆら振ってもてあそびながら、

テレビのリモコンのボタンを適当に押し続けている。

 リモコンを持っていないほうの手で頬杖をついて、

少し傾げた首を支えていて、足を振り上げるたびにズボンのすそから

10代前半の子供みたいに白くて細い足がチラチラと覗く。

 華奢な肩にさらりとこぼれて背中の中ほどまで届く髪は、

上質な漆塗りの器のように黒々と光り、思わず手ですきたくなるほどだ。

トロンとして微睡んでいるような大きな瞳や、軽く結ばれた桜色の唇、

誰に聞いても間違いなく美女として通るだろう。


 しかし、素材はキレイに纏っている反面、

纏っているのが空色というにはかすれ過ぎたジーパンに、

毛玉があちこちに蔓延っている紅茶色のセーター、

極めつけがふわふわの黒い靴下。

なんというか……完全に部屋着だ。残念という他ない。

 こいつは恋人の部屋にいる自覚があるのだろうか?

 それとも20代中ごろを過ぎたという自覚がないのだろうか?

 どちらにしても危うい。


 視線は画面に釘付けだが、見ているのは内容ではなく

チャンネルが移り変わるモーションらしい。

いや、もしかしたらそれさえまともに見ていないのかもしれない。




 彼女と知り合ったのは三ヶ月前だ。

 出会ってから短いが、よく彼女は俺の部屋に来た。

自分が年頃の娘って言う自覚あるのか? とか、

付き合い始めた当初は少し戸惑ったが、今では落ち着いてきてしまった。





 今朝の事。

 テレビ買い換えました。

 そんな短く簡素簡潔なメールを送ると、

彼女は即座に近いレスポンスで”遊びに行く”と、

こっちのメールと同じく簡素なメールを返してきた。


 数十分後、彼女はお菓子とジュースの入った

ビニール袋を持って遊びに来た。この辺が子供っぽい。

 そのまま部屋に上がりこむと、

しばらく二人で画面の大きいテレビに感動して盛り上がったが、

如何せんテレビ、映る内容は以前と変わらない。

 こういう時にはDVDでも借りて来れば良かったのだろうが、

彼女が部屋に来るとは思ってなかったから何も用意していなかった。


 次第に彼女の目の輝きは失せ、

お菓子が無くなると寝転んでチャンネルをいじくる遊びをはじめた。

(機械オンチな彼女は設定を弄るなんていう高度な遊びは出来ない)



 俺も暇になって、部屋の端に置かれた消臭剤

(いつだったか彼女が臭いと言って置いていったものだ)

を振ってみたり日に透かしてみたり粒を数えたりして遊んでいたが、

さすがに3桁数えるとウンザリしてきて、

俺はさっきから何もない床に座って、

彼女をただぼぅっと眺め続けていた。


 チャンネルはどんどん変わっていく。

 さっきからずいぶんと経ったから、

きっと番組も一通り入れ替わったのだろう、

しばらく見慣れない画面が続く。



 さっきから瞼が重い。彼女の振る脚が丁度催眠効果をもたらすのか、

まぶたがどんどん下がっていく。

 眠りたくない。この間彼女の前で寝て、

起きたら顔がとある有名なヘビメタバンドみたいになっていた。

絶対寝たくない。


 何か、暇を潰せて、目の覚めるようなもの……。


 ぼぅっとした頭で目線をうろうろさせていると、

彼女の脇においてあるペットボトルを見つけた。

中にはお茶だろうか? 茶色い液体が入っている。



「コレ何?」


 体を起こしてひょいと取り上げる。

彼女は見向きもしない。


「花茶。花びらで作ったお茶」

「へぇ」


 ラベルを見ると確かに花茶と書いてある。

 少し喉が渇いていたので、半分ほど一気に飲んでしまう。


「ああぁぁああぁぁぁ!!」


 こっちに顔を上げた彼女が突然悲鳴を上げてペットボトルを取り上げる。


「飲んだぁ!」

「ごめん、喉か沸いてたから」


 こっちの声は聞こえていないのか、ペットボトルを抱えて涙目だ。


「ごめん、そんなに珍しいお茶だったのか?」

「……だったのに」

「は?」

「初めてだったのに!」

「えーっと」

「私キス初めてだったのに!」


 何言ってるんだこの女は?


「私は初めてだったの!!

 ……それを、こんなあっさり……」

「いや、ちょっと待て

 初めて云々以前にさっきのカウントするのか?」

「するもん」


 ヤバイ、泣き出しそうだ。

 頭の中は絶賛混乱中で、その最中必死に解決策を探すが見つからない。


「こういうのいつも適当だよね

初めてのデートも喫茶店で数十分お茶しただけだったし」

「待て、あれは付き合う前だろ、デートじゃないだろ」


「付き合ってなくても女の子と遊びに行くのはデートでしょ」

「いやいや、それは極端な意見じゃね?」


「……もういい」



 結局頬を膨らまして回れ右して背を向けたまま、

何をしてもこっちを向いてくれない。

 あ、分かった。こいつ眠くてグズってるだけだ。

 要するに、初めて云々が気になる訳じゃなくて、

突っかかりたいだけなんだ。


「あーもう!」


 眠くなるといつもコレだ。お前は赤ん坊かっての。

 背を向けた彼女の肩を掴むと、

強引に回しながら彼女の背に手を回して引き寄せる。、

こっちを向いて驚いた表情の彼女に視線を合わせ、唇に――――



「――これでいいか?」

「ううぅ」


 顔を離すと、彼女はまだ不満そうに顔をしかめているが、

隠そうとしても赤くなった頬と、きょろきょろ動く目が嬉しさ満点だ。


「じゃ、これでいいな」

「………………い」

「ん?」

「もう一回!」


 すねたような、不服そうな表情で見上げる彼女。

 可愛いと思ってしまった時点で俺の負け、諦めてそっと唇を重ねる。

ただ乗せるように、優しく、お互いを暖めあうように――



「もう一回」

「あのなぁ」

「もう一回……」 ぎゅっ

「う……」



「もう一回」

「いい加減に」

「もう一回♪」 にこっ

「……くそ」




 やれやれ、彼女の遊びはまだまだ終わりそうにない……




久しぶりに三題話です

お題はリモコン 消臭剤 ペットボトル

ちょっと消臭剤が地味……


今回はあえて子供っぽく行って見ました

相変わらずの激甘

ミルクセーキどころかオレンジジュース orz

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