†いつもと違う日常
「マリアぁ、ふかしたおイモ、食べないの?」
うつむき、食の手を止めたマリアの手に握られたままの食べかけのふかしイモを見て、心配そうにスージーが顔を覗き込む。
「あ? ああ。何かその…ホクホクして喉につまるんだよ…」
言いながらマリアは、おれは年寄りか?! と思った。
「えー? おいしいのにぃ…」
『そぉだわよぉ。おいしいのにぃ。大地の精霊に感謝感激雨上がり☆』
『姉さん、最後のトコはちょっと違う…』
「…」
能天気な声が二つ。マリアの耳に入った。どうやらマリア以外には姿も見えないし、声も聞こえていない。みんなはいつも通りに日常をこなしている。いつもと違うのはマリアだけ。
夢から覚めても、おかしな二人組は消えていなかった。
半透明な身体と、キラキラした薄い羽を持った彼らは、自分達を『妖精』だと言った。あのお伽話などに出てくる妖精さんだ。妖精というと、マリアはてっきり手のひらサイズの小さなものを想像していたが、現実の彼らは違った。まるっきり人間サイズだ。それなのにあの小さな飾りみたいなトンボ羽で、巧みに浮遊している。
やたらうるさい姉は、バトリー。外見年齢は17歳くらい。妖精は長生きな種族なので、外見よりも実年齢はかなり上なはず。なのに彼女ときたら、子供より子供。悪戯っぽい黄金色の瞳に、クモの糸みたいに細く綺麗な銀髪。姿だけならば妖精みたいな美少女だ。
一方、弟のリドリーはマリアと同じ歳くらいの可愛らしい少年。
外見の特徴は姉のバトリーと似ている。違う点は、姉が真っすぐに長く伸ばしたサラサラストレートなのに対して、弟はおとなしい感じに、おかっぱに切りそろえられていた。妖精も床屋に行ったりするのだろいか…と、マリアはどうでもいい様なことも同時に考えていたが、あえて彼らにたずねることはなかった。
「ったく、飯食ってる時くらい出てくんなよ…」
マリアは、誰もいない空間に向かって睨みをきかせ、小さな声で抗議した。
「マリアさんどうかしたの? 梁に向かってしゃべるなんて。天使でも通ったかしら?」
どき。
一部始終の不審な行動を、ルーシーは目ざとく見付け、指摘してきた。
「いや、天井にクモの巣が張ってんなーって思っただくだ。何でもないぞ!」
「…ふーん。どうでもいいけど、すごい汗ね。風邪でもひいたんじゃない?」
ルーシーの感の鋭さに、マリアは余計生きた心地がしない。
ああ…もう。今すぐこの場を脱兎の如く立ち去りたい!
†何か、やっと『あらすじ』に追い付いたみたいです。今回は妖精さん紹介がメインです。何をするためにやって来たねか…とかもまだ触れてません。でもこんな見えてて見えない人達がいたら、気もそぞろでソワソワしちゃいますよね。奏も何かしてて妙な視線を感じると、ロシアリクガメのマロウさんと目が合ったりします。誰もいないのにそんな感じがしたら、きっと…霊でしょうか…そんな時は速やかに、家の四隅に塩を盛りましょう。