†招かれざる珍入者
小鳥のさえずりに混じり、さまざまな声が表を行き交う。ミルク売りの声、主婦達の立ち話、子供達の嬌声。鍛冶屋の金属音。
心地よいまどろみの中、マリアはまだ布団の中にいた。どうせ朝飯の時間になればスージーが起こしに来るだろうし、という魂胆は丸見えである。
『うわー。まだ眠ってるよ。どうする?』
『どーするも、こーするもねーわよ。起こさなきゃ』
「…?」
枕元で、聞き覚えの無い声がする。それも二つ。
不思議な気配を感じて、マリアが寝返りを打ちながら起き上がろうとすると、何者かに四肢をベッドに押さえ付けられた。
「はぁ?!」
布団の上から、誰かが故意にのしかかっている感覚がする。というか、確実に乗っている。圧迫感とともに、その物体の全重量が、今まさにマリアの上にある。
「ちょっ…ちょい待て!」
『さぁ、やっちまうべさ。リドリー!』
『えぇ!? でも…』
『じれったいわな! デモもストもねーわよ!』
『わ…わかったよぉ』
威勢のよい少女と、オドオドした感じの少年の声がはっきりと聞こえる。
こちょ…
マリアの足の裏に、不快な感覚が走る。と同時に、全身の毛穴がいっせいにざわめき出す。
こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ…
「ぎぃやぁあぁぁぁぁ…モゴ…」
『うるさいわーね。静かにしんさいね!』
少女の声の誰かが、布団ごしにマリアの口を塞ぐ。
『姉さん、可哀相だよ…もういいよ』
気弱な少年の声の誰かが、彼女を止める。
「いい加減にしろ!!」
マリアの堪忍袋の尾が切れた。ありったけの力を込めて、布団の上に乗っているものをはねのけた。
『きゃあッ!』
『ほら姉さん、言わんこっちゃない…』
「何のつもりだ! おまえら…」
マリアの言葉はそこで止まった。口は最後の『ら』の形で。
なぜならば…
透き通る様な白い肌。
華奢で小柄なその背中には、薄く、キラキラ輝く四枚の…
「羽?!」
そこには、ベッドから転げ落ちて尻餅をついた格好の少女と、それを助け起こそうとしている少年の姿があった。よく見ると、彼らの身体越しに、その後ろの背景が透けて見える。
『あ、あのね…』
マリアと視線の合った少年が、少しはにかんだ顔で、微妙に頬を上気させ、キラキラの羽をパタパタさせながら言った。
『はっ…はじめまして。お目にかかれて光栄です! あの…あのッ…』
きゅっとかたく目を閉じて、思い切り上ずった声で、その半透明羽人間の少年が言った。
『お誕生日、おめでとう。マリア様』
言葉無く、マリアはその場に卒倒した。
†ごめんなさい。本編の更新が遅くなってしまいました(>_<)きまぐれに、短篇に手を出してしまったせいです!決してネタが浮かばなかった訳ではないですよ?†今回は変な生き物を登場させました。これからももっと変な生き物が出てきます。まぁ、主人公も生物学的には十分変ではあるのですが…(フェードアウト)