表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

†倹約の天使

 マリアがスージーを抱えたまま部屋を出ると、まず最初に暖かい空気が肌をかすめ、芳しい香りが鼻孔と胃袋を刺激する。思わず口の端からよだれがたれそうになる。

 焼きたてのパンのほのかな柔らかい香りに、甘いストロベリージャムの香り。脂ののったベーコンが、今まさに焼かれようとしていた。

「今日はトーストとベーコンエッグか」

「今日は、って言うより今日“も”でしょ?」

 軽やかにフライパンを振るう少年が答えた。 そう言うのも、この一週間毎朝同じメニューだった。たまにトッピングのジャムがナッツバターだったり胡麻だったりするくらい。

「ぼくとマリアの稼ぎじゃこれが精一杯だもんね」

 困った笑顔を浮かべる少年はユアン。マリアより一つ年下の13歳。体格はちょうどマリアと同じくらい。お互いに服を共用している。黒髪に子犬の様なつぶらな瞳の、穏やかな雰囲気の少年だ。特技は家事全般という頼もしい家族の一人。

 いい加減偏った食生活に潤滑をもたらすため、サラダが登場する日もあるが、だいたい葉野菜は生でサラダにして食べる。『だって茹でるとわた菓子みたいに体積が減るんだもん』と、決まって彼は言う。

 ごもっとも。

「今はまだ生活カツカツだけど、金が貯まったらユアンの店を開くんだ。スージーだって大きくなれば働いてユアン兄ちゃん助けてやるもんな?」

「うん。スー、いっぱいお手伝いするー」

「やだな…コックになるのは夢だけど、みんなに迷惑はかけられないよ!」

 マリアの言葉を聞いて、ユアンは少し慌てる。

「いいんだよ、迷惑かけて。だっておれ達“家族”なんだぜ!」

「だぜー!」

 スージーも可愛くウインクしながら、マリアを口真似して繰り返す。

「それに…おまえが店構えれば人手もいるだろ。おれも働かせてもらうし? みんなでやれば店も繁盛、左うちわでウハウハだ」

「マリア、ウハウハ?」

「そうだ、なーんでも好きなものたくさん食えるぞぉ?」

 その言葉に、スージーのエメラルドの瞳がキラキラ輝く。

「何でも? スー、ケーキ食べたい! いっぱい、いーっぱい食べる!」

「スージー。ケーキなら明日食べられるだろ? ぼくのケーキは『鼻曲がりの猫通り』にある甘味処のケーキよりおいしいんだからね」

 少し得意気にユアンが答える。確かにユアンはお菓子作りにも長けている。貧しい故に手に入る材料も乏しいなりに、蒸しパンやドーナツなど素朴かつ懐かしい味を演出する。マリアはユアンの手を“神様がくれた魔法の手”だという。

「明日何かあったか?」

「マリア、たんじょうびだよー」

「そうかー、すっかり忘れてたよ。おめでてう」

 ユアンがにわかに困った顔になる。

「…やだなぁ、マリアの誕生日だよ」

 笑顔のまま、マリアの思考が一時停止をする。目が『えっ! おれ、14の若い身空で自分の誕生日忘れてる?』と訴えていた。

「マリア、若年性健忘症ってやつ?」

†二人目の天使の登場です。家事全般をこなす、とてもありがたい子です。お兄ちゃんというより、お母さんな雰囲気をイメージしてます。まだまだだらだらと続く紹介ページですが、どうぞお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ