†暁光の天使
マリアの住まいは貧民街の一角にある。家には眠りに帰る様なもので、長屋に身寄りのない子供達と借住居だが、マリアの部屋は質素なものだ。
子供達は大部屋に…マリアは物置程の空間に無理矢理ベッドを押し込めた仮眠室。だが自然とこの場所が一番落ち着く。通りから離れていることもあってか、『目覚まし天使』がやって来るまで死んだ様に…もとい、泥の様にぐっすり眠れる。
「マリアぁ、朝だよぉ。起っきしてぇ」
意識と無意識の狭間を行ったり来たりしていると、決まってその『天使』はやって来る。
甘える様な少女の声で、マリアは目覚めた。起き抜けの視界に、眩しい光が射し込む。
「んっ…んむぅ〜…」
不意にカーテンを開けられ目暗ましをくらった。
「う〜…朝日が目にしみる〜」
「おはよぉ、マ〜リア!」
半身を起こしたマリアに少女が飛び付く。よほど嬉しいのか、抱き付いたままベッドの上で飛び跳ねる跳ねる。
「おはよう、スージー」
少女の名前はスージー。柔らかなプラチナブロンドを頭の左右で束ねた、ツインテールの可愛い女の子。宝石のように輝くエメラルドグリーンの瞳は、無邪気に笑っている。そんな彼女はまだまだ遊びたい盛りの7歳。
「あのね、あのね。きのうララおばさんにご本をもらったの〜」
ララおばさんとは、斜向かいに住む長屋の大家さん。マリアが昼間仕事に出ている間、幼い孫と一緒にマリアのところのチビっこ達の面倒をみてくれる親切なおばさんだ。
「よかったな。今日は早く仕事を終わらせるから、帰ったら読もうな」
スージーを抱っこしながらマリアはベッドを下りた。
「うん! スー、マリアが帰ってくるまでねんねしないで待ってるね!」
「ああ、約束だ」
「やくそくー!」
小さな小指と指切りをして、マリアは微笑んだ。
†ひねくれマリアの大切な天使達を紹介していきます。ルーシーは7歳にしては少し幼い女の子です。彼女には、現代の子供達に稀薄になりつつある『無垢』さを託しました。…うっとうしいですか? (汗)