†それは前触れ
「それじゃあ、留守番頼んだよ」
スージーの靴を履かせるマリアに、ユアンはホウキを渡した。
左手でスージーを抱え、右手にホウキ。
「いつもの買い物より、ちょっとだけ遅くなるかもしれないけど」
「いや、待てユアン。これはなんだ?!」
ホウキの柄にまたがろうとしているスージーごと、そのままユアンに突き返す。え? という顔をしてからユアンは柔らかなほほ笑みでもって、再びホウキをマリアに押し返す。またがるスージーが、シーソー遊びをしているみたいに無邪気に嬌声を上げる。余談ではあるが、その滑稽な光景に、バトリーは腹を抱えて笑っている。
「ホウキだけど?」
しかもスージー付きの…
「待て待て、おれへの誕生日プレゼントがホウキか? 掃除が苦手なおれへの嫌がらせか? おまえって、そんなに嫌なヤツだったっけ?」
「もう、マリアさんってばおバカさんね。わたし達が外出している間にお掃除お願いねって意味じゃないの!」
一人で靴も履き、きちんと支度を終えたルーシーが、ため息混じりに嫌味な合いの手を出して来た。
「じゃあおれも行く。ルーシーが残って掃除しろ」
「まぁ! それがいたいけな美少女に対する台詞? 信じられないわ!」
『少女』というより『幼女』だが、あえてマリアは突っ込まなかった。ぐっとこらえるのが、大人の証…
「マリアは“しゅひん”だから、お家で待ってなきゃダメなんだよ」
相当この遊びが気に入ったのか、ホウキに抱きつきながらスージーが言った。
「マリアは用事をいいつけないと、お家で待っててくれないんだってルーシーが言ってたのー」
マリアがルーシーに振り返ると、少女は一瞬狼狽した。だがすぐにいつもの高飛車口調に戻る。
「ほら、二人ともいつまでグズグスしてるの! 日が暮れるわよ!」
「えー? まだお昼過ぎたばっかりだよー?」
(…ルーシーなりに気を使ってくれたのかな?)
ルーシーにも可愛いところがあるんだな。
気恥ずかしいのか、ルーシーは一人先に外へ出る。マリアは小さなレディに対して失礼のないように、わざと気付かないふりをしてその小さな後ろ姿を見送った。
ルーシーの後を追うようにしてユアンと、手を繋いだスージーが『バイバイ』をしながら出ていった。
三人のいなくなった我が家は、一気に静けさを取り戻す。
“いつも”であれば。
『なんなのさ、あの冷たいちびっ子は! 本当に人の子かいな? まるでアタシの大っ嫌いな“氷雪花”の妖精みたいにツンツンしちゃってサ!』
バトリーがルーシーにおかんむりだ。
『ごめんなさい、マリア様。姉さんうるさくて』
「妖精は悪戯好きで騒がしいヤツって聞いたことあるけど、みんな“ああ”なのか?」
マリアの指差す先にはもちろんバトリーがいる。
『妖精も人間と同じで個性や特性を持っているんです。姉さんは…特にうるさいけど』
「せっかくみんなが席を外したんだ。ここらであんた達の用件を聞こうじゃないか?」
『そーだわね。アタシらが人間と接触するのには理由ってもんがあるんさね』
『マリア様、これからぼくらが話すことはお伽話なんかじゃなくて真実なんだ。だから、驚かないで最後までぼくらの話を聞いてください』
言って、リドリーは今までには見せなかった深刻な表情をした。そして懇願するような瞳で言った。
『マリア様じゃなきゃ、ダメなんです』
†かなりな間隔をおいての更新です。もう見捨てられていらっしゃる方も多かれ少なかれ?何はともかく、ここからが本題。次回からじわりじわりと何かが起こるかも?