7日目 2
「すまない」
私の目の前で、哀愁漂う美しい顔を曇らせているのは何を隠そうディゲアさん。
あの後しばらく話し込んでたけど、イーシンさんが公務で失礼すると言うのでじゃあここでお開き~という流れになった。
王族の方々が退室された後、自室に帰ろうとした私を呼び止めた美少年の開口一番が上記のセリフ。
え?私に謝ることなんかあったっけ?
っていう疑問符が顔中に浮いていたようです。
「あの噂のことだ。私の不用意な行動のせいで気分の悪い思いをしただろう。あと先ほどのレッテシーム殿下のことも......」
「え!噂のことなら私が謝りたいくらいですよ!!いきなり現れてお世話になったのは私の方なのに、ディゲアさんにまで迷惑かけちゃってごめんなさい。さっきのことも全然気にしてないです。疾しいことなんて無いんだし、堂々としてましょうよ!」
ディゲアさんはちょっと不遜な態度くらいでないとこっちの気が狂う。
だからこんな下らない噂でヘコんじゃダメだよ!!
そんな気持ちを込めて肩をポンポン叩いたら、キョトンとされた。
でも次の瞬間には......
「......わ!」
「ん?どうかしたか?」
何て言う殺傷能力の高い笑顔を!!
私が年頃の男の子なら鼻血吹いて倒れるという大惨事になってたよ!!
あぶないあぶない!!
「いえいえ!!なんでもないです!!それより今日は久しぶりにディゲアさんに会えて良かったです」
「私もどうしているか気になっていたから、こういう場を設けてくれて助かった。」
「こちらこそ来てくれてありがとうございます!あ、あと今日ディゲアさんのご両親はいらっしゃらなかったみたいなんで、今度ちゃんと紹介して下さいね」
「そうだったな。向こうも会いたがっていたから時間の合う時に連絡をしよう。父は忙しいと言っても城内に居るから会おうと思えばいつでも会いにはいけるんだが、母の方は城下で仕事をしているんで、昼間は城には居ないんだ」
「へぇ~。王族でも城下で働けるんですね」
「母は元々市井の出身だからな。仕事を続けることを了承する条件で、父からの求婚を受けたと言っていた。よほどやりがいのある仕事なんだろう」
ディゲアさんのご両親は恋愛結婚なの!?
なんかロマンチックでいいなぁ。ご利益にあやかりたいもんだわ。
「お母様はなんのお仕事をされてるんですか?」
「教師だ。私も通っていた王立学院で教鞭を取っている」
「そうなんですか!!じゃあディゲアさんもお母様に教えてもらったりしたんですね~」
「それが、やはり我が子を受け持つと無意識にでも贔屓があっては困るから、と言って在学中は一度も母の授業を受けたことが無いんだ。厳しいと有名らしいから幸運だったのかも知れないな」
「えー!ディゲアさんのお母様が厳しいとか想像出来ませんねー。日曜に手作りのケーキ焼いて息子とその友達に振る舞って、「お前の母さん若いしきれいでうらやましい!」「いやだわオホホホ。これからもディゲアと仲良くしてちょうだいね」とか言ってるイメージが......」
「すまないが、後半部分が良く聞こえなかった」
「いえいえ!ただの独り言ですから!!でもご両親が忙しかったら小さい頃は寂しかったんじゃないですか?」
とは言っても王族だし、お城だし、周りに人が居ないってことはないんだろうけど。
でも自分の親とお城に仕えてる人は違うもんなぁ。
「物心ついた時からそんな感じだったから当たり前だと思っていたんだろうな。それに伯父夫婦が代わりのようによく構ってくれたから、あまり寂しいとは思わなかった」
「伯父さんって亡くなられたマリグェラ殿下のことですよね?お二人には子どもがいらっしゃらなかったって聞きましたから、きっとディゲアさんのことを自分の子どもみたいに可愛がってたんでしょうねぇ」
「そうかもしれない。彼らは本当によくしてくれたからな。私も伯父から学んだことは多かった」
小さい頃のディゲアさんも可愛かったんだろうなぁ。
マリグェラ殿下とその奥さんも、子どもが居ないなら尚更可愛がってたことだろう。
養子にして次期王太子に、なんて考えるくらいだし。
でもここでちょっと疑問が。
「......それでも、王太子が亡くなった後に立太子しようとは思わなかったんですよね?そういう話も出てたのに」
マリグェラ殿下がディゲアさんを気に入って次期王太子にっていう話があったとメリエヌさんは言ってたよね。
ディゲアさんがさすがにその話を知らないとは思えないし、口ぶりからしても二人は仲が良かったように思う。
それなのに、なんでディゲアさんはマリグェラ殿下の遺志を継がないんだろう。
王太子になるどころか王族を抜けるとか言ってたし。
「......伯父が亡くなったのは私のせいだ。だから私に王太子になる資格は無いと思っている」
「え、王太子が亡くなったのは事故のせいだって聞きましたよ」
アイヴンさんは事故以外の証拠は何も出なかったと説明してくれた。
でも確か王様も殺されたかもしれないって言ってたような。
ディゲアさんも王様と一緒で、王太子は殺されたって思ってるの?
「確かに伯父は事故で亡くなった。だがあれは人的要因の事故だ。誰かの差し金であることは間違いない」
「仮に王太子が殺されたとしても、それがディゲアさんのせいだって思うのは考えが飛躍しすぎなんじゃ......」
「伯父が立太子してから30年、もし王太子である伯父が邪魔だと思うならもっと早くに行動に移せたはずだ。それがなぜ2年前だったのか、不思議には思わないか?」
ディゲアさんは右手の親指で下唇をなぞった。
なんとも色っぽい仕草。
「う~ん、機を狙ってるうちに時間が経ってたとか」
「私は伯父が私を次期王太子にと考えたからだと思っている。伯父がそれを打診してきたのは妃殿下が亡くなられた5年前。その時はまだ学院に在学中だったから答えを保留にしていた。だが結局私が答えを出す前、卒業する年に伯父は事故に遭った。あまりにも出来すぎだ」
つまり誰だか知らないけど、王太子を殺した犯人(仮)はディゲアさんが立太子するのを邪魔しようとして事故を企てたってこと?
でもそれなら......
「でも普通なら王太子じゃなくてディゲアさんを標的にすると思うんですけど......」
「だから、伯父が私のせいで死んだと言っているんだ」
「向こうの手違いで王太子が殺されてしまったって言うんですか?それでも亡くなったのはディゲアさんじゃなくて殺した人のせいでしょ?」
殺されたかどうかは分かんないけど、どう考えたってディゲアさんに責任は無いと思う。
「例え他の人間がそう言っても、私は自分を許せない」
「もし、ディゲアさんが自分を許せないって思うんなら、そこは手を下した人を見つけ出して、罪を償わせるべきです!王太子だってディゲアさんが事故のことを悔やんでくよくよと生きるのは望んでないんじゃないですか?私も協力しますから、もっとちゃんと調べてみましょう!!」
こんな若い年で隠居生活送っちゃうなんてよほど気に病んでたんだろうけど、それじゃあディゲアさんが可哀想だ。
「お前はこの問題には関わりたくないんだと思っていたが......違ったのか?」
「私はディゲアさんのために真相を明るみにしたいんであって、誰かを王太子に選ぶつもりなんて毛頭ありません。ディゲアさんにはお世話になったし、もしかしたら私の特権が役に立つかもしれないんで、喜んでお手伝いしますよ」
私の申し出は余計なお世話だったのかな?
ディゲアさんの目は不安げに揺れていた。
「サイキ様!!」
私とディゲアさんしか残っていなかったところへ、いきなり大きな声が響く。
びっくりするじゃないの。
開け放たれていた食堂のドアからピョコっと顔を出したのはレシュカくんだった。
「まだこちらに居たんですか~。あー!またディゲアと話してる!!ずるいずるい!!」
え?ずるいって何?
「僕だってもっとサイキ様とお話したかったのに~!!」
ああ、そういうことか。
てっきり『レシュカくんと仲の良いディゲアさんと話し込んでた私に対する嫉妬』だったらどうしようかと。
「もうお部屋に帰られるでしょ?僕送って行きますから、今度は僕とお話してください!!」
そう言って私の腕を取りぐいぐいと自分の方へ引き寄せる。
こんなにかわいい年下の男の子に慕われて喜ぶべきなんだろうけど、これって『異世界人』っていう付加価値のせいなのよね。
私が普通にこの世界で育った25歳だったら見向きもされなかったんだろうなぁ。
「じゃ、じゃあお願いします。ディゲアさん、また今度」
「......ああ。引き止めて悪かったな」
話はちょっと中途半端だったけど、これ以上話してたらレシュカくんがうるさそう。
何よりさっきの話はあまり他の王族には聞かれない方がいいような気がするしね。
ディゲアさんはさっきの不安そうな雰囲気はどこかへ飛んで行ったようだった。
でも何となく寂しそうな表情で私とレシュカくんを見送っていたような。
気の強そうなディゲアさんにしては珍しい。
食堂を出たところでアイヴンさんが私を待っていた。
ずーっとここで待ってたのかしら......。
もっと早く出て来ればよかったかも。
「アイヴンさん、お待たせしてすいません」
「いえ、お気になさらず。お茶会は楽しまれましたか?」
「はい。ディゲアさんとも久しぶりに会えたんで良かったです」
「サイキ様、ディゲアと何の話をされてたんですか?」
大きな目でじーっと私を見つめる子犬、もといレシュカくん。
王太子は殺されたかもしれなくて、その犯人探しを手伝うっていう話をしてました。
なんてもちろん言えるわけがない。
「ああ、噂のことですよ。お互いあれで迷惑してるよねーっていう話をしてました」
「そうだったんですか。ディゲアは昔っから他人と触れ合うのを嫌っていた節があるんで、きっとサイキ様に親切にしたのを深読みした人がいたんでしょうね」
「親切って言われても、路頭に迷ってたんだから已む無しって感じなんですけどねぇ。それよりレシュカくんは私と一緒に居ても大丈夫なんですか?」
あんな噂の上がった私(しかも平民)のことを母親であるレッテシームさんは快く思ってないんじゃないだろうか。恐らくライナンさんも。
「お母様のことですか?気にしないで下さい。僕は自分の意志でサイキ様と居たいんですから!」
「レシュカくんがそれでいいなら私はもう何も言わないですけど、後から「うちの息子を誑かさないで下さい!」とか怒鳴り込まれるのはご免ですよ」
「あはは!!サイキ様ってば面白~い!!母は基本的に僕に甘いんで、そういうことは無いと思いますよ」
あっけらか~んと言ってくれるけど、我が子に甘い親ってのは得てしてモンペになりがちだってこと、この子は分かってるのかな?
怒りの矛先がこっちに来るんだってば。
「あーあ、もうお部屋に着いちゃいましたね。もっとお話したかったんですけど、僕のお友達に連絡しないといけないし、また今度遊びにきてもいいですか?」
「う~ん、部屋に招くとまた良からぬ噂が立つかもしれないんで、お庭の散歩とかで良いならいつでも。お友達のことも聞きたいし」
「じゃあ次に来る時はなにか良い情報を持って来ますね!」
バイバ~イと手を振って、無邪気な少年は去って行った。
ディゲアさんと比べると子どもっぽいなぁと思うけど、これが普通なんだろうな。
もしかしたらディゲアさんの中には小さい宇宙人が入ってるんじゃなかろうか.....?
誤字脱字等ありましたらお知らせ下さい。




