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帰宅途中  作者: Tigerina
42/53

7日目 1

遅くなりましたが7日目でございます。


ここからはまた立花視点です。



結局、王族の方々とのお茶会は提案してすぐに快諾されたようで、翌日の今日、催されることになった。

もっとみんな自分の予定とかちゃんと確認してから計画した方がいいんじゃないの?って思ったのは社会人のクセかな。

お茶会には仕事のある人以外が来るらしいので、ディゲアさんの両親は不参加らしい。

残念。


「でもディゲア様はご出席されると伺いましたよ。ようやくお会いできますね」


「そう言えばもう2日も会ってないですね。あの噂のせいで」


本当にとんでもない噂を流してくれたもんだわ。

しかもまだディゲアさんの反応を聞いてないから、会えるのは嬉しいけどやっぱちょっと怖いかも......?


そろそろお茶会の場所へ行こうかと部屋を出たところで、一人の少年が立っていた。

あれ?この子は確か......


「こんにちは、サイキ様!僕はレシュカって言います。一緒に行こうと思ってお迎えに上がりました!」


そうそう、レシュカくんだ。何故かこの子は『くん』付けしたくなるなぁ。


「わざわざ迎えに来てくれたんですか?」


「そうです!だってお茶会に行ってしまったら他の人もいるから、あんまり話せないかな~と思って」


そう言ってレシュカくんはにこりと笑った。

う~ん、子犬のような親しみやすさだわ。

遠目に見た時はディゲアさんに似てるって思ったけど、近くで見るとやっぱり違うんだねぇ。

この子はどっちかって言うとかわいい系。ディゲアさんは文句無しのキレイ系。


「こちらの生活はどうですか?不便はないですか?」


「すごく良くしてもらってるんで、不便なんてとんでもないです」


「じゃあ城下はもう行きました?良かったら僕が案内しますよ?」


「城下はお城に着いた次の日に行きましたよ。ちょっとだけですけど、デパートにも行きましたねぇ。私、自分の世界では百貨店で働いてたんですよ。だから中々面白かったです」


「へぇ、じゃあ『理由』もそれ関係かもしれないですよね~。僕の友達のお家がショッピングモールとかデパートを経営してるんですけど、今度話を聞いてみましょうか?」


それはナイスアイディア!!

王太子関係よりもよっぽど私の『理由』っぽいじゃない!!


「是非お願いします!!そうよね、やっぱり仕事関係が一番ありそうよね。うんうん」


城でずっとボケーっとして毎日王族のあれやこれや聞くよりは、外に出て『理由』探した方がいいのかも。

絶対に自分の周りで起きるって言っても、城に居たんじゃ起きる事柄なんて限られてくるもんね。

しかし普通にモールで買い物したけどもっと注意深く見とけば良かった!!


「サイキ様、レシュカ様、そろそろお時間になりますので参りましょう」


「そうでした!!遅れちゃう前に行きましょう!!」


「すいません、僕が呼び止めてしまったせいで。折角お迎えに上がったのに、結局遅れてしまうなんて......」


レシュカくんは眉を下げてうるうるし出してしまった......。

ああ、なんて威力のある顔してるのこの子!!


「そんな、話し込んだのは私も一緒だから気にしないで下さい!ほらほら、早く行きましょう!!」


「はい!」


私たちは心持ち早歩きでお茶会の場所まで急いだ。

私の足はただでさえダダっぴろい城を競歩のように移動したせいで、目的の部屋に着いた時にはガクガクになっておりましたとさ。




お茶会は王族の居住区にある食堂で開かれるらしい。

食堂って聞いたらまたまた庶民脳の私のイメージは、割烹着に三角巾つけたおばちゃんが働いてるようなのしか出て来ないんだけど、ここで言う食堂はフォーマルな食事会に使われる広間みたい。

だってもうドアからしてすごい。

繊細な彫刻が施されてて、高さも3メートルくらいありそう。

ドアノブとか金っぽくて、素手で触ってもいいのかな?とか思っちゃったわよ。

ま、ドアは最初から開いてたんですけどね。


食堂の近くまで来たら、レシュカくんはたたたた~と駆けて行ってしまった。


「じゃじゃーん!!サイキ様の登場だよ~!!」


っておい!!なんでそういうことするかな!!

別に目立ちたいとか思ってないのに!!

むしろHR始まってから学校着いたけどこそっと教室入って先生に気付かれません、みたいなさりげない感じで「え?ずっと前から居ましたけど?」っていう演出をするつもりだったのに!!


仕方ないのでみんなの注目を一身に浴びながら登場。

どこの空港から出て来る芸能人?


「お待たせしてすいません。サイキです」


日本人の得意とするとりあえず笑顔。

待たせたのは本当だからちょぴっとばかしすいませ~んなオーラも出しておく。


部屋の中にはマッダ~ムって感じの大人の女性二人に、ガルーダさんメリエヌさん兄妹、それにディゲアさんと初めてみるこれまた美人な女の子が居た。


「サイキ様、本日はこのような場を設けて頂いて有り難うございます。わたくし、陛下の第一王女のレッテシームと申します」


そう言ってまず私の前にやってきたのはマッダ~ムの一人。艶やかな金髪をきれいにまとめあげて、濃紺のドレスワンピースを身に纏っている。

第一王女ということはレシュカくんのお母さんね。


「ライナン、こちらへいらっしゃい。こちらはわたくしの娘のライナンですわ。レシュカはもうご存知のようですわね」


「初めまして、サイキ様。ライナンと申します」


この初めて見る女の子はライナンさんと言うのか~。

なんとなくレシュカくんと似てるけど、ツンツンしてるなぁ。

今も私の方を見てにこりともしないんですけど......。


「サイキ様!またお会い出来て嬉しいですわ!!」


「あ、メリエヌさん!昨日ぶりですね!」


メリエヌさんは飛びつかん勢いで近くにやって来ると、私の両手を掴んでぎゅうっと握りしめた。

うん、嬉しいんだけどね、痛いです。


「メリエヌったらはしたない真似はおやめなさい。サイキ様も困っておいでよ」


「あ!サイキ様、紹介しますわ。こちらはわたくしの母ですの」


「初めてお目にかかります、サイキ様。私は第二王子妃のイーシンと言います。本日はお招き頂きましてありがとうございます」


イーシンさんはレッテシームさんと比べると控えめな感じの女性。

それでも庶民臭さは全く無いあたり、さすが王子様のヨメ。


食堂の中にはダイニングセットの他にもカウチやチェアが置かれていて、お茶会もみんなが一つのテーブルを取り囲んでという訳ではなく、思い思いの場所で歓談できるようになっていた。

立食パーティーって感じ?


さっきからなんとかディゲアさんと挨拶だけでも出来ないものかと思ってるんだけど、なぜか私の周りには女性陣がずらり。

ディゲアさんはガルーダさんとレシュカくんと一緒に少し離れたとこで固まってしまった。

うう、「ロミオ~」とか言ってみようかしら。


「メリエヌ、あなた昨日サイキ様とは十分お話したんでしょう?今日は私にお隣を譲ってもらえるかしら?」


「あら、折角こうやって集まっているんですから皆でお話した方が楽しいですわ。ねぇサイキ様?」


どうやらライナンさんはメリエヌさんがずっと私の隣を陣取っているのが気に食わないらしい。

別に隣じゃなくても話くらい出来ると思うんだけど......。


「本当ならサイキ様とお二人でお会いしたいくらいだったのよ。でもさすがに私にはあなたやガルーダみたいな礼儀知らずな真似は出来ないからこうして来たって言うのに、サイキ様ももっと公平にして下さるべきだわ」


おおっとー!矛先がこっち来ましたよー!!


「まぁまぁライナン、およしなさいな。サイキ様も色々とお忙しいようだから無理を言わないのよ。わたくし達と会うよりも大事な用がおありのようですしね」


「いやだわお母様、そんな風に言ってはあの噂が本当みたいじゃないの。ディゲアはそこまで軽卒な人間では無いわ。王族の立場というものを分かってる筈よ」


「でもねぇ、火の無いところに煙は立たないと言うじゃないの。2年も市井で暮らしていたんなら考え方も変わるんじゃなくて?」


「サイキ様はちゃんと否定されましたわ!」


あーあー、早くも噂の話ですか。

王族も暇なのかなぁ。こんな噂信じてあーだこーだ言うなんて。

ってよく考えたら今は同じ部屋にディゲアさん居るんじゃん!!


ちらっと男性陣の方を見るとディゲアさんとバッチリ目が合ってしまった。

しかもなんか無表情のままこっちにやって来ます!!

もしかしなくても聞こえてた......?


「レッテシーム殿下、何のお話をされているのですか?」


おお、ディゲアさんの敬語初めて聞いた!

でも普段の口調よりも怖いっす!!


「あら?聞いていたんじゃないの?あなたの話よ。サイキ様は随分あなたをご贔屓にしていらっしゃるようね、って言っていたの。間違いではないでしょう」


「あの噂のことを仰っているなら馬鹿馬鹿しいの一言に尽きます。もし殿下がそれを信じておられるんなら器が知れると言うものです」


「なんですって!!わたくしを侮辱するつもり!?言葉を選びなさい!!」


ディゲアさんのセリフにレッテシームさんは顔を真っ赤にして怒り出してしまった。

美人が怒ると怖いというけど、キレイなおばさまも怒ると怖い。

細い眉がきっ!っと上がって、米噛みのあたりには血管が......倒れないでしょうね、この人。


「それなら彼女を侮辱したことをまず謝って下さい」


「わたくしがいつ侮辱したと言うの!?勘違いも甚だしいわ!!」


「私も侮辱したつもりはありません。『もし信じておられるなら器が知れる』とは言いましたが。侮辱されたと思われるんなら、あの馬鹿馬鹿しい噂を信じたと仰るんですね?」


「よくもそんな口が聞けたものね!!マリグェラお兄様の教育が無くなった途端にこの有様とは、お兄様もさぞかし嘆かれているに違いないわ!!」


「伯父上は関係ありません」


ディゲアさんすごい冷静。

でも言い合うってことはやっぱ怒ってるんだろうなぁ、あんな噂でっち上げられて。

っていうかいい加減止めた方がいいのかな、これ。


「えっーと、私からも言いますけどあの噂なら本当に嘘ですから。あり得ませんから。あと別に侮辱されたとは思ってないんで謝ってもらわなくてもいいです。でも今後この話はしないでくれると有り難いです」


私はレッテシームさんの方を向いて出来得る限り真面目な顔を作って言い放った。

それはもう保湿がいかに大事かをお客さんに説明する時くらい真剣に。

ディゲアさんは唇を噛んで目を背けている。

やっぱ誤解されるのは嫌だよね~。


「......わたくしも言い過ぎましたわ。いくら実しやかに流れている噂でも王族が口にするような内容ではありませんでしたわね」


「何回も否定するのは面倒なんで、口にしないでいてくれるなら信じていようが信じていまいがどっちでもいいです」


このおばさま、言い過ぎたとか言ってる割に結局噂が嘘ってとこはスルーしてくれるのね。

そんなに自分の甥っ子が年増に引っかかったと思いたいのか。

なんかお茶会っていう和やかな雰囲気じゃなくて、えん罪の裁判にでも来た気分。

もちろん私は被告人ね。


「お母様、噂なんてどうでもいいじゃないですか。それよりももっとサイキ様のお話を聞きたいです!!」


がばちょとマッダ~ムに抱きつくレシュカくん。

今一気に空気が軽くなった気がする。


「わたくしもサイキ様のお話が聞きたいですわ!ご趣味とか、住んでらした世界の話とか!お母様もそう思いませんこと?」


「そうねぇ、私も興味があるわ。運ばれて来た方に会うのは初めてですから」


「ええ~、趣味ですか?趣味はお肌のお手入れかなぁ」


趣味って急に言われてもねぇ。

時間がある時は映画みたり読書したりするけど、趣味って言う程でも無いしな~。

スポーツは特にしないインドア派なのは確かなんだけどね。

他の人よりも手間暇を掛けてるって意味ではお肌のお手入れを趣味に上げてもいいでしょ。


「そうそう、この人これでディゲアよりも10も年上らしいぜ。26?だっけ?」


「いえ!まだ25です!!」


ガルーダさんめ、そんな簡単に女性の年をバラすとか男の風上にも置けないヤツだな!!

しかもこの年齢の1歳、2歳の差は大きいのよ!!


「あらぁライナン様よりも年上ですのね。同じくらいかと思いましたわ」


イーシンさんは口に手を当てて驚いている。

しかしその目はかなり鋭く私のお肌をチェックしてませんか。


「私の国の人って元々実年齢よりも若く見られがちなんですよね。それに私は自分の世界では化粧品を売る仕事をしてたんで、自然と気を遣う様になったんです」


「ああ、それでさっきデパートで働いてるって言ってたんですね~」


「サイキ様、お仕事をなさっているの?それも化粧品を売るだなんて......知らない人のお顔に触れたりするんでしょ?気持ち悪くないんですか?」


私の仕事を知って、ライナンさんの見る目がさらに冷たくなったような.....。

くそう!お姫様め!!


「別に気持ち悪くなんてないですよ。お客様に触れる前には常識として毎回両手に殺菌スプレーをしてますから。私というより、お客様のためなんですけどね」


「ふ~ん。失礼ですけどサイキ様ってご自分の世界では平民でしたの?」


「へいみん......そうですね、平民というか庶民でしたよ。今もそのつもりですけど」


というか私の世界でもこっちでも、平民の方が多いんじゃないの?

王族や貴族ばっかりだったら国が成り立たないと思うけど。


「そうでしたの。ねぇ、お母様、私もうそろそろ失礼したいのだけど」


「そう?ではわたくしもここで失礼しますわ。今度お会い出来たらもう少し有意義な会話がしたいですわね」


有意義な会話って、先に噂の話をし出したのはそっちなのに!!

しかもあなたたちは庶民がお嫌いですか、そうですか。

あんたらの暮らしは庶民の生活の上に成り立ってるんじゃないのか!!

ってここで税金を払ってない私がたたける大口ではないので黙ってますけどね。

呆れた目つきで去って行く二人を見ていたら可愛い溜め息が。


「はぁ。お気を悪くしないで下さいね、サイキ様。お母様も姉上も、少し平民を毛嫌いしているところがあって......」


「うーん、嫌われたのは悲しいですけど生まれは変え様がないですから、ここは気にしないことにします」


「あの二人は王族の中でもずば抜けて直系王族ってことに拘りがあるからなぁ」


「でもレッテシーム様が王位を継がない限りはどうせ城を出て行くことになるんですのよ?いつまでも直系で居られる訳ではありませんわ。レッテシーム様が立太子されるならともかく」


「あの人が立太子ぃ?親父でも議会を通らないのにそりゃ無理な話だろ。っと、別にお前の母親を貶してるわけじゃないからな、レシュカ」


「わかってるよ。僕もお母様に王太子が務まるとは思ってないもん」


「もうその話はよろしいじゃないですか。それよりサイキ様のお世界の話、もっと聞かせてくださらない?」


イーシンさん、軌道修正ありがとうございます。

さすが大人なだけあるわ。

ここの子たちはよほど王太子の話が気になるのねぇ。

自分のこれからを左右することだから気にするのは当たり前なんだろうけど。

王様にさっさと決めて下さいって言いに行きたいくらいだわ。




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