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帰宅途中  作者: Tigerina
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従兄 (ディゲア視点)

私には4人の従兄姉がいる。

皆ほどほどに年が近く、城の中だけでなく学院に同時期に通っていた者もいた。

私はその中でも一番年下で、無愛想なこともあってか他の王孫とあまり仲良く遊んでいた記憶は少ない。

しかし今目の前にいる、第一王女の息子であるレシュカは私と同じ年(と言っても生まれたのは向こうが先だが)ということもあって、比較的親しくしていたように思う。

私はレシュカに誘われて屋上庭園の四阿に来ていた。



「まったくディゲアったら、2年も音沙汰が無いから心配したよ~」


「フィンエルタが定期的に様子を見に来ていたから、生きていることくらいは知っているだろう」


「相変わらず素っ気ないね~。そう言えば帰って来たのは運ばれて来た方を保護したからなんだって?いいな~。僕も林の家に行けばよかった!」


「でもディゲア様が保護されたのは偶然ですよ。レシュカ様は来るかも分からない人を待って、あの家に2年も住めますか?」


「それは無理かな~。僕家事なんてやったことないし。ねね、ディゲア、僕も運ばれて来た方に会いたいな。今度会いに行く時は僕も連れて行ってよ!」


「サイキ様に面会を申し込んでいる方は多くいるみたいですからね。ディゲア様もそんなに簡単には会えないと思いますよ?」



レシュカは私と同じ年で背格好も似ている。

だが中身は全く似ていない。

人懐っこくて明るい性格のこの男は学院に居た頃もよく人の輪の中心に居た。

きっと『サイキリッカ』に紹介すれば、会話の得意なレシュカのことだ。

すぐにでも彼女と打ち解けるだろう。



「でもディゲアが最初に保護したんならきっと会ってくれるよ。ねね、次はいつ会いに行くの!?絶対に予定空けとくから教えて~」


「当分彼女に会う予定はない。向こうも忙しいようだしな。会いたければオルティガに話をつけたらいい」


「え~!やだよ!!オルティガに頼んだら反対に公務いっぱいいれられそうだもん。すぐじゃなくてもいいから、会う時は絶対教えてよ?ディゲアばっかり会うのはずるいもん」


「でもレシュカ様は学校があるでしょう?あまり時間の融通は利かないんじゃないですか」


「だから先に予定教えてって言ってるのに。ちゃんと話聞いてる?」


「レシュカ様が女性だったら溜め息の一つだって聞き逃すことは無いんですけどねぇ」


「ということは聞いてないんじゃないか!あーあ、フィンエルタは使えないな~。それよりその運ばれて来た方って女性なんでしょ?美人?あ、フィンエルタは答えなくていいよ。当てにならないから」



榛色の目を輝かせて私の答えを待つレシュカが面倒で顔を背けると、その先の林に人影がちらついた。

あれは......『サイキリッカ』とアイヴンだ。

今見つかると間違いなくレシュカに紹介しろとせがまれるだろう。

別に隠す必要は無いのだが、何となくレシュカから向こうが見えないように移動した。



「ディゲアったらそんなにその人について話したくないなんて、なんか疾しいことでもあるの?」



しびれを切らした従兄の言葉にハッとして彼を見ると、さっきまでの笑顔は消え、訝し気にこちらを伺っている。

まさかとは思うが、あの噂を知っているのか......?



「......疾しいことなど何もない。彼女が美人かと聞かれても、私が思う美人とお前の思う美人の基準は違うだろう。だからどう答えるべきか考えていただけだ」


「それもそうか。まぁいいや!会う時まで楽しみに取っとこうっと。ガルーダは昨日無理矢理会いに行ったんだってね?僕もそうしようかな~」


「ガルーダ様の時もお困りのようでしたから、歓迎されないと思いますよ」


「それは困るかも。僕はその運ばれて来た方とは仲良くしたいんだよね。早く会えるといいなぁ」



何故か私の方を見てそう言ったレシュカの目が、悪戯を思いついた子どものように笑って見えたのは気のせいだろうか。



___________




「レシュカ様は本当にサイキ様に会いたいみたいですね。物珍しさからでしょうか。ガルーダ様と違って明確な理由が思い浮かばないんですよねぇ」


「好奇心の旺盛な性格だから、やはり異世界の話を聞きたいんじゃないか?新しいもの好きだしな」



レシュカの母である第一王女の継承権はオルバ殿下に続いて2位だ。

だが女性ということもあり、昔から政治には興味が無かったように思う。



「アイヴンに聞いたところでは王族の方々とお茶会を開くらしいですよ。面会を申し出てる王族と一人一人会うよりも一度で済ませた方がいいとサイキ様が仰ったみたいです。意外に思い切りのある方で驚きました」


「ならレシュカの願いもすぐに叶うんじゃないか?」


「一応出席されるのは王女殿下と第二王子妃殿下、それと王孫の方々だけみたいです。お仕事のある殿下方は不参加と聞きました。レシュカ様は日程が授業と重なっていなければいいんでしょうけど、あの方なら学校休んででもご出席されるかも」



王族が皆参加するというなら私が出席しても問題ないだろう。

衆目のあるところで何かある訳でもなし。



「そう言えばガルーダ様がメリエヌ様を連れてまたサイキ様のとこへ押し掛けたそうですよ。どんな話をされたのかは知らないですけど、あの方も頑張りますよね。こんな様子じゃディゲア様とじゃなくてガルーダ様との噂が立つんじゃないですか?」


「さすがに噂とは言え、そう相手が変わっては彼女が気の毒だろう......。オルティガの方から注意するように言えないのか?」


「一応次回からはオルティガ様を通すように釘を刺したみたいです。いくらガルーダ様が無鉄砲でもオルティガ様の忠告を無視は出来ないでしょう」



ガルーダとメリエヌか。

あの二人の言いそうなことは大体予想が付くが、『サイキリッカ』がどう答えたのかは全くわからない。

ただ彼女は人に言われたからと言って安易に王太子を選ぶようには思えないから、心配することもないのだろう。

それでも周りの人間が彼女を利用しようとすることは有って欲しくない。





茶会はすぐにでも会いたいという一部の王族(恐らくレシュカも入っているはずだ)の要望で、翌日に催されることになった。

丸二日も『サイキリッカ』と会っていないので、なんだか急に緊張して来る。

ちゃんと話が出来るだろうか......?


場所は王族の居住区にある食堂で行われるようで、私が着いた時には既に殆どの参加者が揃っているようだった。

と言っても今日来るのは私以外に伯母の二人と従兄姉たちだけだが。

しかしあれだけ楽しみにしていたと言うレシュカはまだ姿が見えない。

窓際に立って兄と話していたメリエヌが私に気付いて手招きをして来た。



「ディゲアったら帰城したんならせめて王族くらいには挨拶しに来たら如何なの?少しですけど心配していましたのよ。ねぇお兄様」


「そうそう。サイキ様には会いに行ってたそうなのに、俺たちには挨拶無しなんてな。そんなに運ばれて来た方が気になるか?」


「彼女は突然こちらに運ばれて来たんだ。気に掛けるのは人間として当然だろう」


「男として、じゃないのか?」


「まぁお兄様ったら!!ディゲアにだって気になる女性の一人や二人居ますわ。そっとしておいてあげませんこと?」



この兄妹は......。

ガルーダは完全に面白がっているし、メリエヌも止める振りをしているだけだ。



「あんな噂を鵜呑みにしてるんなら呆れてものも言えない。それよりも他の王族の居るところでそういう話をするな。私よりも彼女に失礼だ」


「いやですわ、照れなくてもよろしいのに。あの噂が全くのデタラメということならサイキ様にも確認しましたし、信じておりませんわ。それよりも、ディゲアったらサイキ様に服を貸したんですって?学院時代に女の子から差し入れてもらったタオルですら触れもせずに断ったあなたが、会ったばかりの女性に服を貸すなんてどう言う心境の変化ですの?」


「なんだよその話、初めて聞いたぞ。詳しく教えろ」


「わたくしの学年の女生徒が何人か、ディゲアの武道の授業で待ち伏せをしてタオルを差し入れしたそうですの。でもディゲアったら「知らない人間からの差し入れなんぞ使いたく無い」ってバッサリ断ったって聞きましたわ。女の敵ですわよね!」


「お前って潔癖なんだな~。差し入れくらい受け取ってやれよ。そんなんだからお高くとまってるって言われるんだ。サイキ様は庶民なんだから感覚合わせねぇと苦労するぞ」


「やっぱりディゲアってばサイキ様のことが!?国どころか世界を超えた恋愛なんて素敵ですわ~。物語にしたいくらいですわね!」


「いい加減にしろ。勝手な妄想で話を進めるな。第一、こちらに居着いた異世界の人間なら他にも居るだろう。今さら物語になどなるか」


「随分楽しそうじゃないの。私も入れてくれない?」



そう言ってやって来たのはレシュカの姉のライナンだ。

王孫の中では一番年長で、レシュカ同様いつも人の中心に居たように思う。

しかし彼女は少し選民意識があり、平民を毛嫌いしていた。



「大したお話では無いんですのよ?ディゲアの学院時代の追っかけの話ですわ」


「ああ、そう言えば私の学年にもそういう子が居たわ。王族を何だと思ってるのかしらね」


「別に騒がれるくらい気にしなきゃいいんだよ。国民に好かれない王族なんて惨めだろ」


「王族は好かれるんじゃなくて敬われるものよ。あなたは平民のお友達も多かったみたいだから、感覚が王族とは違っているのかもね」



嘲笑を浮かべてガルーダを見るライナンは、昔から傍系王族や名門の子弟以外は友人とは認めないらしく、『級友』と言って区別していた。

彼女にとっては『級友』にあたる人間と親しくしていたガルーダの行動が王族らしくないと言いたいようだ。


「その点ディゲアはそういった方々とはお付き合いも無かったようだし、さすがにマリグェラ殿下の教育の賜物ね」


「マリグェラ殿下は平民と親しくするななんて言って無いだろ。こいつは平民どころか誰とも親しくしないじゃねぇか」



ガルーダが鼻で嗤う。

確かに伯父はそんなことは言わなかった。

私が誰とも親しくしなかったのは、一重に自分の性格故だ。

それに周りの人間も私を遠巻きにしていたことも事実。



「ディゲアが人付き合いの下手なことは本当ですけれど、そんな面と向かって仰らなくても。それにしてもサイキ様は遅いですわね?」


「運ばれて来た方っていうご身分なのは分かるけど、王族を待たせるなんてどういうつもりかしらね」



待たされることに不満は無いが、不安はある。

フィンエルタに言ってアイヴンに連絡させようかと思ってたところへレシュカの声が聞こえて来た。



「じゃじゃーん!!サイキ様の登場だよ~!!」



得意気に食堂に入って来たレシュカの後ろに着いて『サイキリッカ』とアイヴンがこちらにやってくる。

なぜレシュカと......?



「お待たせしてすいません。サイキです」



彼女は幾分申し訳なさそうな顔で王族の面々を見回すと、そう言って小さく頭を下げた。




次回からまた立花視点に戻ります。

誤字脱字等ありましたらお知らせ下さい。

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