1日目 2
私の願いが通じたのかどうか、しばらくしてから少し開けた場所で人家のようなものを発見した。
残念なことに日本家屋ではないけど。
レンガに似た薄い茶色のブロックのようなものを積み上げて出来てるみたいで、窓にはちゃんとガラスのようなものが嵌っている。
〜のようなという表現が多いのはご了承ください。
周りに人影はないけど、煙突のようなものから煙が出ているところを見ると中に誰か居るみたい。
私は右手に構えていた傘を普通に持ち直し、しかし力は抜かずに人家に少しずつ近づいた。
第一希望はやさしそうなおばあさんでお願いします!と扉をノックしようとしたところで、思い掛けず、内側から扉が開いた。
扉は西洋式だった。
言い直そう。
外開きだった。
強かにおでこを打った私。
思わず唯一の武器である傘も落としてしまった。
心持ち睨むようにして顔を向けたその先には。
肩ほどのストレートの金髪にオレンジ色の目を見開いた美少女が立っていた。
言い忘れていたけど、私の職業は美容部員である。
大手の百貨店にある女性なら誰でも知ってるであろう有名な化粧品メーカーのカウンターで働いている。
客層は比較的若いけれど、それでも大体20代半ば以降。
毎日色んな人の肌を見るけど、肌はとっても正直。
やっぱり手入れをきちんとしてる人の肌はつやつやで、化粧のノリもいい。
私は仕事柄、普段から肌のお手入れには気を遣っているつもりだけど......
この目の前に立つ美少女の肌の輝きを見たら「私の顔にモザイク入れて!」と叫びたくなる。
美少女は肌もキレイなんだな〜なんてことを考えていたら、当の美少女は驚きから立ち直ったようで、私に向かってすこし顎を下げた。
そう、美少女は私よりも背が高かった。
「大丈夫か?まさか外に誰か居るとは思わなくて」
なんと、声まで美しい!
思ってたよりはちょっとハスキーな感じだけど、それがまた中性的な感じでいい。
「いえ、こちらこそ驚かせてしまったみたいでごめんなさい」
私は赤くなっているであろうおでこを押さえつつ、仕事で培った人ウケのする笑顔を浮かべる。
美少女は扉に当たる物体に気がつきそれを拾い上げると、さして珍しくもないビニール傘をしげしげと見つめ出した。
......嫌な予感がする......。
「これは何だ」
ビニール傘のないところなんて現代の地球にだっていっぱいある!
まだ希望を捨てちゃダメよ!立花!!
「か、傘ですよ。ビニールで出来てるんです」
「かさ」
「傘です」
ヤバイ、傘が通じてないっぽい!
ていうか今気がついたけどこんなに明らかに日本人じゃない人に日本語通じてるじゃん!
これは異世界フラグか......!!
「かさとはなんだ」
思わず私がそこにがっくりと膝をついて項垂れたのを誰が責められよう。