6日目 1
今回から1話分を少し長くしてみようかと思います!
王様との面会が済んだ事で他の王族や政府要人からの面会の申し込みが殺到するだろう、という予想は「大げさな〜」なんて馬鹿にしてたけど、きっちり現実のものとなった。
きっとあの噂のせいもあるんだろうなぁ。ほんと迷惑な噂を流してくれたもんだ。
熱愛が発覚した芸能人がそれについてのインタビューをさけるように、私もなるべくならその話については語りたくないんだけど。
早く鮮度を落として「あ、そんなウワサもあったよねぇ。キャハハ」くらいにみんなの記憶の片隅に追いやらないと。
叶うなら今日は誰とも会いたくないなーと思ってたんだけどね。
そうは問屋が卸さないらしい。
「なんでまたいるんですか......?」
私の部屋には昨日に引き続き、ガルーダさんがいらっしゃっていた。
しかもえらい可愛い女の子を連れて。
しかもしかも、アイヴンさんがオルティガさんに呼ばれて離れてる隙に!!絶対狙ってたな......
「あ?俺だって別に来たくて来た訳じゃねぇよ。妹があんたに会いたいっつーからよ」
けっ!シスコンめ!!
「別にいいんですけどね、出来るなら前もって連絡して下さいよ。こっちにも都合ってもんがあるんですから」
「何の都合だよ。どうせ用事も無かったんだろ?どうやって他の人間の面会断ろうかとか考えてたんじゃねぇの?」
「うっ.....。そ、それで、こちらが妹さんですか?」
さっきから私の一挙一動を見逃すまいとその大きい目で熱いくらいに見つめてくれてる子。
ディゲアさんと年は同じくらいかな。まだあどけなさの残る顔には好奇心がありありと見て取れる。
ヘイゼルの大きなアーモンド型の瞳はくるんとカールしたまつ毛に覆われていて、やや灰色がかった金髪はお兄さんと同じなんだけど、なんと髪型が姫カット!!
妹さんということは同じく王孫で王女様だよね?ということはお姫様だよね?
まさか私の生涯で姫カットのお姫様を見る日が来ようとは......。
「俺の妹のメリエヌだ。メリエヌ、挨拶しろ」
「御機嫌よう、サイキ様。わたくしオルバ第二王子の長女でメリエヌと申します。本日はお会いできて光栄ですわ」
おおう!ガルーダさんと違っていかにも王族って感じ!
ビラッビラのドレスでは無いけど、品のいい薄い紫のワンピースドレスを身に纏い、少し腰を下げる様に挨拶をしたメリエヌさんは文句無しのお姫様。
こんな柄の悪い王子の妹だなんて思えないよ!反面教師ってやつかな?
「こんにちは、私はサイキと言います。それで今日はどう言った用件で?」
私が二人をソファセットに案内すると、お願いするまえにメイドさんがお茶を用意してくれる。
メリエヌさんはガルーダさんと一緒に私の前に腰を下ろし、いたずらっ子のようなわくわくした表情を隠しもせずにこちらに向けた。
「本当は噂の真相をお聞きしたかったんですけど、お兄様がそれはもう伺ったとか。あれは全くのデタラメだと......本当ですの?」
「はい、全くのデタラメです。神様に誓って嘘は言ってません」
私がそう言った途端、メリエヌさんは目に見えてガッカリとした。
本当のことなんで、そう落胆されても困るんだけどね。
「そうですの......あの堅物のディゲアを落としたと期待しておりましたのに......。ではサイキ様、あの林の家に何か女性の痕跡のようなものはありませんでした?」
「えええ?女性の痕跡......?う〜ん、特にこれと言ってなかった気がしますよ。借りた服もディゲアさんのものみたいだったし」
実際には住んでる本人が女の子だと思ってたから、あったとしても違和感は感じなかったと思う。
でも結局そういったものは無かったような。置いてるもの自体が少なかったし。
「まぁ!サイキ様、ディゲアから服を借りたんですの?」
「そうなんですよ〜。私着てた服しか無かったもんだから、借りるしかなくて」
「そう......なるほどね......。ディゲアのことはもうよろしいですわ。それで、サイキ様は王太子の問題に関わりたくないようだとお兄様が仰ってたんですけど、それは本当のことでして?」
なんか話が一気に変わった気がする。さっきのガッカリとした顔はどこへやらだし。
それにみんなして王太子王太子って......誰か一人くらい違う事言えないわけ?
こう、もうちょっと私が具体的に答えやすいようなことをさ。
「本当と言うか、私が出る幕でもないでしょう?私に王族のことなんてわからないし」
「では、もしこの問題が本当にサイキ様の『理由』だとしたらどうなさるんです?元の世界にお帰りにはなりたくないんですの?」
そうなんだよね〜。みんなが執拗に聞いて来るから頑なに拒否してるけど、これが『理由』だという可能性はゼロじゃない。
色々否定してはみるけど、これだけ頻繁に話題になるってことは、今一番この国で重要なことなんだろうなぁ。
「それはもちろん帰りたいですよ?でも王太子っていつまでも不在なわけでもないでしょ?いつかは誰かがその地位に就いて、王位を継がないといけないですよね。それも遠い未来じゃないはずです。なら帰宅が少々遅れてもいいから私は傍観者でいたいかなーと。もし王太子問題が『理由』だとしても、私は特に何もしなくても帰れると思ってますよ」
「どうしても口を出すつもりは無いと仰るんですね?」
「その通りです」
「もしディゲアが王位を継ぐ事になっても?」
「え......?」
ディゲアさんが王位を継ぐ?
だって継承権を放棄するつもりだって言ってたし、あんな田舎に移り住んじゃうくらいなのに?
それに王太子はガルーダさんやディゲアさんの親の世代がなるもんじゃないの?
突然の質問は私の思考を面白いほどいっぱいのハテナマークで埋め尽くしてくれた。
「ディゲアさんって王位を継ぎたくないって言ってた気がするんですけど......」
「確かにディゲアは俺たち直系王族の中では、継承順位は一番下。あいつの父親は陛下の子どもの中でも末子だから、普通に行きゃまず回ってこねぇ」
「ならディゲアさんが王位を継ぐ事なんてすっごい低い可能性じゃないですか」
「それがそうでもありませんのよ」
メリエヌさんは口角を上げて私の目を見据える。
「わたくし達のお父様が継承権第1位と言いながらも立太子出来ないのはご存知?」
「それは聞きました。議会の承認を得られないって......」
「それはね、賛同しかねる他の議員の方々がディゲアを推しているからですのよ。この状態ではいくらディゲアが継承権を放棄したいと言っても無理ですわね」
ディゲアさんってば人望があるんじゃん。
王位には興味ないとか言っときながら、資質は十分ってことかな。
「マリグェラ殿下には妃殿下がおられましたけど、お子様が御出来にならないまま5年前にご病気で亡くなられてますの。それでマリグェラ殿下が王太子としてご健在の頃から、即位の際にはディゲアを養子にして立太子させると言うのは公然の秘密でしたわ」
「なんでディゲアさんなんですか?他にも王孫の人って居るんでしょ?例えばガルーダさんとか」
引き合いに出されたガルーダさんが幾分鼻白んだようだった。
そりゃ選ばれなかったっていう敗北感もあるでしょうとも。
親の継承順位で言っても、年齢で言っても、ガルーダさんはディゲアさんの上なんだから。
「仕方の無いことなんですのよ。ディゲアはわたくし達王孫の中でも格段に頭がいいし、優秀ですもの。ディゲアは間違いなく王族の中で一番国王に向いていますわ。ですからマリグェラ殿下も特に目をかけて、まだディゲアが10かそこらの時から政務を手伝わせていましたし」
「それも殿下が生きておられた時までだ。もうあいつは王位になんか興味ねぇよ。次に王となるのは俺たちの親父だ。今は議会の承認が下りなくたって、このままじゃ居られないってことはあいつらも分かってる」
「お兄様は随分お父様に王位を継いで頂きたいのね。わたくしは嫌ですわ。お父様は他になさりたいことがあるんですもの」
「メリエヌさんはオルバさんが王太子になることに反対なんですか?自分のお父さんが王様になるのは喜ばしいことに思えますけど」
「わたくし達のお父様は、マリグェラ殿下のすぐ下の王子ということもあって常に比べられて来ましたわ。殿下が優秀であればあるほどお父様は肩身の狭い思いをしていたのです。けれど、お父様はいつか臣に下る日のことを考えて30年過ごされて来たわ。国のためにと既存のエネルギーに代わる代替品の研究をなさっているの。それを捨てて王位に就けというのは酷な話ですわ。殿下が王太子として立派に務めていた間、お父様だって努力されていたのよ......」
メリエヌさんは下唇を噛んで悔しそうな顔でうつむいてしまった。
そっか、他の王様の子どもだってただ30年過ごして来た訳じゃないよね。
王族としていつまでも城で生活できるわけじゃないし、貴族の居ないこの国じゃ臣に下ると言ってもその覚悟は軽いもんでは無さそう。
「だから、親父が即位して数年ほど俺が王太子を務めれば、親父はすぐにでも退位すればいいんだよ。それから研究に戻ったって遅くはない」
「王太子として数年、即位して数年。わたくしはお父様がそれに耐えられるとは思えませんのよ。きっとお体を壊されてしまうわ。サイキ様、わたくし達のお父様は本当に王になるような方ではありませんの。もし本当に王太子の問題に口を出されないと仰るなら、例えお父様の代わりにディゲアが立太子することになっても、それを違えないで下さいましね」
「メリエヌ!!余計な口を出すな!!俺は親父が王位を継ぐ事には賛成なんだよ!」
「ひどいですわお兄様!!ご自分が王位に就きたいからと言ってお父様の努力を棒に振れと仰るの!?あんまりですわ!!」
「王族として生まれたからには、王位に就く可能性は誰にだってあるんだ!!親父だってその事は分かってるはずだし、お前にだってその覚悟がいるんだよ!!」
なんか兄妹喧嘩が始まってしまった。
う〜ん、メリエヌさんは相当なお父さん思いらしい。
確かに30年続けて来た研究を止めて王様になってねって言うのは可哀想な話ではある。
議会の承認が得られないって言うのもディゲアさんが優秀だからっていうだけではないんじゃないかな。
しかしこのガルーダさんも、王様になりたいという願望はあるみたいだけど、一応王族としての責任みたいなのは感じてるんだ。
「確かに自分の今までの努力を捨ててって言うのはひどいですよね。私の状況とちょっと似てるかも」
私だって25年生きて来た場所から急に浚われてきたんだもん。
そのオルバさんより私の状況の方がどう考えてもひどいけど、共感は出来るかな。
さっきまで喧々囂々と言い合いをしていた二人も、私のしんみりとした言葉にその口を噤んだ。
「取り乱してしまって申し訳ありません。サイキ様が1日でも早くお帰りになれるようわたくしも祈っております。わたくしにお手伝いできることなら何でも致しますわ。でも、どうかわたくしのお願いもお心に留め置いて欲しいのです」
「俺も大声を出して悪かった。......もしあんたがどうしても誰かを王太子に選ばなきゃならない事態になったら、迷わず俺を選ばせてやる。それで帰れるんならあんたも問題ないだろ?」
「はぁ......。私は誰も選びません。それでいいですか?」
「分かりましたわ」
この問題は色んな人の思惑が複雑に絡み合ってる。
あっちを立てればこっちが立たずってなもんよね。
なら最初から言ってるように、私はこの件には関わらない。
誰を選んでもどこかからは文句が出そうなんだもん。
私の決意にメリエヌさんは納得してくれたようだけど、ガルーダさんは薄く笑っただけだった。
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