1日目 1
今日は金曜で、珍しく早番だったから同じフロアの子に合コンに誘われてて。
ノリノリだった訳じゃないけどそれなりに気合い入れて、普段は着ないかわいいワンピースとか着ちゃってたのよ。
でも結局いいなって思える人も居なくて、明日朝から仕事だからって理由で2次会には行かなかった。
まだ時間あるからDVDでも借りて来ようと思って、いつもとは違う道で帰って。
そんでDVD借りた後にコンビニでビールとからあげと仕事の参考用にファッション雑誌買って。
コンビニ出たら雨降り出してたから、もっかいコンビニ入ってビニール傘買ってポンと開いたら。
雨なんて降ってなかった。
それどころかたった今出て来たばっかりのコンビニも無くなってたし、夜だった筈なのに空には燦々と太陽が。
買った傘はビニール製だから日除けになんないじゃん......とか思っちゃった私は思いっきり職業病ですヨ。
とりあえず周りを見回してみる。
私が立ってるところは農道と言うのかな、舗装されてない幅1メートルほどの道。
両側にはそれはキレイなお花畑が。
れんげの花に似てるそれは高さもそれほどなくて、色もかわいいピンク。
目の前にある道はかなりまっすぐ伸びてる。それはもう地平線まで。
反対側も見てみる。
まぁぶっちゃけ気がついてすぐに周りはぐるっと全部見たんだけどね。
反対側は木立ちというか林みたいなとこに続いてる。
森という程の規模ではなさそう。
地平線の方に歩くのはしんどそうなので、まずはその林に行ってみることにした。
ずっとここに居ても仕方ないし。紫外線から逃れたいってのもあるけど。
林までは200メートルくらい。
でもその200メートル、私はコンビニで買ったファッション雑誌を頭に掲げ、紫外線を浴びないようにするのに必死で歩いた。
だってこの日差し、日本の真夏並みにキツい。
雑誌を持つ手にジリジリと容赦なく降り注いでくる。
コンビニを出るまで私が居た場所は5月の初め。
日中はそれなりの日差しになるけど、それでもまだ日傘は持ち歩いてない。
心持ち早歩きで林に着いた頃にはうっすらと汗をかくくらいになっていた。
容赦ない日光のせいだけでなく、ヒールで舗装されてない道を歩いたせいもある。
ようやく紫外線の恐怖から逃れられた私は、日陰に入った途端に喉の乾きを覚えた。
しかし悲しいかな、手元にあるのはビールのみ。
しかも周りに人家の見当たらないこの場所で、唯一の水分を今飲んでしまうのは危険かもしれない。
今一度ビールに目をやる。
......温くなってから飲んでも美味しくないし、と誰に言う訳でもなく自分を正当化して私は一気にビールを呷った。
かつてこんなにビールを美味しいと感じたことがあっただろうか。いや、ない(反語)。
そしてビールを飲み終えて分かったんだけど、私ってばそれなりに混乱してたみたい。
そりゃいきなり全然知らない場所にポンと立たされてた訳だし、混乱するなってほうが無理な話なんだけど、ビールの空き缶を持つ自分の手がちょっと震えてるのを見て「やだ、私も女の子だったのね〜」なんて妙に感心してしまった。
ここで「やだ、アル中?」って思わなかった自分を褒めてあげたい。
言っとくけどそんなビールばっか飲んでるわけじゃないから。
今日はたまたまだから。
さて、ちょっと落ち着いたところでこれからどうしよう。
どう見てもここは私のアパート(築7年、鉄筋オートロック、1DK南向き)がある場所には見えない。
しかも私は仕事終わりで一日中立ちっぱなしだったせいか足がむくんできて痛い。
出来ることなら今すぐ横になりたい。
今着てるのがこのワンピースじゃなかったら横になるのは無理だとしても、その辺の草の上に座るくらいなら出来た。
でもこのワンピースはお気に入りのだし、何と言っても色がオフホワイトなのよ!
草の上に座ったらお尻のとこがみっともなく緑になりそう......。
そう言えば小学生の頃、学校の近くの草がいっぱい生えた丘みたいなとこで、滑り台みたいに滑って遊んでたらその時履いてたコットンのキュロットどころか中のパンツまで緑色に染まっちゃってて、お母さんにすごい怒られたなぁ。
ってイカンイカン。現実逃避したらダメだ。
とりあえず現状をなんとかしないと。
思ったんだけどこれっていわゆるトリップとか、神隠しみたいなものかな。
映画でも男の子が白い毛に覆われた犬みたいな竜みたいなのに乗って冒険したりするのや、女の子が自分の妹だか弟だかを取り戻すために迷宮に行くみたいなのがあったよね。
問題は、だ。
今私がいるこの場所が
1番 全くの異世界
2番 元居た世界の同じ時間で違う場所
3番 元居た世界の違う時間(タイムトリップってやつ?)
のどれだってことですよ。
希望としては2番であってほしいけど、もし同じ世界でも何万光年も離れた星とかだったら困るなぁ。
それにしてもこの林、さっきから鳥の鳴き声一つ、葉っぱの擦れる音すらしない。
聞こえるのは自分の足が地面を踏む音だけ。
う〜ん、いきなりモンスターとエンカウントってな事態は勘弁してよー。
私はガサガサとコンビニの袋を揺らしながら手にはコンビニ傘を構え、林の中を進んだ。
出来るなら最初に遭遇するのは人間がいいと祈ったのは言うまでもない。
誤字脱字等ありましたら連絡頂けるとうれしいです。