5日目 1
ちょっと上手く区切れなかったので、短めです。
私は現在、極楽に来ております。
いや、別にぽっくり逝ってしまったとかじゃないのよ。
この世に極楽が存在するならば、きっとこんなところに違いないという意味で。
まぁ既に自分の世界からは遠く離れたとこに来てますけど。
「サイキ様、お加減はよろしいですか?」
「はい~、とっても気持ちいいです~」
今日は昼過ぎに王様と会うっていうんで、昨日よりも大分早い時間にメイドさんに(叩き)起こされ、半分眠りながら朝食を取った後にそれはゴージャスなお風呂に放り込まれてですね。
もちろんお風呂は一人で入らせてくれたんだけど、上がったらなんとエステ台のようなところへ連れて行かれて、全身マッサージと美顔マスク(と思われるもの)を施されているのですよ!!
いや~これは日本で同じサービス受けたらウン万はくだらないはず。
だってお城の中だし、使っている品々も超一級品に違いない。
しかもマッサージしてくれてるのがこれまた美女と来ている。
ありがたやーありがたやー。
なんだかいい匂いのするオイルのようなもので全身を揉み揉みされて、身も心もリラックス~。
極楽気分でルンルンな私だけど、ここではたと気がついた。
こんなに良くしてくれるのは、もしかして王様に会うのにみすぼらしい格好じゃ困るから?
私そんなにひどい見てくれだったのかな......
誰か知らないけど指図した人に、これは純粋に好意なのか同情なのか問いつめたい。激しく。
マッサージが終わった後もヘアパック(みたいなの)とか爪の手入れまでされて、文字通り全身ピカピカに磨き上げられましたとも。
きっと自分の結婚式のためにブライダルエステに通ったとしても、ここまでのサービスは受けられないんじゃないかというくらい。
ちなみに昨日買った服はそれなりの品だけど、さすがに王様の前で着るような服ではないとかで、これまた高そうなオフホワイトのオーガンジー(らしき生地)に裾の部分だけ花柄の刺繍のされたワンピースドレスを用意されてしまった。いや、かわいいけどさ。
下着は自前のを許されたのがせめてもの救い。
「ご支度が整いましたらそろそろ参りましょうか」
「はー。王様に会うとなるとどうしても緊張しますけど、ディゲアさんのお祖父さんだって思えば少しは安心しますね」
「そうですね。それに陛下のお父上である前国王陛下の代にも運ばれて来た方がいらしたと言いますから、サイキ様のこともよくご理解して下さると思いますよ」
「ああ、そういえば前回来た人ってディゲアさんの曾祖父の時代って言ってましたね」
「前国王陛下が即位してすぐに帰られたというので、現陛下は直接お目にかかったことはないでしょうけど、お父上からお話は聞いているかもしれませんね」
あまりその辺の話はヤブヘビだから掘り下げて聞きたくないけどね。
前国王の叔父さんが自害してるっていうし、王太子が決まって無いのにそんな話持ち出して、今回も王位関係が『理由』ぽく思われるのもなぁ。
何と言っても私の希望は石油王ルートなんで。
今日の面会に用意されたのは、あまり大きくない応接室のような部屋。
もっといかにもな玉座の前で跪いたりしないといけないかと思ったら、一応私を対等な立場として招待したいということで、玉座のある謁見の間とやらは使わないことにしたそうだ。
作法とか分からないんで、カジュアルな席で済むならこっちに文句なんてありませんとも。
部屋の中にある豪奢な応接セットの一人がけチェアの前で王冠を頭にした老人が立っている。
あの人が王様っていうのはすぐに分かった。
灰色がかった金髪と顔に刻まれた皺は彼が高齢であることを如実に物語っているけど、背筋をピンと伸ばして威風堂々と立つその姿はやはり王の威厳に満ちあふれている。
白地に金の縁取りで装飾がされている衣装は気品に溢れ、宝石を鏤めた冠は王の頭上に相応しい輝きを放っている。一般人がそんなの着てもコントにしか見えないけど、彼は少しも霞んでいない。
むしろそういった格好がさらに彼を引き立てているくらいだ。
さすがに数十年、大国の王を務めて来ただけのことはある。
彼はその顔をさらにくしゃりとさせて、にっこりと私に微笑んだ。
「ようこそ、我がシューディッカ王国へ。余が国王のウォルシオラである。運ばれて来た方、良くいらしたな」
王様登場〜。
これでまた少し話しが進むかと。