4日目 3
3人で車もどきに乗り込むと、すぐに動き出した。よほど急いでいると見える。
行きに通った大通りをそのまま真っすぐに進み、初代国王の像もあっという間に通り過ぎた。
噴水のあたりにはやっぱりたくさんの人で溢れていて、初代国王と城がこの国の人達に随分と親しまれているのが分かる。
車は門を通って前庭を抜けると、城の正面玄関にある車寄せのような部分で停まった。
城に入るとまず私の部屋に戻ることに。お話はそこで聞かせてもらえるらしい。
いい話だといいけど、皆目見当が付きませんよ。
しかしエルタさんは私の部屋に入るなり人払いをして、メイドさんをみんな出してしまった。
いよいよもって怪しくなってきました!
「えーっとサイキ様、何か飲まれますか?一応俺でもお茶くらいは淹れれるんで」
「フィンエルタ、勿体ぶらずにさっさと説明して。人払いまでして話すことなんてどういう内容なの?」
アイヴンさん、イライラしてらっしゃいます。
私も話すならさっさと話して!とは思ってたんでグッジョーブ。
「実はサイキ様にお会いしたい、という方がいらっしゃいまして。今は城下に用があって出かけられてると言ったんですけど、そのまま会いに行きそうな勢いだったんでこちらから先手を打ったというか」
「いまいちよくわからない説明ですね。それだと私をその人に会わせたくないように聞こえますけど」
「まぁ簡潔に言えばその通りです。そのお会いしたいっていう人が王族の方なんですよね。でも国王陛下もまだお会いしてないのに「はいどうぞお会いになって下さい」とは言えませんよ。それを知ってて面会を申し込んで来るあっちもどうかしてるんです」
「え、私ってやっぱり王様に会わないといけないんですか?」
「そりゃそうですよ。四大老にも無事に運ばれて来た方と認められた訳ですから。国家元首である陛下には必ずお会いすることになるでしょうね」
「私、自分の世界では普通の一般市民だったんで、王様なんて本当に馴染みがないというか遠い存在というか。まるで現実味がないです」
友達に女王様が一人いるけど、彼女は王族でもなんでもないしなー。
趣味と実益を兼ねた夜の仕事に過ぎないって言ってたもん。
そういう仕事ってこっちでもあるのかな?
でも実際に王族が住んでる国で、『女王様』はヤバイか。
不敬罪で牢獄行きなんてシャレにならないわよね。
「ご安心下さい、サイキ様。陛下にお会いになられる時はわたしもお供させて頂きますから。さすがにお話に加わることは出来ませんが、陛下がお人払いをなさらない限りは護衛のわたしもお傍に控えさせて頂くつもりです」
「本当ですか!さすがにいきなり一対一は私の心臓が止まりそうなんで、一緒に来てくれるだけでも十分有り難いですよ〜」
さすが女神様は私を見捨てない。
小悪魔笑顔ですら、今は後光が差して見えるようです......!
「とにかく、今日はなるべくお部屋から出ないようにして下さい。もし誰かが面会を願い出て来ても気分が優れないとか何か理由を付けて断るようにして下さいね」
「えー。じゃあディゲアさんが会いに来ても断らないとダメなんですか?」
「ディゲア様なら大丈夫でしょう。最初に保護されたという理由があるので周囲も問題視はしないと思いますんで。もしお会いしたいなら連絡しますよ」
「折角ご両親のところに来てるのにお邪魔したら悪いからいいです。また暇な時にお茶でもしましょうとだけ伝えておいて下さい」
「了解しました」と小さく礼をして、彼は部屋を出て行った。
入れ違いにメイドさんたちが部屋に入り、お茶を淹れたり買って来た荷物を仕舞い出す。
あっ!!下着!!ちょっとそれは自分で片付けさせて!!!
と思ったけど既に遅く、メイドさんは袋を持ってクローゼットに入ってしまっていた。
ああ、また私のお子様パンツを知る人が増えるじゃないの......。
どっちにしろ昨日洗濯ものとして持って行かれた私の下着(地球産)は、形だけ見ればこっちのお子様パンツと同じなんで今さらなんですけどね。
「さて、いつまで外出自粛してればいいんでしょう。今日大人しくしてても、また明日会いに来られたらその度に部屋に篭る、なんてことにはならないですよね?」
「その可能性も無いとは限らないですよ。サイキ様のお立場を利用しようと王族以外の方が見えることだって十分あり得ますから」
「私の立場を利用って言われてもピンと来ないんですけど......」
「『理由』が分からないのはサイキ様も他の人間も同じです。それで例えば誰かが「私を国の要職に就けて欲しい」と頼んだとして、サイキ様がその通りにしても誰もそれを止めることが出来ません。それが『理由』になり得るからです。お立場を利用するというのはそういうことです。ある意味で言えば貴女は国王陛下ですら及ぶことの出来ない権力をお持ちなのですよ」
「そんな......じゃあ私が誰かを殺せって言ったらそうするんですか?そんなの責任重大すぎて、この先何も言えなくなりますよ〜......」
そんなつもりなくても、私の言葉を婉曲に取られちゃったりしてとんでもない事態になっても困るよ!!
なんか以前この国に運ばれて来たっていう人の話もそうじゃなかったっけ?
その人は「そんなことは止めた方がいいよ」って言ったつもりなのに、「あなたは王様に相応しくない」とか曲解された上に王様が自害とか......寝覚めが悪すぎるって......。
「さすがに誰かを殺めるような『理由』はないでしょう。天上の方は私たちの世界のために異世界から人を運ばれて来るので、こちらの世界の人間の命を害うという選択はそれに悖ることになりますから」
「そう言ってもらえるとちょっと楽になりますね。さすがに自分が帰るためであっても誰かの命を踏み台にして、というのは気分がいいもんじゃないし」
「私たちは彼の方が選ばれた貴女を信用しております。ですからご自分のなさることに自信を持って下さい」
うっ!!アイヴンさんの笑顔が眩しいっ......!!
やっぱり彼女は女神様に違いないと思う。
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