1日目 10
私は2つある部屋の片方を使わせてもらうことになった。
客間として用意してた部屋ではないと言っていたけど、ちゃんとベッドがあるところを見ると、ご家族が帰って来た時にはここを使っているのかもしれない。
窓際にある木製の机の上に荷物を置き、少し窓を開ける。
外の日差しはかなりの暑さだったけど、家の中は風通しがいいのかそこまで暑くない。
机の上の日が射し込んでいる部分にコンビニの袋を敷いて、さっきこっそり洗っておいた下着を並べる。
ついでにソーラー式の携帯の充電器も机の上に出しておいた。
メタリックホワイトの携帯をパカリと開くと、そこには1:28AMの文字。
もちろん圏外だったけどちゃんと機能しているみたい。
合コンが終わったのが9時過ぎで、コンビニを出たのはそれから小一時間もかかってなかった筈だから、こちらに来てから3時間経ったかどうかってとこね。
元の世界と時間の流れが並行してるとしたら、あと8時間程で私の勤務時間になる。
不本意ながらも無断欠勤となるわけだけど、そのまま連絡もつかず行方不明として家族に連絡が行くのはいつぐらいになるだろう。
何としてでも帰るつもりではあるけど、育ててくれた親に心配をかけるのは嫌だなぁ。
すぐに帰してくれるのは無理にしても「心配しないでください」とか一言書いた手紙くらい届けてくれないもんかな。
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コンコンというドアを叩く音で目が覚める。
ハッ!!いつの間にか机に突っ伏して寝てたみたい。
そりゃ本来ならとっくにベッドに入ってる時間だったんだもん。
眠くても仕方ないわよね!
ぐいっと口元のよだれを手で拭う。ノックしてくれて良かった......
入って来られてたら寝顔、よだれ、机の上の下着を見られるというトリプルパンチをくらうところだったよ!!
はいはい、と言いながら慌てて扉を開ける。
もちろんそこには金髪の美少女。
「随分静かだから少し気になってな」
「いえ、ちょっと色々と考え事してて......」
静かだったのは寝てたからでーす!なんて言える訳もなく、曖昧に笑って誤摩化す。
だってほら、来て速攻寝れちゃうなんてどんだけ神経図太い女なんだって話じゃない!
まぁ来て速攻食事をごちそうになったあげく、お風呂まで借りた時点で相当図々しいとは思うけどね。
ディゲアさんってばその尊大な口調の割には、結構気配り屋さんなんだなぁ。
こうやって色々世話も焼いてくれるし。
今だって私がいきなり異世界に来ちゃって落ち込んでないか、気にしてくれてるっぽい。
私が男だったら間違いなく惚れてるね!!美人だし、料理うまいし。
その後、夕食の支度をするディゲアさんのお手伝い(実際は未知の料理が出来上がるまでを見学)しつつ、双方の食文化を話したりした。
この家のキッチンは地球のものとさして変わらない。
ガスコンロみたいな調理台の他に、石で出来たかまどもあって、コルはこれの中で焼くのだそうな。
ピザとか焼いたら美味しそうだなぁ。あのかまど。まぁもちろん私にピザを作る技術は無い。
「そういえば2日後に来るそのお家の方ってご家族ですか?」
「いや、父の仕事の関係の者だ。定期的にこちらへ食料などを届けるついでに様子を見に来る。両親は忙しい身なので、王都を離れる訳には行かないんでな」
その日のうちに往復できるみたいなのに、その時間すら作れないなんてちょっと薄情じゃない?
こんな可愛い娘が田舎で一人で頑張ってるっていうのに!!
「ディゲアさんは家族と一緒に王都に住みたいとは思わないんですか?ここに一人じゃ寂しいでしょ?」
「元々は私も王都で暮らしていたんだが、自分からこちらで生活したいと言ったんだ。だから寂しいということは無いな。最初は勝手が分からなくて苦労したが」
苦笑しているところを見ると、今はこんなにおいしい料理を作れる彼女も、最初のうちは包丁で指を切ったり、目玉焼きを黒焦げにしたり、お米を洗剤で洗ったりしたのかなぁ。
慣れない作業に四苦八苦している美少女を想像して頬を緩める私。
ちょっとアブナイ人みたいだな......決してそんな趣味は無いから!
作業している間に大分日が暮れて来たみたいで、部屋の中も薄暗くなって来た。
そうすると美少女が何やらポケットから掌に収まる程の小さな金属の板を取り出すではないか。
何をするんだろうと興味深く見ていると、彼女はその金属の板を指で軽くなぞった。
途端に部屋がパッと明るくなる。
びっくりして天上を見上げると、梁のところどころが発光しているようだ。
聞くと、光を発する素材を梁に使用しているらしい。
提灯のような直接には目に入らない光で、なんとも暖かみがある。
あの金属板はリモコンみたいなもんかな。
家はいかにもなカントリーハウスのくせに、ほんと進んでるんだか、遅れてるんだか......
夕食は再びコル巻き。
今回は具の中身がベーコンみたいな薄いお肉と野菜を炒めたものだ。
それとミアンの花のサラダみたいなの。生でも食べれるお花だったのか!!
どの料理も本当に美味しい〜。
ディゲアさん、私のお嫁さんに貰いたいくらいだよ!!!
夕食が済んだ後、ディゲアさんがお風呂に入るというので、私は早々に宛てがわれた部屋に引っ込んだ。
いつもよりも半日も長い一日を過ごしてかなりクタクタだったし。
まぁ昼寝っぽいの取ったけども。
下着はすでに殆ど乾いていた。うん、明日はノーパンから逃れられそう。
携帯を開き、とりあえず今日見聞きしたことを日記代わりにメモしておく。
普段から日記を付けてる訳じゃないけど、ここでの出来事は私にとって未知の体験ばかり(異世界なので当然と言えば当然)なので、自分の頭の中を整理する意味もある。
ほんの半日前には私は日本にいて、代わり映えの無い日常を過ごしていたのに。はぁ。
上掛けをめくりベッドに身を滑り込ませると、よほど疲れていたのか今までにない最短記録で意識が飛んで行った。
とりあえず目指せ王都。オー。
ようやく1日目終了です。
次からは2日目になります。
誤字脱字等ありましたら、お知らせ頂けると助かります。