外一蕎麦
掲載日:2026/03/20
シンシンと変わった形の結晶の雪が降る北國の田舎町。
ある蕎麦屋がありました。
客は日にひとりかふたり。趣味以上仕事未満で始めたボロ屋の店舗であった。
「生まれてこの方、何もいいことがなかった。ほとんどのことが思い通りにならなかったな」
店主は本で学んだ 内一の割合で、必ず蕎麦を打つ。
蕎麦粉九に対し、つなぎの小麦粉は一の割合だ。
「コレがいい塩梅だべー」
常連客は時たま褒めてくれる。でも、いやまだまだと冷水で蕎麦の麺と己の気持ちを引き締める。
「やはり思うようにいかない。そろそろ引き際かな」
かつお節を買いに背中を丸め、外へ一人出る。
店の竈から不規則に折り曲がり突起する煙突の筒を通じて職人気質の汗と思いが混じりあった蒸気が黙々と沸き上がった。そして、雪となり結晶化していく。
舞い落ちる雪の複雑な結晶が作務衣に斑点のように張り付き、何か話し掛けてくる。
「はっ」と気づいたその瞬間、外一の余生が自分を「あっ」という間に追い越して行った。
「オーーい 待ってくれ 俺の一割の素晴らしき人生余」




