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第三.五話「束の間の日常」

救助隊の訓練場が見渡せるテラスには、柔らかな陽光が注いでいた。

眼下では、アルドが組織した精鋭たちが、一糸乱れぬ動きで模擬瓦礫を撤去している。

その活気ある声が、心地よい潮風に乗って届いてくる。


「ある程度の形になったら、国境付近での訓練へと移る予定です」


隣で訓練を見守る隊長の言葉に、アルドは静かに頷いた。



ノックの音とともに、明るい声が響いた。


「領主様、豊璃ほうりから届いたばかりの果物です。少しはお身体を休めてくださいな」


マリナが差し出した盆の上には、陽光を凝縮したような黄金色の熱帯果実があった。

ナイフが入れられた断面からは芳醇な香りが溢れ、控えていた側近たちも「これは見事な」「豊璃の土壌は豊かですね」と口々に褒めたたえる。

テラスには笑顔が溢れ、張り詰めていた空気が緩んだ。


「…そうだな、一口いただこう」


アルドは手に持っていた訓練スケジュールの羊皮紙を傍らに置き、その一房を指先で静かにつまみ上げる。


「……とても、良い香りだ」


アルドは口に含み、伏し目がちにゆっくりと咀嚼する。

嚥下したアルドは小さく息を吐き、マリナへ向けて春の陽だまりのような微笑を返した。

アルドの表情を見た側近たちは、互いに目配せをして、そっと微笑み合う。


「甘いな、マリナ。……今の私には、少し贅沢すぎるほどだ。 皆にも分けてやってくれ。よく支えてくれて、感謝する」

「はい! きっとみんな喜びます!」


マリナが嬉々として果実を配り歩く背中を、アルドは慈しむような眼差しで見送り、領主の指輪へ視線を落とした。

キラリと陽光を反射する指輪に触れ、アルドはしばし目を閉じた。

穏やかな風が吹く中、訓練の声と、笑い合うマリナと側近たちの声が混じり合っている。

張り詰めた日々に訪れた、ささやかで穏やかな時間だった。


目を開いたアルドは正面の磨き抜かれたガラスを見つめた。

映っているのは、果実を囲んで笑い合う側近たちの背中と、それを見守る「慈愛に満ちた領主」。

その反射の奥――卓上カレンダーが、アルドの胸の位置で二重写しのように重なって見えた。

ガラスに映る領主の目は、穏やかなまま温度を少し下げた。


「ガリウム第4坑道の地圧臨界予測――いつ起きてもおかしくない」


アルドは再び、羊皮紙を手に取った。


「では、仕事に戻るよ。まだ、救わねばならない者が大勢いる」


その声はどこまでも穏やかで、父譲りの優しさに満ちていた。

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