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16話『天狗と甚八丸』


 翌日、江戸では昨夜の雷鳴もあって「天神様が怒っている」という噂は一気に広まりだした。


 現代よりも当時の江戸で、雷は大いに恐れられていた。打たれるのも怖いし、建物に落ちて火事にでもなれば市中を焼き尽くすことになる。天神は民衆のみならず徳川将軍家でも熱心に祀っていた。

 世間に不安が広がる中、九子は昼間に姿を消して空を飛び、江戸郊外へと向かっていった。

 空から江戸を見上げると家屋が江戸城を中心として円状に密集しているのだが、割りと近い範囲からもう農村になっている。街道沿いにある新宿、品川、板橋などは宿場や岡場所があって栄えていてもその周辺は村といった様子で、渋谷などは森と畑ばかりだ。

 なるべく自然豊かな場所を目指して、森の中へと九子は入っていった。


「おお、あったあった。桑の木だ」


 九子は桑が群生している山を見つけてそこに降り立つ。当時は多くの農家で養蚕をしていたため、桑の木は非常に沢山植えられていた。


「桑畑でもないし、こんだけ育っておる桑なら取ってもよかろう」


 と、九子は自己弁護するように言う。養蚕に使う桑は当然だが、葉を採取しやすいように低木で育てられている。一方で彼女が目当てにしているのは既に高木になった大きな物だ。

 大きい桑はむしろ木材を目的としていて保護されていた。桑の幹で作られる杖は江戸でも高級品である。

 九子はふよふよと浮かびながら、桑の木から若い葉っぱを次々に千切って籠の中に入れる。季節も春だったのでちょうど良かった。若い頃に田舎の山奥で栽培されていたオーガニックなハーブの若葉を摘むアルバイトもしていた経験で、九子は手際よく採取した。


「……よし、とりあえず天ぷらの種にはこれぐらいでいいか」


 山盛りになった桑の葉を店に持って帰ることにした。空を飛んで帰る途中、千駄ヶ谷にある村の農家を上空から見て九子は「おっ」と声を出した。鶏舎があったのだ。

 多くの農家では家で出た野菜くずや虫などを鶏の餌にして、卵を売っていたのだがどうやらあの大きな農家は専用の鶏舎まで作って多くの鶏を飼っているらしい。


「あそこで卵を買うか」


 九子は店に一旦戻って桑の葉を置いてから再びそこの農家を訪れた。


「頼もう」


 九子が農家の表から声を掛けると、中から返事があった。


「ンンン~? なんだぁ?」


 どし、どしと足音を立てて、低い唸りを上げながら出てきたのは見上げるような巨漢であった。

身の丈六尺(百八十センチメートル)程もあり、やたら筋肉質の分厚いプロレスラーみたいな体つきをしていて、どういうわけか顔だけ覆面で隠しているふんどし一丁の半裸だった。


「へ、変質者!?」

「馬鹿野郎! 俺様ァここの主様だっつーの! ……姉ちゃんが美人じゃなかったらふんどしの錆にしてるところだぜ!」

「錆びるのか、そのふんどし……」


 どう見ても変態だったが、どうやらこの大きな農家の主人らしい。豪農や庄屋なのかもしれない。そこらの長屋暮らししている貧乏武士より立派な家であった。


「俺様は人呼んで根津(ねづ)甚八丸(じんぱちまる)。なんか用事か、姉ちゃん」


 筋肉をビクビクと無意味に震わせながら男がそう名乗った。九子は考える仕草をしながら、


「根津甚八? どっかで聞いたような名前だのう……それはそうと、己れは九子という。江戸で飯屋をやっておるのだが、卵を売ってくれんか」

「卵ォ? まあ後で市中に売りに行かせようと思って集めてたけどよ。一個十二文な」


 甚八丸が値段を提示する。卵は江戸でも高級食材だ。現代価格に換算すると一個が二百四十円。十個買ったら二千四百円と、現代のスーパーでの十倍ぐらいになるだろうか。

 しかもこれが生産者直送価格なので、飯屋などで食べようとすると十六文から二十文前後を覚悟しなくてはならない。

 九子は思ったより高いな、と思ってにこやかに告げた。


「そこはほら、産地まで取りに来たのだから幾らか値段おまけしておくれ」

「図々しいなこの姐ちゃん!」


 いきなり堂々と不敵な顔で安売りを要求してくる女に、むしろ甚八丸が驚いた。

 だが理屈もわからないではない。卵は壊れやすいので、江戸市中まで運ぶにも神経を使わなくてはならない。前に荷車いっぱいに卵を積んでいた卵売りが、たまたま火事で大騒ぎになった民衆の移動に巻き込まれてすべてひっくり返したのを甚八丸は見ていた。

 そういったリスクを抜きにしてすぐに売れるというのは値引きの考慮もしていいかもしれない。


「じゃあとりあえず二十個を百文ぐらいで」

「安すぎるだろうがよ!」

「かーらーのー?」

「無理だっつーの! 嫁に殺されるわ!」


 流石に半値以下は値切りすぎだったか、と甚八丸の頑なな態度で九子は思った。

 しかしながら天ぷらを作るには鶏卵が必要なのだ。あまり原価が掛かっては儲けが減る。ここは交渉どころだ。


「では代わりになにかやろうか? 美味い水とか氷の塊とかいらんか?」

「なんでえ、その提案……」


 いきなり水とか氷とか言われてもピンと来ない甚八丸である。氷は確かに夏場高額で売れるのだが、そんなものをひょいと取り出せる者は普通居ない。

 代わり、と言うが甚八丸はこの眼の前にいる九子のことをなにも知らないので、なにを要求できるのか判断材料が無い。そこで彼は誘導されたように、下卑た声を出した。


「へっへっへそれなら姉ちゃんの拝乙(パイオツ)を揉ませてくれりゃ値下げしてやってもいいぜ」

「まったく。男って阿呆だのう」


 さっきから九子は、自分のやや着崩して胸元が出ている部分へ甚八丸の覆面越しの視線がしっかり行っていることに気づいていた。なので、話を自分から持っていくように仕向けてみたのだ。

 まんまと引っかかった甚八丸の手をむんずと掴んで、自分の胸を鷲掴みさせた。


「ぬああああ!?」

「ほれほれ。一揉みごとに十文下がっていくぞ。残り九十文」

「チックショウ、罠だッ!! クゥゥこの罠は周到だアアア!」

「あと八十もーん」

「ううっ指が吸い付いて離れねえ……! この乳、なんて弾力をしてやがるぅぅアアア」

「七十、六十」

「待て! もしかしたらこれは……今はまだ効かねえがいずれなんらかの病の特効薬に……!」

「ごじゅー、よんじゅー、さんじゅー、にじゅー」

「うっうああああ金が吸われていくウウウウ! 俺様の命の輝きと共にイイイイ……」

「十文、そして零文……マイナス十文。二十文」

「うわ増えてるけどもしかして俺様が金払う感じになってなぁい!? 助けてー! おかーさーん!」


 別段、九子は手を押さえているとか強要はしていないのだが甚八丸は自分から手を離すことができずに、覆面頭を振り回して泣き叫んだ。悲しい男のサガだった。

 と、そのとき。トトト、と軽い音が何度か聞こえて、甚八丸の体が小さく震えた。


「ぐえーっ!」


と叫んでその場へうつ伏せに倒れた。無駄に半裸だったその筋肉質な背中に、何本も包丁が突き刺さっていた。当然ながら肉を切り裂き、真っ赤な血が流れつつあった。

 背後から飛来してきた包丁を背中で受けたのである。


「お、おい大丈夫かえ!?」

「うううう……まずい、うちの嫁にバレた……あいつすぐ包丁投げてくるから……筋肉でどうにか受け止めたけどよ……」

「いや思いっきり刺さっておるぞ。ドメスティックバイオレンスだのう……うわ。見ておる」


 家の奥から、体を半分覗かせて薄ら暗い目でこちらを見ている女が居た。片手にはまだ包丁を持っている。見た目は普通の女だが、恐ろしい殺気を感じた。そしてその胸は揉むところが無い程度に平坦であった。

 九子は血を流しながら倒れる甚八丸を見下ろして、とりあえず告げた。


「この男がのうー、卵が欲しければ胸を揉ませろと言ってきてのうー」

「グワーッ! ケツ筋防御ォーッ!」


 ウソは言っていない。そう告げると案の定包丁がもう一本、甚八丸の尻に突き刺さったように見えた。実際はどうにか尻で白刃取りのように受け止めたらしい。筋肉が無ければ即死だった。

 家庭内の惨劇が起きそうな雰囲気であったが、とりあえず九子は無口な甚八丸の嫁から卵三十個を一個あたり十文で取引して帰ることになった。


「まあ、得したからいいか」


 助平心を持った男を騙して巻き上げる分には心も痛まない。天ぷらの材料が揃ったので九子は軽い気分で卵を抱えて店に戻ることにした。安値で取引できる便利な農家なのでまたそのうち甚八丸にたかりに来ようと思いながら。



 ******



 江戸の人々は噂好きで、暇人も多い。ちょっと耳新しい出来事があれば、あっという間に江戸中に噂は広まる。

 九子が意図的に拡散した、天神様が怒って雷を鳴らしているという噂は昼過ぎには誰もが知る話題になっていた。早速、湯島天満宮や亀戸天神社へとお参りに行く者も出ていたという。

 それを確認してその日は営業を終え、九子は皆を集めて告げた。


「明日は天ぷらを出して店も忙しくなる予定だから各々頑張るようにのう」

「九子は!?」

「安心しろ、己れも働く」


 他に材料としてゴマ油も購入してきて準備を整えている。


「桑の葉の天ぷらだ。なにせ雷が鳴り響いて天神様がお怒りだからのう。桑の葉天ぷらを食べれば、天神様も雷を落とさんだろう。そういう売り文句で一気に売る」

「う、噂って九子が広めた挙げ句、雷まで自分で鳴らしているのに……」

「房子や。いいことを教えよう──雷を鳴らしてはいかんという法は無いのだ」


 九子が悪そうに笑った。お房は一瞬、大人の汚さを見たかのように顔をしかめたが、まあ店が儲かるのならと飲み込んだ。

 おずおずとお雪が手を上げる。


「あのう、天ぷらを手伝うのは私難しい気がしますよう」


 なにせ揚げ油を扱うのだ。下手をすれば火傷、或いは火事になりかねない。

 九子は安心させるように告げる。


「うむ。揚げ物は慎重にやらねばならんからのう。だがお雪にも手伝って貰う。具体的には六科と一緒にな」

「六科様と?」

「六科に揚げ物を任せておると、焦げたりベチャベチャだったりして上手くいかなそうでな……というか作ったことあるか?」

「ない」

「だろうのう」


 江戸時代、庶民で天ぷらを作ったことのある者は相当少なかった。普通の調理に比べても火事の可能性が段違いであり、火事を起こせば死刑になるのだ。練習すらしたくないと思っていても不思議ではない。

 当時の天ぷらはそれ故に、屋台などを使って屋外で作られることが多かった。日本橋の魚市場などでは天ぷら屋台が、魚やエビなどを揚げて提供していた。


「まあ、とりあえず練習で晩飯に作ってみるか」

「やったの!」


 食べられると聞いてお房も大喜びだ。

 九子とて料理の名人ではない。ただ若い頃は母が病弱、父は海外出張、弟は幼いという家庭環境だったので、家庭料理はできる方だった。

 台所に行って天ぷらの衣液を作る。小麦粉、卵、冷水を混ぜる。安値で手に入れたというのに卵をケチるため水多めの配分だ。

 『氷結符』によって衣液には氷が浮かんでいてとても冷たい。これは使っている小麦粉がうどん粉なので、天ぷらに使うともっちりしてしまうことへの対策だった。普通はグルテンを抜いた浮き粉で作る。うどん粉に多く含まれるもちもち成分のグルテンは水多めにしてよく冷やせば発生を少なくできるという理屈があるのだが、九子はなんとなく習慣で冷やすことを覚えていた。

 もし他の店が天ぷらを真似しようとしても、術符が無ければ同じ食感は出せないだろう。また、衣を冷やすことで油の温度が下がりやすいが、そこは『炎熱符』による高い火力で高温が維持されるため問題はない。


「作りながら原価を計算してみようかの。桑の葉はタダとして、衣と揚げ油の値段が主だのう。だいたい桑の葉二十枚を一回の衣液で作れるとして……」


 卵(割引) 一つ 十文

 うどん粉 一合  七文


「そして揚げ油の消費を正確に計算するのは難しいが、二十枚ごとに半合ずつ入れ替える計算でしておくか」

 九子が竈にゴマ油を張った鍋を置いて火に掛けながら計算をする。


 ゴマ油 半合 三十文


 やはり油は高級であるが、それ故に揚げた天ぷらは高い値段で売りつけても文句は出ないはずだ。

 衣液を熱した油に一垂らしして温度の様子を見て、九子は衣をまぶした桑の葉を油に投入する。

 しゅわ、と小気味いい音と共に無数の気泡が浮かぶ。


「それだけの衣と油で二十枚の桑の葉天ぷらを揚げて、一枚二十文で売り捌くのだ」

「天ぷらは高級品だけど、ちょっとそれでも高くないかしら」


「いいのだ。今は(・・)高く売れるからのう。味つけは塩か蕎麦つゆあたりでいいだろう。そうすると天ぷら二十枚あたりの費用と利益が、


 材料費 五十文(調味料含めて)

 売上  四百文

 利益  三百五十文


 と、なるわけだ。原価率がたった一割ちょっとだぞ」


そして当然ながら、桑の葉は二十枚で打ち止めではない。なんなら百枚以上ある。

 もしこれが百枚分売れたとしたら利益は千七百五十文にもなる。

 それを十日も続ければ一万七千五百文……天ぷらだけで月の収入目標を達成できてしまうのだ。


「ついでに酒も売れば更に儲かる。天ぷらに酒は合うからのう……ほれ、房子や。最初のが揚がったぞ」

「わあい。熱っ! 熱々(あちゅちゅ)っ! でも美味しいの! パリパリもちもちしてるの!」


 揚げたての桑の葉天ぷら。味としてはいわゆる山菜の天ぷらに似ていて、ほろ苦くてサクサクしているものだ。多くの山菜の若葉は天ぷらにすれば美味しく食べられる。桑の葉は更に、葉っぱに独特の食感がある。


「火傷せんようにな。六科は揚げ色をよく見ておけ。どれぐらいで取り出すのかをな」

「うむ」

「……イマイチ信用できん。お雪、揚げ音が変化するのを聞き取れぬか?」


 以前に天ぷら職人が揚げるときの音で具合を確かめる、と聞いていたのでお雪にもやらせてみた。

 九子が揚げ具合を見て合図するのをお雪は何度か試して、


「やってみますよう!」


 と、意気込んだのでお雪に引き上げるタイミングを測らせたところ、十分に問題ない揚がり具合を音で判別することができるようになった。常人より耳の性能が遥かに優れている。

 六科はお雪と協力して、彼女が合図をしたら六科が天ぷらを引き揚げるコンビになってもらうつもりだった。

 九子は店頭で客の呼び込みとテイクアウト販売をしなくてはならない。店の席数だけでは売上に限度があるが、店先で買って持ち帰るか路上で食べてくれれば更に販売数を増やせる。

 明日、明後日は忙しくなりそうだと思いながら九子は夕飯のおかずもついでに揚げる。


「これは温度管理が面倒だから店に出せぬが、特別に半熟卵の天ぷらを作ってやろう」


 カリッと表面は揚がっているのに中は半熟卵という天ぷらを、飯の上に乗せて味噌たまりを掛け回して食べる。

 江戸の庶民からすれば贅沢な卵と贅沢な天ぷらのコラボレーションで、お房もお雪も満面の笑みになるぐらい美味であった。六科は飯がビタビタになるまで味噌たまりを掛けていた。


「それにしても卵が沢山手に入ったの」

「ああ、助平な農家の男に胸を揉ませたら安くで手に入ってのう」

「……胸を?」


 お房が訝しそうに、自分の胸をふにょふにょと撫でて、それから九子の胸をむにむにと突いてみてから首を傾げた。


「男の人ってよくわからないの」

「お主はやらんでいいからのう。むしろ房子の胸を揉みたいとかどこぞの同心が言ってきたら教えるのだぞ。秩父山中にでも埋めておくから」


 苦笑しながら九子はお房の頭を撫でてやり、自分も座敷に座って天玉丼を食べる。


「自分で言うのもなんだが中々美味いのう。あの農家の……甚八丸とか言ったか。あやつにも今度作ってやるか」


 嫁にも迷惑を掛けたことだし、と九子は思った。実際に自分が作った食材が、美味しく調理されているのを味わえば喜ぶかもしれない。ついでに割引してくれるかもしれない。そう思いながら。


 ******


 その夜。

 九子は昨日に続いて夜空に飛び立った。昨晩寒かったので、今度は温かくした酒を入れた徳利片手に飲みながら向かった。

 再び雷を起こすつもりだ。江戸の庶民を天神の祟りという恐怖のどん底に叩き込んで、その影響で天ぷらを売る算段である。


「南無南無、天神様も許しておくれよ。確か商売の神も兼任しておったろう」


 九子は本物の祟りが出ないように祈りを捧げつつ酒を飲んだ。


「しかしまあ、仏法でも『個人で雷を起こしてはいけません』とは書いてないはず。うむ、祟られる謂れはないと信じよう」


 九子はそう勝手に信じながら術符を握った。石燕が聞いていたならば、妖術や左道を仏教がいかに異端視していたか詳しく解説したかもしれない。

 九子の持つ術符から、またしても輝く雷の鞭が増殖するかの如く伸びて、夜空に蜘蛛の巣状の模様が浮かび上がる。

 まるで空が罅割れ、その罅から異界の灯りが漏れているような恐るべき光景だ。普通の雷光ならば一瞬で空を駆け抜けるというのに、魔法によって生み出された放電の網は継続して空を焦がし、爆発的な雷鳴を響かせ続ける。

 夜の江戸がにわかに明るくなるほどの光だ。眠ろうと長屋の部屋に籠もっていた者ですら、障子から灯りが差し込み、木戸を轟音が揺るがすので頭を抱えて震えた。

 こうなっては夜道を探索している同心、辻斬りたちもたまったものではない。


「クソッタレめ! こんなんじゃ斬り殺す相手も出てきやしねえ!」


 火付盗賊改方の同心が悪態をついて軒先に避難した。

 金気の物に雷は落ちやすいというのは当時から知られていたこと。そんな雷が、見たこと無いぐらいに鳴り響いている夜に刀や十手を持って出歩くなど自殺行為だ。江戸での災害の記録では、一日に最大十数名が落雷で命を落とすこともあったという。


 そうでなくとも信心深い時代である。昼間から天神が怒っているという噂、瓦版が出回っていてまさに夜中にこの豪雷だ。夜遊びをする岡場所の客たちも命からがらといったほうほうの体で自宅に逃げ出していた。

 雷が落ちる、などの一次被害は出ていないものの大惨事といってもいい。


 そんなことをやらかしている天狗は酒を飲みながら飛び回り、雷を響かせているのだが。


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オーガニックなハッパって、ちょいと加工してやれば良い気持ちになれるイリーガルなヤツじゃないよな? すごくすごいヤクザムーブ!いつか本物の天神様から天罰下りそう
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