彷徨う命
生死に関する表現が出てきます。ご注意ください。
薙華に蹴り落とされた黄柏は丘から落ちていくときに薙華の歪んだ笑顔と目が会った気がした。
昔から二人で一人なのではないかと両親に笑われるほどずっと一緒に過ごしてきたのにどうしてこうなってしまったのだろう…。
落下時間は多分数十秒だったが体感ではもっと長く感じた。最後に空の色を見ようと見上げたが目の前にはモニターしかなかった。
ドンっと重い音の後に背中を中心に痛みが走った。どうやら丘から完全に落ち地面に叩きつけられたみたいだった。鎧の頭部は全面モニター仕様になっている為自分の浅い呼吸だけが響いた。
もはや目をつぶっているのか開けているのかも分からなかった。
ハッハッハッ 浅い呼吸がまだ続いている。
この呼吸音が止まる時自分は死ぬのだろうか朦朧とする意識の中で死を意識し始めた途端に恐怖が襲い掛かってきた。
まだこんな状況でも感情は生まれるのだなと少し客観的な考えも同時に浮かぶ。
しばらくすると、頭部の前半分がブルースクリーンになった。
カーソルの後に何か文字が表示されているみたいだが黄柏は読むことができなかった。
『搭乗シャ の 目セン 移動 ガ カク認 できないタメ 音声 gイド を 起dう シマス』
ノイズ音と共に音声サポートが付いたようだった。
『搭乗シャ の セイ命 イジ が kんナン これより シボウ 確認 さgyう ニ 入り マス』
ブルースクリーンには黄柏の心拍数・呼吸数・体温などが表示されていたが全て異常を表す警告が表示されていた。
そして、すべての表示がそれぞれ直線に表示された。黄柏は自分の呼吸音が聞こえてなかった。
ブルースクリーンの生体モニターの表示が消え青々と光っていると黄柏がまるで眠っているように目を閉じているのが見えた。
やはりコア部分が破損されているため排出処理はされなかった。
しばらくすると、ブルースクリーンがブォンという音と共に一瞬消えその後四隅から少しずつ白い画面に変化していった。そして、画面の中心から文字が現れる。
『黄柏ちゃん?死んじゃったの?ダメダメ。そんなことさせないからな!』
普段は余裕のある鎧が黄柏の体に張り付くように密着すると
『まずは心臓マッサージいっきま~す』
胸のあたりの鎧が黄柏の心臓を強く押し込んだ。
『人工呼吸、間接キッスができないから~』
どこからかマスクを出し、黄柏の口元に当てた。
『が~んばれ!が~んばれ!』
黄柏を応援しているのか、ふざけているのか分からない雰囲気だった。
何回かの心臓マッサージで黄柏の心臓が小さく動き出した。
『よし、心停止時間1分か。脳機能には異常なしだな』
酸素を強引に黄柏に送り付けていたがついに息を吹き返した。
『お~い!お~い! 気が付いた?』
黄柏はうっすらと瞳を開けると見たこともない画面が広がっていた。
「ここは・・・。天国か?」
まだ意識がしっかりしていない黄柏はろれつが回らないまま呟いた。
『う~ん。残念。俺が引き戻したぜ!』
「・・・。死んでないのか」
『でも、もう一度天国にいきたいなら、手伝うぜ? このまま放置してると行けるしな。アハハ!』
「私は・・・。生きたいのだろうか。死にたいのだろうか。」
『黄柏ちゃんが決められないなら俺がコイントスでもして決めてやろうか?』
黄柏は目をつぶり少し上を向いた後画面を睨みつけると
「お前に私の事は指示させない。私の事を決めるのは私自身だ!」
黄柏は両手をそれぞれ握りしめると
「私は、生きたい。そして、薙華に問いたい。お前にとって私は邪魔な兄でしかなかったのかと!」
そう叫ぶとそのまま再び気を失った。
『搭乗者 黄柏の意思を確認 直ちに生命維持を優先する為 医療行為を開始』
口語から機械的な表現に変わった。黄柏の纏っている鎧の一部が薙華によってえぐられた傷口を治療し始めた。
傷口の左わき腹の縫合が終了すると全身スキャンをしてその他の怪我の確認をした。
『あちゃ~、背中も強く打っちゃってるわ。これも治しとこ』
その後何回か全身スキャンをした後、医療行為を終了した。
『よし、こんなもんだね。俺も少し疲れたから休憩しよっかな・・・。』
『俺様システムへようこそ! 黄柏』
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