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最初に赤くて、白くなる誇り

作者: 大泉 碧

 なんのフェチなのかという話題はインターネットでのごく限ったつながりか、それなりのことを話せる友人との間でしかする勇気がない。なぜなら、自覚せずとも反社会的なフェチであった場合、取りかえしのつかないことになるからだ。


 中学3年のとき、クラスでやたら「お前何フェチ?」が流行った時期があった(時期といっても一週間くらいで鎮火した)。思いだすのもニヤニヤしてしまうけれど、給食の時間に向かいあって食べている6人ぐらいの班でこの話題を迎えたとき、僕は急造フェティシズムを考えることになった。それまで、自分が何フェチかなんて考えたこともなかったから。

 先に出てきた有象無象(つまり、ノーマル)なフェチは、耳や声や首だった。これらの部位について皆が談笑している間が僕に与えられたシンキング・タイムであり、本来はこれらと同等くらいのフェチだと答える必要があった。だけど会話の流れを汲むのが苦手な僕は、ふだん自分がなにに興奮しているかを振りかえるのが本筋だと思っていたのだ。

「それで、稲原は?」リーダー格の女子がこちらへ振ってくる。だいぶ前から箸を動かすのを忘れていた僕は、頭のなかをそのまま差しだしてしまった。

 一瞬の間をおいて、はっ……。だれしもの声にならぬ笑いが僕の耳にとどく。この日以来、僕はクラスの女の子と目の合うことが明らかに減った。だから、自分がなんのフェチであるかについてはっきりと意識のある人は、それを話す他人をかなり絞ったほうがいいし、自覚がなければわざわざ話題にすることもない。「口は災いのもと」という今や手垢のつきまくった言葉を、手垢そのものと共に丸呑みしたようなこれほどの実体験は、他に思いあたらない。


 でも、あえていわせてもらう。給食の席で僕が答えた「フェチ」とは別のものだが、僕はニキビが好きだ。ニキビが好きという時点でフェチのほうもけっこうヤバそうだという予想がつくかもしれないが、僕はほんとうにニキビが好きだ。

 なぜか。ニキビはいっぱんに、隠すべきものであり、治すべきものだ。テレビや動画サイトで顔を出している有名人でニキビが目立つ人を、あなたはだれか挙げられるだろうか? 僕の知るかぎりでは、そんな人はいない。(こう言うとなんだかジジ臭いが、)最近の「清潔でエモい」カメラワークは、「清潔でエモい」ものを撮ることで広告収入を得ているし、不潔なものが映りこむと「放送事故」になってしまう。ニキビは不潔の象徴のようなものだから、カメラを持つだれもが映したがらないし、ニキビをもつだれもは映りたがらない。

 だけど僕がニキビを好きだと思うのは、それが生きている証であり、日々を頑張っている証だからだ。かくいう僕もニキビ体質で、思春期を迎えてからは少なくない頻度で皮膚科にお世話になっている。そういう生活でつねづね感じているのは、ニキビは苦労のない人にはやってこないということだ。といっても自身の苦心をアピールしたいわけではなく、そもそも現代社会はだれしもが苦労させられるようにできている。「私はそんなにストレスを感じていないけど、ニキビがよくできてしまう」という人がいたら、ただの頑張り屋さんだ。

 ということで苦労人の矜持としてのニキビは、けっきょく薬を塗られ、また気づけば浮きあがってくるという仕組みになっている。

「ニキビは治せる」というのは医学の進歩のたまものだし、その恩恵にあずかることは嬉しいことだ。だけど、そのことは「嬉しい」だけであって、「治せるはずなのだから、あなたがニキビを抱えつづけるのは異常だ」というシグナルを発することは越権行為ではないか。ニキビをいくつ、どこにどれだけ抱えていようが、あなたは素敵だ。

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