双子の王女
レルシア王国でクーデターが起こった。
重い税と貧困に我慢の限界が来ていた平民達が武器を持ち一斉に王城に攻め入った。
王族を護る為に騎士や兵士達も戦ったが勢いは止められず。
王族全員が捕縛され全員が処刑される事になった。
そんなカオスな状態になっている王都をローラが訪れたのはクーデターが落ち着いた頃だった。
彼女は物心ついた頃から薬師の老人と共に旅をしていた。
旅先で薬師に薬について色々教わり知識を得ていた。
そんな育ての親であり師匠でもある薬師は既に亡くなっておりローラは天涯孤独の身になってしまう。
しかし、彼女は前向きだった。
薬師が教えてくれた知識を元にローラは国家資格である薬術士の資格を取ろうと思いこうして王都にやって来た。
今まで国家資格は平民は基本的に取る事は出来なかったが、クーデター以降平民にも国家資格を取る権利が与えられた。
王都に初めてやって来たローラは賑やかさに驚いていた。
それでもクーデターの跡は残っていていくつかの店は閉まっていたり窓ガラスが壊されていたりもぬけの殻になっていたりしていた。
ローラもクーデターが起こっていたのは知っていたけれど別に興味は無かった。
何処かに定住しているなら生活がー、とかお金がー、とか不満があるかもしれない。
しかしローラは基本国内を回る旅の薬師、定住先が無いので特に国に対して不満も持っていなかった。
処刑された王族に対しても『大変だなぁ』と思うしかないのだ。
試験会場に付いたローラは受付を済まし席に付いた。
午前中は筆記試験を行い午後は面接官による質疑応答が行われ結果は当日に発表される。
ローラは午前中の試験は自己採点でもまぁまぁの出来だった、と自負している。
昼飯を食べて午後も頑張るぞ!と思っていた時、何故か職員に呼び出された。
ちょっと別室に、と言われ『もしかして疑われている?』と若干不安になった。
後をついていきとある部屋に入ると何人かの男性がいた。
男性達はローラの顔を見て『そっくりだ……』『まさか生きていたとは……』『やはりあの時の選択は間違いだったのか……』と口々にボソボソと言っていた。
ローラはますます訳がわからん、と首を傾げたが男性達の1人が漸く声をかけた。
「ローラさん、貴女はご自身の出生の事を聞いた事がありますか?」
「え、出生ですか? あ、育ての親である師匠から『森に捨てられていたのを拾った』て聞いた事がありますけど」
「そうですか……、ローラさん、よく聞いてください。 貴女は旧王族の血を引いている可能性があります」
「……はい?」
突然の話にローラはキョトンとしてしまった。
この男性達は旧体制で王家に仕えていた者達で元貴族である、という。
クーデター以降は貴族制度が撤廃した事で平民となっていたが元々能力は高い者達は国の役所なので高い地位にいる。
「実は我々は貴女に謝らなくてはいけないんです」
「謝る? 私に?」
「はい、貴女は元々双子として産まれたのです。 ですがこの国には古い言い伝えがありまして……」
「双子は不幸の象徴、でしたっけ? 私も聞いた事があります」
「えぇ、そうです。 我々も信じていてどちらかを処分しなければいけない、と会議をしていました。しかし、産まれたばかりの赤子の命を奪うのは人の道理としてどうか、と言う意見もあり最終的に城の近くの森に捨てる、という決断に決まりました」
「それで捨てられたのが私、という事ですか」
「はい、本当に申し訳ありません!」
男性達が一斉に頭を下げた。
「あ、あの頭を下げなくても結構ですよ、私今の自分でも満足してますし王女として育った訳でも無いですし気にしてませんから」
「そう言っていただくとありがたいです……、あぁやはり王妃様の面影が残っている……」
「あの、それで私のその双子の姉か妹になるのかわからないですけど彼女も処刑されたんですよね?」
「えぇ、今思えばサラ王女、あぁローラさんの双子の1人ですが彼女が国を傾ける一因になったかもしれません」
「え?」
「サラ王女は周囲に異様に好かれていました。 サラ王女の言う事は絶対、という雰囲気が漂っていました」
「国王様もサラ王女が成長していくにつれて賢王としての姿が崩れ落ちてしまいサラ王女の言いなりになってしまいました」
「言い方は悪いかもしれませんが魔性という言葉が似合う方でした」
ローラはサラ王女の評判を聞いてう〜ん、と考えこんでしまった。
王女という立場から甘やかされて育ったのは否めない、それでも国王が娘の言う事を全部聞く、国王だけではなく周囲の人間も全部聞くのはどう考えてもおかしい。
当然、ローラは会った事無いのでわからないけどサラ王女は生まれつき人を惑わす能力があったのではないか、と思う。
亡くなった師匠は『人間は成長しても根本的な部分は変わらん、まじめな人間はしくじってもやり直せる、しかしクズはクズだしクズな生き方しかできん』と言っていた。
なんで私を拾ったの?と聞いた事があるが『お前はまじめだからな、きっと良い方向に歩んでいく、儂はその手助けをしているだけだ』と返していた。
なんのこっちゃ、と思っていたがサラ王女の話を聞いて師匠の話をふと思い出していた。
もし自分が王女で捨てられたのがサラだったら?
また違う運命が待っていたかもしれない。
でも、もしもの話をしても仕方が無い、なんせローラは今の自分が大好きだからだ。
その後、面接を受けてローラは無事合格、薬術士の資格を獲得した。
試験を終えたローラはその足で旧王族が眠っている墓地に向かった。
そして眠っているであろう顔も見た事の無い家族に手を合わせた。
そして再び流浪の旅に出たのだった。