after 7〔新代社会の夏と新幼児と長期休暇の諸事情〕
新時代になっても気温は下がらない。
「体がダルい……」
教室は空調が利いているが、当然室外は暑い。
ただ暑い、寒い、だけならともかく、それを繰り返す事で蓄積する不快感と疲労。
「今度パパに子供用の空調服、お願いしよ……」
おいおい。――既に手持ち扇風機を使用中だろ。
「かえって重たくなるっつーの……」
それは盲点。
「……無いよりマシっしょ」
――しかし、ダレてんなー。
まあ当然か、本日の外気は35℃を超える猛暑。
しかも子供の体感は大人より、7度も高いと世間では言われている。
「天日干しにされる魚って、こういう気持ちだよねー……」
生きているのならって話だがな。知らんけど。
「いっそマヤカはミイラまで、なれば……?」
暑さ寒さもミイラになれば関係ないってね。
「……スキンケア、大事っしょ……」
こんな時まで女子力エジプトかよ。
「肌の手入れなんて、今のわたし達に要る……?」
「必要ない時代とか……無いっしょ」
幼児も意外と乾燥するんだよねー。
「保湿か……。保湿で思い出したけど、夏休みの補習って、どうなった……?」
嫌な事を思い出すねぇ。
「……アタチは追試で名誉挽回にカケる」
ぉ、ギャンブラー。
「マセルは……?」
「――私は一教科だけ補習……」
「一教科、英語かな」
さすがです。
「そういうチエはー?」
ある訳ないでしょ、学年のトップクラスが。
「わたしは一応出れる補習は出て、次行くかはそれで決める感じかな」
学力セレブかよ、羨まし過ぎる。
大体他にいろいろとやってるでしょ、オタクは。
「……なにソレ、羨まチィ。いっそ試験の時だけチエと合体チたい」
だったら私も雑ぜてくれよ。
「――アルバートの逸話だけど、当時最も人気のあった女優が私の外見とあなたの頭脳なら完璧な子が生まれるわ、って言ったんだけど。彼は何て返したか知ってる……?」
それよりも、彼の事をアルバートって呼んでるのかと言いたい。
「ぇ、誰……? そんで何て言ったの……?」
まあこの際分からないのは仕方がないとしよう。
「その子が私の外見で、あなたの頭脳を持っていたら――どうする。よ……」
「確かに……」
そこまで感心する状況か、今。
――遠回しに嫌がられてますがな私達。
「……要するに、自立しろって事だね……!」
良い子ちゃんかオマエは。
「そういうコト。――ところで先日初めて見たんだけど、新幼児っての? 結構驚いた」
ああ。今のところ、私はまだ直接見た事ないな。
「アレっしょ、生まれて直ぐ幼児になった中身が赤ちゃんの子供っしょ?」
「そうそう。結構な衝撃」
世間では新アダルトチルドレンなんて称呼もされている。
「不運だよね……、特に親御さんが」
かもしれん。
「でも最初の過程をすっ飛ばせるっしょ?」
「――マヤカ、馬鹿か?」
お、明言。
「チエほど賢くはない……」
「そういうコトじゃなくて、もっと想像を働かせる」
想像力は未来だ。
「うーん……、将来の事なんて、具体的には分かんないよー……」
それもそう。実際、誰かこんな時代を想像できたか?
「はぁ。――ま、マヤカらしいかもね……」
同意です。きっと、悪意も無いのだろう。
「――ソレも、よく分かんないけど……。――でさ、夏休みの話、どうするゥー?」
「あれでしょ、マヤカんとこの別荘に行くって話」
「そうソレ、どうするゥー?」
「わたしは夏期講習の予定に合わせてくれるのなら、行ける」
「――マセルはどゥー?」
そりゃあドゥするか、と聞かれると。
「シフトを出すから、予定は早めに教えて」
「オッケー決まりィー」
もう決定事項かよ。
ま、一度きりの青春、こんな時代だからこそ――二倍楽しむ気持ちで生きましょう。
新代社会の夏と新幼児と長期休暇の諸事情/了