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after 3〔新代社会の卒入式と小さな声の諸事情〕

 少し過去の出来事を振り返ろうと思う。――ついでに私達の出会いも。

 現在から一年前の事、突如として全人類は五歳に成った。

 ……何故? そんなの知らない。

 ――目が覚めたら体が女児に成っていた。

 それしか分からない。というか分かっていない。

 以降世間(ちまた)では憶測が飛び交い、世界中で情報が荒れに荒れたが収束に向かった結末としてはいくつかの観念形態(イデオロギー)が人類の正気を保ったと言っていい、と思う……。

 要するに神の御業、とある陰謀論、宇宙の変革、等々……そこから無数に枝分かれし崩れそうになった人類の地盤に根を張って――心を固くしたのだ。

 その後は再度社会保障を立て直す為に世界人類は結集し、人の歴史上で初めて争い事が絶えて地上からその姿を消す。

 しかし半月後には再開した。

 数百万年続く人類の平和理念は、わずか半月で失われてしまったのだ……。


  ※


 某日より一年、私達はなんとか中学の課程を修了し高校へと進学する事が出来た。

 (ひとえ)に社会の歯車として機能し続けた元大人達の仕事が収縮した日本の土台で日常をやり過ごす事となったのが、異変中の幸い。

 ――心より感謝申し上げます。


  ▽


 自分で言う事はこれまでに無かったが、内心ではずっと地味な方だと思っている。

 一応最低限女子としての身だしなみは整えているつもり、けれども色恋沙汰は特になし。

 ――彼氏? なにそれホクホクしてそう。くらいの期待はあったが、もはや当面実る見込みは無い……かな。




 卒業式、全ては異常な景観で終始戸惑っていた。

 全校生徒が児童、並びに全教員幼児、及び幼い保護者が列を揃える。

 皆様幼体化しお行儀が良くなってませんか……?

 なんて――冗談を思っていられる内は社会の恩恵で卒業証書を受け取れる。

 てか校長、アンタ昔はそんなに美形だったんかい。




 何かの課程を修了すれば、それは新しい何かの開始。

 再び異様だった入学式を終えて始まる高校生活の初日に、私達は出会った。

 一人は幼児らしからぬギャルメイクで今年は国内全ての学校で私服が導入されたにもかかわらず往年の制服を自身に合わせた物にし着衣していた事で、人目を引く。

 ――ねえ、それどうやったの? マジ教えてほしいんだけど。

 そして、もう一人は私以上に地味だと思った。が内質はセミロングの黒髪など灰色に見えるほどの毒性だった。


「成績が落ちる関係性になったら友人をやめるから、宜しく」


 衝撃的なご挨拶だったのを未だに覚えている。

 そんな二人は、中学からの友人――改め、幼馴染との事。

 私はいつの間にか同じクラスで席の近さを発端としたギャルに絡まれると、誘われて来たその友人と出会い、三人は昼休みを主な時間とし談話する“私達”と成った。

 個人的に居心地は良いのか? と聞かれれば、普通。と言うし。

 嫌ではないのか? としつこく言うのなら、煩い。とも思う。

 ただ私達は仲の良い友人関係を築こうとしている訳ではない。

 なので、一言で表すと、――井戸端会議の同士、かな……?

 要するにこの国の未来、不思議な現状、数多くの社会的問題を解決する気など毛頭無い普通の女子高生(JK)、の話。

 但し今は全人類が幼体化した後の、小さな日常を過ごす。

 早急にどうにかしてほしい事と言えば学校用家具の適切なサイズ調整――と、担任が小さ過ぎて見落としてしまう事。

 せめて教員と見て分かる腕章でも付けてほしいな……。


「はい、朝のホームルームを始めまチュ――」


 ぁ噛んだ。


「――……先日再開したいくつかの体育実技ですが、既に何件も改善要求が生徒個人から出ていて、当校はクラス単位でのアンケートの実施をすることにしました」


 実際に体験した身としては当然の流れ、皆も異議は無し。


「さしあたり野球と、今年の水泳授業は安全面の確保が難しい事から見送る決断となりました」


 あら、水泳は分かる。が野球……女子にとっては関係もない。

 しかし予想外に本校では恒例の夏授業が無くなった事に、声を上げる生徒は多く。

 ――君達、正気かい? もっと想像力を働かせてくれ。


「ぁー、静かにっ」


 ほら担任が困ってるぞー。全然行き届かないんだから、静かにしてあげなよ。


「こらー、静かにしなちゃーい!」


 声量も含めて可愛いぞー。あとまた噛んでるし。

 と、このままでは収拾がつかない事態と判断したのか、踏み台から降りる担任の女師が教卓の内側からメガホンを取り出して口に当てる。


「“静かにー! アンケート用紙を配りますので、文句があるのなら書きなさーい!”」


 拡声した甲斐あってか、直ぐに静粛するクラス一同。

 ただ台を降りた担任の姿は後方からだと見えないのではないだろうか。

 それに気付かずメガホンで喋りながら最前列の生徒に用紙を渡していく女児(先生)


「“十五分後位に戻ってきます。口ではなく、手を動かしなさいよーっ”」


 そう言い残して教室を出ていく女師。

 だけど、大半の視界に、そもそも担任の姿は入っていたのだろうか……?

 ――そして、教師は最初からいなくなった。








  新代社会の卒入式と小さな声の諸事情/了

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