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情報

「……ちゅうわけですね。まあ色々と厳しいところもありましたけど、なんやかんや誰一人失わずにここまで来れました」


 人払いを頼み周囲から人を散らせたイナリは、父であるゴウクにミヤビのリンカ病を治したことの顛末を、詳細に語ることにした。

 なぜ自分とマクリーアがここまで強くなったのか。それを怪しまれないためには一度しっかりと腹を割って話す必要があると考えたからだ。


 イナリはゴウクのことを信用している。

 人が居ない場所であれば、情報を隠す必要はない。

 必要な情報を与えれば、きっとゴウクはそれを上手く使ってくれるだろう。


「なるほどな……魔族、それも極めて強力な個体とは……」


 ゴウクは陣幕の中に響くほどのうなり声を上げた。

 彼としても当然、イナリが通常ではない方法で強くなったことには想像がついていた。


 けれどイナリからもたらされた情報は、幾度もの防衛戦争に尽力し、魔境の主であるドラゴンとも渡り合ったことのあるゴウクですら、及びもつかぬものである。


 魔族に関して、人間が持つ情報は少ない。

 強さにも程度の違いがあることや、人の姿に擬態することができる点など、幾度かの勇者と魔王の攻防により基本的な情報は手に入ってはいたものの、彼らの中でも有力者――イナリが上位魔族と呼ぶ個体――の情報は、ほとんどといっていいほどに手に入っていなかった。

 有史以来ごく稀に倒すことが現れはしたことはあったものの、ある者はどれだけの攻撃を浴びせても殺すことができなかったり、またある者は無限に近い魔力を使い国そのものを滅ぼしたりと、逸話で語られはしてもその力は謎に包まれている部分が多かった。


 特に彼らが邪神へ誓いを果たすことによって得られる邪法による力――誓約ゲッシュなど、辺境伯家の当主であるゴウクですら知らぬことである。


 だがだからこそ信じられない。

 イナリが先代聖女の助けはあったとはいえ単身でそれに挑み、実際に倒してみせたという事実が。

 いやこうして目の前にいて子細を語っている時点で、事実なのは疑いようがないのだが……それはもはや、英雄の所業である。


 話を聞いているうちに、ゴウクの目の前の息子への評価は更に上がっていった。

 今はまだ開花しきってはいないかもしれないが、その才能が真の意味で開花すれば……俺の息子は本当に、世界を変える英雄になるかもしれない。

 そんな親馬鹿みたいなことを大真面目に考えてしまうくらいには、ゴウクのイナリへの評価はストップ高であった。


「――というわけで、僕が得られた情報は大体こんなものですかね」


「こんなもの……で済ませていいレベルを超えているぞ、これは……」


 更にイナリは自身で倒したカーマインとラガヴーリンだけではなく、その他の上位魔族に関する情報もいくつも手に入れることに成功していた。

 特に彼がもたらした上位魔族の誓約など、正に値千金。

 これがあれば彼らの戦闘能力から戦い方、弱点に至るまでほとんど丸裸も同然だ。

 この情報があるのとないのとでは、冗談抜きで人間側と魔族側の優位がひっくり返り兼ねないほどのインパクトがあるだろう。


「一体お前は、どうやってこれを……?」


「そこはまあ、企業秘密ということで」


 イナリはそう言うと、ちらりとローズの方を見た。

 二人の視線が重なる。

 けれど意味ありげな視線の交差はすぐに終わり、イナリは改めてゴウクの方に向き直った。

「この情報をどうやって扱うんかは、父さんに一任します」


「……いいのか?」


 上位魔族の情報は間違いなく、多くの人間が目の色を変えて欲しがるような代物だ。

 魔族の絶滅を訴える神聖教の枢機卿達や、実力と共に野心を持つ英雄志願者達……この情報を使えば有力者や実力者達相手にどれだけの譲歩を引き出すことができるか。

 けれどイナリはそれをなんとも思っていないかのように、ひらひらと軽く手を振った。


「ええ、そもそも僕がゆうたところで信じてもらえるかも怪しいですし。こんなことを大真面目に説明しても、信じてくれるのも父さんくらいでしょうしね」


「それは……」


 たしかに、イナリの言っていることももっともであった。

 この情報を出したところで、信憑性を疑われるのは間違いない。

 ゴウクという立場のある人間が出す形を取らなければ、これを十全に活かすのは難しいだろう。


「父さんの方が色々と使い出があるでしょう、精々役立ててくださいな」


「……大きな貸しが、一つできてしまったな」


「嫌やなぁ、家族の間に貸し借りはなしですよ。それ言うたら、僕の方が色々もらいすぎです」


 その後は二三会話を交わし、イナリの情報共有に関しては終わらせることにした。

 家族の仲を温めるのも悪くはないが、ここはあくまでも魔境の中にある陣中だ。

 ゴウクもそして強くなるためにここにやってきたイナリ達も、ただここで話をするためにやってきたわけではない。


「さて、それなら早速軍議を始めよう。お前らも参加するだろう?」


「もちろんです、役立たずにはなりませんよ」


「う、うちも頑張ります!」


「ふっ、頼もしい限りだ」


 こうしてイナリ達によって中断された会議が再び再開され、今回ゴウク達がタリバーディン湿地帯へとやってきたその理由――魔物の大量発生に関する対策会議に、イナリ達も参加することになるのであった……。

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