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見違えた


 時はイナリ達がカーマイン達上位魔族討伐を終え、領都カノスケを出発する直前にまで遡る。


「それでイナリ様、目的地は特に変更しなくてよろしいんですか?」


 どこか達観した様子でそう尋ねるのは、以前と比べると目がキマっているマクリーアだ。


 カーマインの誓約ゲッシュを崩すためにキルケランの街をひたすら走り回っていた疲れがまだ完全に取れていない……というのもあるが、彼女はこれからの自分の身の振り方を思い、深く考えることをやめていたのだ。


 何せマクリーアのレベルはイナリ達の上位魔族討伐に貢献したことでとてつもないところまで上がっている。


 このような状況では物足りなさを感じていたアラヒー高原の狩りがもはや狩りでもなく、手慰みになってしまうことは火を見るよりも明らか。


 結果彼女は、イナリ達と行動を共にすることを選んでいた。

 悟ったような態度を見せてはいるものの、彼女はイナリ達のことを戦友とも思っている。

 結果として見捨てられない、人情に篤いところもあるのだ。


「ローズさんがいるなら、選択肢も広がりそうですけど」

 

 エイジャには四つの魔境が存在している。

 まず一つ目が、休学したイナリが最初に向かいレベルを上げたアラヒー高原。


 そして残る三つが鬼哭街、カルヴァドス大樹林、タリバーディン湿地帯だ。


 この三つはアラヒー高原と比べれば出現する魔物達も強力であり、この魔境からやってくる魔物を抑えるためにサイオンジ家の領兵達は日夜魔物達としのぎを削り合っている。


「うーん、たしかにそうなんやけど……やっぱり当初の予定通り、タリバーディン湿地帯から行こう思っとるよ」


 ミヤビの答えにイナリはそう答える。

 タリバーディン湿地帯の討伐推奨レベルはおよそ四十。


 上位魔族の討伐を乗り越えることでイナリとローズのレベルは既に六十六を超えている彼らからすれば少し、というか大分ゆとりのある選択だ。

 彼がこの魔境を選んだのには、もちろん理由がある。


「すみません、うちのせいで兄ぃ達に迷惑を……」


 それは病気を治し病み上がりのばかりのミヤビのことを考えてのことだった。

 ミヤビのレベルは未だ二十八。


 持ち前のユニークスキルの力を加味しても最も難易度の高い魔境、鬼哭街へと乗り込むのにはいささか心許ない。


「いやいやええんよ、幸いまだ時間はあるしね」


「兄ぃ……」


 頭を撫でられごろごろと喉を鳴らすミヤビをなだめながら、イナリは頭を回す。

 もちろんミヤビのことを考えてと言う理由も大きいが、当然タリバーディン湿地帯を選んだのには他にも理由がある。


 そう、ゲーム開始時点まではまだ一年半以上の時間が残っている。


 命がけではあったが、イナリは既に自分がその地点で目指すべきであったレベルへと既に到達したことで、スケジュール的には大分ゆとりができた。


 だがもちろんこの時間を無為に過ごすつもりはない。

 ゲームクリア時点での勇者並みにレベルが上がっている今、イナリは魔族との連戦によっておざなりになっていた部分を補っていくつもりであった。


 つまりは自身のレベル上げ以外の部分……魔剣の使い方への習熟と、今後来るべき戦いに備えるための自身のパーティーの戦力の底上げ。

 そして――ゲームでは使用していたにもかかわらず未だ習得に至っていない自身の固有技の習得。


 そのために必要なものは、タリバーディン湿地帯にあるとイナリは確信していた。


 彼がそう思ったのは、一体なぜか。

 その理由は二つ。


 まず一つ目は、ここ最近魔物の出現頻度が上がっているあおりを受けることで現在タリバーディン湿地帯には、直轄の精鋭部隊を率いるゴウクが直接赴いていること。


 そしてもう一つは、タリバーディン湿地帯の最奥には、未だゴウクですら倒すことができていない規格外が存在していることだ。

 リザードマンや蜥蜴型魔物達を統べる魔境の王――アースドラゴン。


 ミヤビのレベルを上げながら魔剣や固有技への習熟を深めたら、現地にいるゴウク達と共にアースドラゴンを討伐する。

 それがイナリの目的だった。


(まあ、それに……)


 今まで色々迷惑をかけてきた父に、成長した自分の姿を見せたい。


 そんな少々子供じみた気持ちもあったりするのだが……他人に弱みを見せたら負けだと思っているイナリはそんな内心をおくびにも出すことなく、馬車を出発させた。


 そして彼らはタリバーディン湿地帯に到着し、既に陣幕を張っていたゴウクと合流する。

 その時のゴウクの第一声が、


「……見違えたな」


 であったことにイナリはたしかな満足を覚えるのだが……薄笑いをその顔に貼り付けている彼はその内心を誰に気取られることもなく、そのまま魔物の討伐に向けての話し合いを始めるのだった――。

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