エピローグ
一年生の入学式の前日に復学が認められたイナリは、改めて王立学院の一年生として学生生活を始めることになった。
そしてイナリが待ち合わせ場所でミヤビを待っていると、早速男子生徒からナンパされている彼女を発見。
その男子生徒がかなり周囲に迷惑をかけている貴族家のぼんくら息子であるということを知れば、自分が一体どこの誰に手を出そうとしているのかをしっかりと身体に教え込んでやろうということになるのは極めて自然の流れだった。
人を集めて皆の前で大恥の一つでも晒してやれば悪さをすることもなかろうと、修練場で大々的に戦いを行うことになり。
やれ成敗をしてやろうかというところで、まさかの乱入者が割って入ってきた。
(僕としては願ったり叶ったりなんやけどね。ほんで名前はリオスのままと)
本来の『コールオブマジックナイト』であれば、イナリが平民出身の女生徒に絡んでいるところをリオスが助けるという流れで、イナリとリオスの最初の戦闘が開始される。
呪いの基本的な戦闘方法と負けイベントの示唆を行うためのこのイベントをどうやって起こしたものか、とイナリは正直悩んでいた。
わざわざリオスをつり出すために女生徒に話しかけるのも気が引けるし、かといっていきなりリオスに喧嘩をふっかけにいくのはあまりにも不自然すぎる。
なのでイナリからすれば、この流れは想定外ではあったが、正しく願ったり叶ったりな展開だった。
「話を聞かずに一方的に喧嘩ふっかけてくるなんて……覚悟はできてるんやろね?」
「弱い者いじめをするやつは許せない! だから俺が倒す!」
「話がまったく通じとらん……」
リオスが持っている一方的な正義感。
一人称で展開されるゲームだと気にならないそれが、こうして他者の視点から見てみると妙に鼻につく。
そもそも今回の私闘も穏便にことを収めながらミヤビのお願いを叶えるためにやっただけなのでどちらかと言えばイナリは正義側なのだが、事情を知らないリオスからすればイナリが弱い者いじめをする加虐趣味にでも見えているのだろう。
(まあなんにせよ……あれから二年経った訳や)
『コールオブマジックナイト』の世界が始まるより前に、イナリは今の自分にできることはほとんど全てやりきった。
既にタリバーディン湿地帯の奥地に住まうドラゴンも父のゴウクと共闘して倒すこと二成功しているし、ミヤビやローズも含めて、皆を魔王軍の四天王と戦えるくらいには鍛え上げた。
「試合、開始ッ!」
この二年間のことを追想していると、試合が始まった。
審判の声が聞こえると同時に、リオスは駆けだしている。
時速にして二十キロは出ているだろうか。
その速度は新入生としてはかなり早い部類に入るだろう。
イナリとミヤビ、そしてなぜか入学してきたローズを除いても五本の指には入るに違いない。
ただ最強クラスの魔物と戦ってきたイナリからすると、その動きはあくびが出るほどに遅かった。
「おおおおおおっっ!」
振り下ろし、切り上げ、袈裟懸け、刺突に回し斬り。
リオスが放つ攻撃の全てを、イナリは軽々と避けてみせる。
「動きが単調やね、もっと緩急をつけると敵に読まれづらくなるよ」
「ぐっ……うるさい!」
「人のアドバイスは、ちゃんと聞いとかんと伸びるもんも伸びんよ?」
「うるさい……うるさいうるさいっ!」
リオスは後ろに下がると、目を閉じて精神集中を始める。
彼の目の前に、直径二メートルほどの巨大な火炎球が出現する。
その火魔法の練度は新入生としては(以下略)。
「こんなとこで巨大な魔法を使うたら危ないよ」
修練場を燃やすわけにもいかないので、イナリは軽く前に出ると手にした木剣を振り下ろす。
するとその剣圧だけで、火炎球は霧散し散り散りになった。
「なっ……!?」
「ほんで、もうしまい?」
「ぐっ……まだまだっ!」
魔法は使っている時間がないと判断したからか、再び剣を使い攻撃に出るリオス。
けれどその動きはどこまでも単調で、フェイントの類いもほとんど使ってこない。
恐らくは、対人戦の経験がほとんどないのだろう。
イナリは現状のリオスの力を一通り確認すると、こくんと頷いて、
「うん、僕も強くなったもんやなぁ……」
と一人しみじみと呟く。
当然ながらその声は剣を振るうリオスにも聞こえており、彼は怒りから顔を真っ赤に染めていた。
自分がやってきたことは無駄ではなかった、とイナリは心の底から思う。
いずれ勇者リオスはとんでもない速度で、イナリのことを追いかけてくることになるだろう。
だがそれなら、イナリはなおもその先をゆけば済むだけの話だ。
ミヤビを助け、ローズやマクリーアと共に戦った。
そしてそれからの一年半も、そのほとんどを戦いに費やしてきた。
今まで為してきたことの全てが、イナリに自信と活力を与えてくれる。
無駄ではなかった。自分がやってきたことは、無駄ではなかったのだ。
「精進せんと、君のことどんどん置いてってまうで」
イナリの一撃が、リオスの腹をしたたかに打ち付ける。
気絶する程度に威力を調節したはずなのだが、リオスはそれでもまだ意識を保っていた。
流石勇者と言うべきか、既に戦いの中ですら成長をしているらしい。
「お前は一体……誰なんだ?」
意識を朦朧とさせながらも、リオスはジッとイナリのことを見つめている。
それになんと答えるべきか少し迷ってから、イナリは彼にこう告げた。
「僕は……イナリ・サイオンジ。今も、そしてこれから先の未来でも……君のことを、圧倒する男やで」
「イ……ナリ……(がくっ)」
そのまま意識を失ったリオスが、救護班に運ばれて保健室へと向かう。
それと入れ替わりでやってきたミヤビが、リオスのことを眉をしかめながら見つめる。
「この人……なんてはた迷惑な人なんでしょうか。勘違いして兄ぃのことを悪者みたいに……」
ぷりぷりと頬を膨らませるミヤビの頭を軽く撫でてやる。
ミヤビは目を細めてリラックスすると、猫のように喉を鳴らしてみせた。
「まあ実際、僕はどちらかと言えば悪者寄りやからね」
「そんな、兄ぃはどっからどう見ても正義の味方やないですか!」
どうやらかなり色眼鏡なフィルターがかかっているらしいミヤビに苦笑しながら、彼女と共に校舎へと歩き出す。
これから始まる学院生活。
そして待ち受けるであろう魔王軍との戦い。
その全てを己の糧として……イナリは前に進み続ける。
今後も続くであろうリオスとの因縁を乗り越え、最後の最後まで笑い続けるために。
これからも、かませ犬なんてまっぴらごめんなエセ関西弁は、真っ向勝負で主人公を叩き潰すようです――。
読んでくださりありがとうございます!
これにて第一部は終了となります。
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