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エイジャ

ここからが新展開です!


 ウェルドナ王国の王都から東に進みいくつもの領地と峡谷を抜けていくと、その先にはサイオンジ家の所領であるエイジャ地方がある。


 比較的最近王国に併呑され訛りが強く、独自の食文化が発達していることなどでも有名だが……やはりこの地域で最も特筆すべきは、その東端を数多くの魔物の棲む領域――魔境と接しているところだろう。


 エイジャはいくつもの魔境に面しており、辺境伯であるゴウクはその武力のほとんど全てを東側に回している。


 鬼達の帝国があると噂されている鬼哭街。

 山火事が起ころうが次の日には木々が再生しているカルヴァドス大樹林。

 リザードマン達が闊歩し、最深部にはドラゴンが住まうというタリバーディン湿地帯。

 そして最も危険度が低くその間引きを冒険者達に任せているというアラヒー広原。


 四つの魔境からやってくる大量の魔物達を退けるため、ゴウク本人が最前線に立ち戦い続けているというのは、王国の人間であれば誰でも知っている話だ。


 戦力を領境に貼り付けて平気なのかと尋ねる者も多いが、それでもエイジャの治安が悪化することはない。

 何せサイオンジ家の誇る東部辺境騎士団は、一騎当千の化け物揃い。

 彼らが定期的に盗賊を見せしめがてら皆殺しにするため、エイジャの治安はむしろ他の地方と比べても良好だ。

 サイオンジ家の武威は、無法者達の間にまで鳴り響いているのである……。





「ふわぁ~」


 大きなあくびをしながら外を眺めるイナリを乗せた馬車は、何一つ問題を起こすことなく無事エイジャへと辿り着いた。

 今は目的地のとある魔境へ向かい、馬車を飛ばしている最中である。


 道中ひたすら魔物と戦おうかとも思ったが、下手に時間を取られエイジャにつくのが遅れては本末転倒なため、最低限必要なものを除いて極力戦闘は避け、残る時間はひたすら己のユニークスキルと向き合うことに時間を費やしていた。

 半月もの間暇さえあれば魔剣を振っていたため、炎の魔剣のレベルは王都に居た頃より更に一つ上がっている。


(まあ無意味ではないんやけど……やっぱり効率悪いなぁ……)


 王都で二週間ほど金に飽かせて大量の素材を買い込み、この暇な二週間で色々と試したこともあり、魔剣創造の仕様もある程度把握が進んでいる。


「魔剣創造」


 イナリが口ずさむと、目の前にホログラムが浮かび上がった。



炎の魔剣 レベル5

水の魔剣 レベル3

光の魔剣 レベル2

闇の魔剣 レベル2



 記憶を取り戻してからの一月ほどで、光の魔剣を除く三種の魔剣のレベルが上がっている。 光の魔剣だけが例外なのは、この魔剣だけはどんな魔物素材も吸い込まなかったからだ。

 恐らくは天使系の魔物などの素材を吸わせるか、回復が反転するアンデッドや悪魔系の魔物相手を斬りつける形でレベルを上げていくのだろう。


 王都では上がらなかった闇の魔剣のレベルが上がっているのは、道中適当に色んな素材を試しているうちに見事当たりを引き当てたからだった。

 闇の魔剣に吸わせることができるのは、魔物に存在する魔力が結晶化することで生まれる魔石だった。

 魔石はイナリにとって魔道具のためのエネルギー源でしかなかったため、魔物から出てくるということすら忘れており、完全に盲点だったのだ。


 それ以外にもイナリがした新たな発見はいくつもある。

 移動の時間のほとんどで魔剣と向き合ったおかげで、熟練度を獲得したりそれぞれの魔剣が経験値を獲得した時に、なんとなくそれを感覚的に理解することができるようになったのだ。


 おかげで魔物素材には吸収効率が存在していることと、魔剣を実戦で使った方が魔剣のレベルが上がってくれるという新たな二つの発見をすることができた。


 吸収する素材は、買った物をそのまま使う場合と自分が屠った魔物の素材を使うのとで、吸収効率が大きく違うことがわかったのだ。

 イナリの感覚値だが、前者と後者では、1:200以上に差が開いている。


 買ってひたすら素材を吸わせていくというのもまったく無駄というわけではないが、イナリが自分で倒した魔物の素材を吸わせるとすぐにレベルが上がったことから考えれば、下手に素材を買いあさるより戦って魔物素材を自分で獲得した方がよっぽど効率が良さそうだった。


 そして二点目、魔剣のレベルは魔剣を使って素振りをしたりアクティブスキルを使ったり、魔法の訓練をしたりするだけだと、非常に経験値が上がりづらい。

 魔剣を生み出し使う度にスキルである魔剣創造の熟練度自体は上がっている感覚があるものの、それぞれの魔剣に対する経験値はほとんど振られないことがわかったのだ。


 では何をした時に最も経験値が獲得できたのかというと、それは魔剣を使って実際に戦った時であった。


(つまりは魔剣で戦って、その素材を吸わせるのが一番ええっちゅうこっちゃ)


 強力な魔物と魔剣を使って戦うことで己の魔剣のレベルを上げ、その素材を吸収させ最高効率で経験値を溜めていく。

 自身で想定していた方法が最も効率が良さそうだと確信できたことを考えれば、この馬車旅も無駄ではなかったと言えるだろう。


「ふわぁ……しっかし、早くつかんものかなぁ……」


 その後は魔剣創造の熟練度上げに邁進していたイナリは、それから十日ほどの時間をかけてようやく目的地へと辿り着く。

 イナリがやってきた場所は――四つある魔境のうち上から最も危険度の低い、アラヒー広原だった。


 プライドの高い彼が、なぜ最も危険度の低いアラヒー広原にやってきたのか。

 その理由を知るためには、王都で父であるゴウクから別れ際に告げられたある言葉にあった――。

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