二度、三度
イナリはカーマインが一度復活してからも、手を変え品を変え攻撃を加え続ける。
彼が持つアクティブスキルであるサーマルブリーダーは、時間が経過する度に火属性攻撃の威力を上げていくというもの。
これと各種火属性のアクティブスキルを組み合わせることで、彼の攻撃力は飛躍的に上昇する。
雷の魔剣で邸宅を壊してしまったので、もはや邸宅自体を燃やすことにも躊躇はない。
彼は火の魔剣と相似の魔剣を使いその相乗効果で火力を増やし続ける。
現状イナリの最も火力が出る技はサーマルブリーダーの効果が最大限に乗った状態で放つ大技のイグニッションバーストなのだが、あれは魔力量に余裕があるイナリからしてもかなり燃費が悪い技だ。
ここぞというタイミングで使わないとその隙をつかれかねない。
「ちっ、相変わらず、素早いねッ!」
血操術を使い血を自在に操るカーマインの攻撃は、イナリが習っていた剣術では対処できないことも多い。
そしてイナリはその対処の度にスキルの使用を必要とする。
だがそれでも二度目の戦いも、終始イナリの優勢に進んでいった。
彼は幾合もの斬り合いの末に、再びカーマインを切り伏せることに成功する。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
ただ吸精鬼との戦いは体力を想像以上に消耗する。
何しろ相手がこちらに攻撃を加えるだけで体力が回復してしまう。
攻撃をもらわぬよう細心の注意を払い続けるには、かなりの集中力が必要だった。
イナリに切り伏せられ血の海に溺れるカーマイン。
彼が最後にかひゅっと喉を鳴らすと……再び黒い光が、彼の身体を包み込む。
そして光が収まれば、またしてもそこには完全回復したカーマインが現れる。
「これで二度目か……なかなかやるね、君も。ここまでやられたのは、百年以上も昔のことだった気がするよ」
カーマインの言葉を聞かず、イナリはゆっくりと深呼吸を繰り返した。
呼吸を落ち着け、全身に魔力を行き渡らせる。
イナリは身体強化を使えるわけではなかったが、それでもゴウクに仕込んでもらったおかげである程度体内の魔力を操ることはできる。
損傷している部位に優先的に魔力を回し、修復を急がせる。
今の彼にとっては、光の魔剣を使い回復する魔力すら惜しい。
応急処置にしかならないが、それでもやらないより幾分かマシだ。
「ははっ、楽しませてくれよッ!」
三度目の戦闘が始まる。
イナリは既にトップスピードを維持することが難しくなっており、時折ひやりとさせる瞬間が多くなってきた。
「光あれ」
けれど戦いの速度が落ちたことで、今までは見に徹するしかなかったローズも戦闘に参加することができるようになる。
ローズが生み出す結界に守られながら戦い、イナリは無事にカーマインを三度倒すことに成功する。
「ふぅ、これで三回……自己ベストタイだ。君は紛れもない英雄だよ、誇っていい」
そして四度目の戦いが始まる。
イナリは速度ではなく技術でカーマイン相手に拮抗し、ローズがそれを支援する形で戦いを優位に進めていく。
四度目の復活が終わり始まった五度目の戦い。
「ぐ……はあっ、はあっ……」
一番最初に限界を迎えたのは、イナリではなくローズの方だった。
彼女はカーマインの攻撃すら通さぬだけの圧倒的な防御力を持つが、その分使う魔法の魔力消費量も多い。
ローズが魔力消費量から、ホーリーゴッデスの内側で膝をつく。
それを見たカーマインが、こらえきれぬといった様子で笑い出す。
「四回、四回だ……君達は本当に良くやったよ。ここまで僕を追い詰めた人間は今まで一人もいなかった。流石だよ、いや本当に。基本的に人間はカスしかいないが、なかなかどうして見事としかいいようがない」
彼は幼子を褒めるかのようにパチパチと手を叩く。
それを見てローズが、苦み走った顔をする。
「すみません、イナリさん……」
「ん、ま良くやった方やろ。後は自分の身を守るのに注力し」
ローズが戦線を離脱し、再びイナリとカーマインの戦いが始まる。
幾度も剣を交えたことで、既にカーマインもイナリの剣技を理解し始めていた。
イナリにも攻撃が当たるようになり、それだけカーマインもドレインタッチを使用することができるようになる。
生まれる傷は癒えていき、戦いの時間は伸び、イナリにも徐々に傷が増え始めていく。
彼はなりふり構わず光の魔剣を使いながら、なんとかして時間稼ぎに徹していた。
「ほらほら、ただ逃げ回るだけでいいのかい!」
カーマインの放たれる血の並が、千の杭へと変化しイナリ目掛けて発射される。
その全てを防ぐことを諦めたイナリは身をかがめながらバリアソードを発動させ、間にクッションを置いた。
物陰に隠れヒールソードを発動してから、再度カーマインへと斬りかかる。
既に半壊している邸宅の中で、一進一退の攻防が続いていく。
「くくく……やはり人間は脆いなぁ。戦ったばかりの時はあれだけ圧倒していたというのに、もう僕の方が強くなってしまっている」
カーマインは血剣を振るうと、イナリの胸が浅く裂けた。
既に再度自分を倒すことは難しい。
それがわかっているはずなのに、イナリは決してその瞳から希望の光を失っていない。
そのことに若干の違和感を感じながらも、カーマインはそのまま攻防を続ける。
彼は手加減することなくイナリに攻撃を加え続け……イナリの全身に生傷が膿まれていった。
ガクッと膝をつくイナリの隙を突くべく、カーマインがその周囲に血の針をぐるりと巡らせる。
「くふふ……これで、終わり――っっっ!?」
腕を振り下ろそうとしたその刹那――ドクンッ!
カーマインの心臓に突如として大きな衝撃がやってくる。
今まで感じたことのない痛みに、彼は思わず胸をかきむしった。
口からは血がこぼれ、思わず地面に倒れ込む。
血針を維持することができず、どろりと血に戻っていく。
満身創痍でボロボロのイナリは、それでもフッと笑い、身体を震わせながらゆっくりと立ち上がった。
「どうやら……マクリーアがやってくれたみたいやね。誓約が破られて残機がなくなった気分はどないや、カーマイン」




