最後に立つ者
「くくく……あーっはっはっは!」
目の前にいる少年の顔から笑みが消える様を見たカーマインが大きな声で笑う。
そうだ、それが見たかった。
彼の顔は愉悦に歪み、魔族らしいいやららしい笑みを浮かべていた。
「一度倒せばそれで終わると思ったかい? ……残念だったね、僕達上位魔族はそう簡単にやられるほど柔な存在じゃないのさ」
カーマインの直接的な戦闘能力は、同じ上位魔族のそれと比べるとさほど高いわけではない。
けれど彼は吸精鬼というただでさえ不死性の高い種族でありながら、その性質に合った強力な誓約まで持っている。
その不死性を鑑みれば、上位魔族の中でも屈指の戦闘能力を持っているというのが、カーマインの自己評価であった。
「もう何百年も生きて生に倦むことも多い僕の楽しみがなんだかわかるかい? それはね……君みたいに自分に自信のあるやつの鼻っ柱をへし折ってやることなんだよ!」
今までカーマインは名の通った豪傑や俗に英雄と呼ばれる者達まで、実に沢山の強者と戦ってきた。
彼が今もなおこの場に立ち続けているということは、彼がその戦いの全てに勝ってきたことの証。
「さあ、君は一体どこまでもつかな? ちなみに今までの最高は三回だ、できればそれを超えてくれるとこちらとしてもやりがいがあるよ」
カーマインがにやりと笑いながら告げる。
彼が打ち倒されたことは、一度や二度ではない。
中には目の前にいるイナリのように、自分を倒してくる猛者もいた。
けれどいつも最後に立っているのは、カーマインだった。
それほどまでに彼の誓約は強力なのだ。
今回キルケランの陥落の際に共に戦った上位魔族も、彼と共闘しているわけではない。
ただ彼が己の力を使い彼を屈服させ、従っているに過ぎない。
自分にはどんな強者をも屈服させることができる力がある。
その全能感に酔いしれながら、カーマインはこちらに飛び降りてきたイナリのことを見上げた。
カーマインは自身が復活した瞬間の相手の顔を見るのが大好きだった。
苦戦しながらなんとかして倒してやったという達成感を感じている相手の目の前で、全快することで教えてやるのだ。
お前が今まで自分がしてきたことは無駄で、何の意味もないことであったと。
その瞬間に相手が浮かべる絶望の表情は、切り取ってコレクションしたいほどに面白いものばかりだった。
目の前のイナリが浮かべるのは、自分が攻撃に意味がなかったことを悟る諦観の表情だろうか。
それでも今まで一方的に勝ってきた自分がとうとう敗者の側へ回ることへの焦燥の表情だろうか。
心を弾ませながらゆっくりとその顔を覗こうとすると……
「アクセルソード、サーマルブリーダー」
イナリはそのままカーマインに剣を突き込んできた。
神聖な白い光を宿す白の剣と、メラメラと燃える炎を宿す紅の剣。
油断していたカーマインの身体から、再び鮮血が散った。
炎を反射しオレンジ色に光っているイナリの顔に浮かんでいるのは……先ほどまでと一切変わらぬニヤケ面だった。
「隙だらけやったから、もう一回殺せると思たんやけどなぁ。不死身なら黙っても一回やられてくれん?」
「君は本当に……こちらの神経を逆撫でさせるのが上手いね」




