上位魔族
放電した雷はカーマイン目掛けて一直線に向かっていく。
そしてその身体を貫通し、勢いそのまま天井へと抜けていった。
木材の破砕音と共に屋敷がぐらりと揺れ、景色が一変する。
屋根が吹っ飛び、冷たい空気が一気に室内へと入ってきた。
月明かりが室内を照らし、攻撃の成果に明らかにしてみせる。
当然ながらカーマインは、イナリの一撃を食らってもその場に立ち続けていた。
「げほっ、ごほっ……なかなかやるじゃないか」
ただそれでも、無傷というわけではない。
イナリが放つ一撃は彼に着実に通だを与えており、その服だけではなく肉体にもしっかりとがダメージが通っていた。
大量の魔族を狩ったことで、既にイナリとローズのレベルは六十四にまで上がっている。
これは人類で言えば英雄クラスであり、『コールオブマジックナイト』においては終盤戦に入るくらいの実力になる。
勇者リオスがこのレベル帯で然るべき四人パーティーを組めば、上手くやれれば魔王ですら倒せるだろう。
上位魔族とも張り合えるだけの力を手に入れていたイナリは既に、自らが目指している最強へとその足を踏み入れていた。
レベルは手に入れた。
渡り合うために必要な力も手に入れた。
だから今の彼に必要なのは実戦と、そして勝利であった。
炎の魔剣 レベル11
ファイアスラッシュ ファイアスラスト フレイムバースト ダークフレイム サーマルブリーダー イグニッションバースト カオスフレア(闇の魔剣使用時のみ) 炎熱操作 攻撃力アップ(極大)
水の魔剣 レベル8
水流操作 魔力伝達 降雨 防御力アップ(大)
光の魔剣 レベル9
ヒールソード ヒールスラッシュ バリアソード ヒールバースト アクセルソード サンクチュアリソード 回復量アップ(特大)
闇の魔剣 レベル10
ダークネスフォグ サモンダークナイト ダークヒール(光の魔剣使用時のみ) シャドウダイブ カースソード 隠密(特大)【使用不可】
雷の魔剣 レベル8
ライトニングソード アクセル サンダーキーン ライトニングボルテクス パラライズソード エレクトリックブラスト エレクトリックディヴィジョン ジャッジメントサンダー プラズマショット 素早さアップ(特大)
相似の魔剣 レベルなし
魔剣相似 魔剣相克
現在のイナリの各種魔剣は、既にかなりのレベルに達している。
最も使うことの多い雷の魔剣を始めとして使える技も増え、炎の魔剣に乗るパッシブの効果はパッシブスキル内で最大の極大にまで上がっている。
今のイナリの攻撃は、たとえ上位魔族たるカーマインであっても容易く防げるものではない。
「――シッ!」
イナリが正眼に構えた剣を振ると、カーマインの肉体に赤い線が走った。
剣を構え、そして振るう。
彼が一呼吸の間に放つ技により、カーマインの身体には十を超える傷がついていく。
カーマインは手に得物を何一つ持っていない。
その魔族由来の超速の身体能力を使い攻撃を躱そうとするが、彼が動いた時には既にイナリは攻撃のモーションを終えており、新たに血が飛び散る。
イナリが持つ素早さは、既に上位魔族すらも翻弄できるほどにまで達しているのだ。
「ほぅ……早いね。皆殺しにした騎士団とは比べものにならないよ」
カーマインはイナリの連撃を食らいダメージを負いながらも、まったく余裕の表情を崩さない。
イナリは彼の話に付き合おうとはせず、ただ剣を振るい続けた。
(うん、今の僕なら、純粋な戦闘能力だけでも届くみたいやね)
カーマインは攻撃を食らいながらでも、そのままその手を伸ばしてイナリに掴みかかろうとする。
吸精鬼という種族自体が持つ固有スキルであるドレインタッチを発動させるための動きだ。 イナリはそれを着実に避け、更に前に伸ばしてきた腕を切り刻む。
「……僕の力を知っているのかい?」
「なんのことかわからんなぁ?」
「白々しい態度だなぁ」
吸精鬼は相手に触れることで、そのMPとHPを吸収することができる。
故に雑兵をどれだけ並べても意味がなく、最低でもドレインタッチを避けられる者が戦わなければただの回復アイテムとして殺されてしまう。
強力な回復手段を持つ吸精鬼と戦う場合は極めて長期戦になることが多く、しかも長引けば長引くだけこちらの陣営が不利になっていく、極めて凶悪なモンスターだった。
「風情がないなぁ……戦いの間の会話を楽しむという発想はないのかい?」
「エイジャ人はせっかちなんよ!」
カーマインは口から血を吐きながらも笑い、アクティブスキルを発動させる。
彼がスキルを発動させると同時、彼の全身から流れ出す血が、生き物のように踊り出した。
彼の種族は、吸血鬼の上位種である吸精鬼。
故に当然ながら、吸血鬼が持つスキルも使用することが可能だった。
吸血鬼は得物を持たず、己の血を自在に操って戦う。
血操術と呼ばれる吸血鬼という種が持つ固有スキル。
周囲に散らばった血が浮かび上がり、千の刃となってイナリへと襲いかかる。
イナリがそれらの攻撃をたたき落とした時には、既にカーマインは自身から流れ出す血を一本の刃に変えて肉薄していた。
全ての攻撃をたたき落としながらでは、対処はできない。
けれどそれで問題はなかった。
なぜなら今のイナリは、一人ではないのだから。
「光、あれ」
ガキィンッ!
カーマインが放った一撃は、虚空より現れた白銀の女神によって防がれる。
攻撃を受けてもヒビ一つ入らぬその盾は、アイギスシールドの上位魔法である最上位魔法、ホーリーゴッテス。
最初は詠唱破棄をして魔法名を唱えねば発動できなかったこの技も、今では祈祷による詠唱省略により即時の発動が可能となっていた。
「聖女風情が……僕の一撃を、受け止めるだと?」
「これが人間の強さですよ、カーマイン。たとえ立ち止まっても、私は前へと進みます。私は――もう迷わないっ!」




