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遠慮なく


 伯爵の執務室へ入ると、誂えられたのだろう大きな革張りの椅子に一体の魔物が座っていた。


 上位魔族たるカーマインの姿は、イナリがゲームで知っているそれとまったく同じであった。

 額から生える一本の蒼い角に、唇を切るのではないかと思ってしまうほどに突き出た犬歯。 整った容姿の肌は青白く、血管がまったく見えない蒼白の肌は病的な美しさを持っている。

「どうやら散々派手に暴れ回ってくれたみたいだね、人間」


 言葉に含まれた険のわりに、彼は声色にはまったく棘がない。

 カーマインは基本的にナルシストで、何よりも誰よりも自分のことが好きな魔族だ。

 彼からすれば配下がどれだけ死のうが、知ったことではないのだろう。


「うん、これだけやれば出てくるかなぁ思たんやけど、君全然出てこぉへんのやもん」


「僕より弱い魔族達がどれだけいなくなっても、どうでもいいからね」


「薄情なことで」


「魔族を鏖殺している君に言われたくないな」


 カーマインは首を軽く動かすと、その切れ長の瞳をイナリの後ろへと向けた。


「久しぶりだね、聖女サマ」


「ええ、本当に」


 カーマインの流し目を見ても、ローズは顔色一つ変えなかった。

 その様子を見て眉間に皺を寄せるのは、カーマインの方だ。


 彼からすると聖女は、味方を皆殺しにされながら惨めにも生き残った敗残者であった。

 けれど今の彼女はどうか。

 その瞳には強い力が宿っている。

 当初想定していた憎悪の炎はそこになく、ただ聖女としての鮮烈な意志だけがそこにあった。


「なるほど、どうやらずいぶんと成長したらしい……それをしたのは君なのかな、イナリくん?」


「僕はなんもしてないけどね」


「聖女もありがとう、彼を連れてきてくれて。ああ、久しぶりに食べ応えのありそうな人間だ……僕はこれを待っていたんだ。弱い魔族や眷属ならまた数を揃えればいいが、僕が糧にできるほどの強者というのは世界中を探してもなかなか見つかるものじゃない」


 カーマインはイナリを見ながら、じゅるりと舌なめずりをする。

 端麗な顔がいやらしく歪み、彼がイナリへと向ける視線は間違いなく捕食者としてのそれだった。


 彼は人間のことを、家畜か何かとしか思っていない。

 けれどそれを見てもイナリの態度は変わらない。


 彼がここですべきなのは、カーマインを倒すこと。

 相手が油断してくれているのなら、それだけ自分につける隙が増えるだけだ。


「そしたら……やろか」


 イナリの手に魔剣が握られ、ローズは両手を組みながら神へと祈る。

 それを見たカーマインはただ何をするでもなく、両腕を広げてみせた。


「ああ、好きなだけ攻撃してくるといい。生物としての圧倒的な格の差を教えてあげよう」


「よし、ほんなら遠慮なく」


 瞬間、イナリの身体がブレる。

 彼の身体は先ほどまでイナリの居た場所を見つめるカーマインの背後に出現した。

 転身、そして切り返し。

 瞬きよりも早い間に放たれるのは、彼がここに至るまでに身につけてきた技術と力、その全ての結晶。


「雷の魔剣、プラス相似の魔剣……エレクトリックブラスト」


 瞬間、邸宅を貫く雷光が周囲一帯を白に染めた――。

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