三階
イナリは既に魔物狩りを終える中で、自身の戦い方を再構成することができていた。
彼は即座に意識を切り替えると、魔剣創造を発動。
その手には闇の魔剣と炎の魔剣が握られている。
発動させる技は複合魔剣により発動が可能な技であったダークフレイム……ではない。
中位魔族達との戦闘を経ることで、彼のスキルは更なる強化を遂げている。
「カオスフレア」
イナリの魔剣を中心として黒い炎が渦を巻き……そして弾ける。
耳をつんざくほどの爆発。
巨大な黒炎が千々に乱れ飛ぶ。
それは宙に浮かぶ魔族に、イナリに向かってこようとしている魔族、そして彼に向けて魔法を放とうとしている魔族へと、その全てに等しく降りかかっていった。
「「「ぎぃやあああああっっ!!」」」
複合魔剣技、カオスフレア。
イナリの魔剣のレベルが十一に上がったことで手に入れることができた新たなスキルである。
ダークフレイムよりも更に火力を上げ、全体攻撃へと昇華した黒炎は眷属達を一瞬のうちに黒焦げの死体へと変えていく。
「怯むな、ダメージ自体は大したことはない!」
「あの人間を、殺せっ!」
下位魔族達は一撃で倒せるほどではないが、甚大なダメージを受けてその場に留まっていた。けれど中位魔族からの発奮を受け、イナリの方へと向かってくる。
中位魔族の方はダメージは食らっているようだが、まだピンピンと動いているようだ。
全体技は等しくダメージを与えることができるかわりに、どうしても威力が分散してしまう。
けれど今のイナリであれば、その弱点すらカバーすることが可能だ。
「エレクトリックディヴィジョン」
彼は気付けば、その手に雷の魔剣を握っていた。
発動させるアクティブスキルは、雷属性のエレクトリックディヴィジョン。
自身が指定したエリアそのものに雷属性を付与する能力を持つ。
イナリが指定したエリアに入ってきた魔族達は、ビクンと身体を揺らし一瞬のスタン状態になる。
そして今のイナリの目の前で隙を作ることは、あまりにも致命的であった。
「うん、やっぱり全体技があると大分やりやすいなぁ」
イナリが雷を纏わせた剣を振るえば、魔族の首が飛んでいく。
下位魔族は一撃で即死し、中位魔族も意識の空白の間に連撃を叩き込まれて死んでいく。
魔族との戦闘は、魔剣を使った戦闘と魔物の素材で二重にレベル上げができるイナリにとって、あまりにも実りが多い。
彼は魔族と戦う度に己のレベルか魔剣のレベルのどちらかはほとんど必ずといっていいほどに上げていた。
おかげで既に全ての魔剣のレベルが十を超えており、全体技だけではなく更に強力な威力を持つ技をいくつも手に入れていた。
イナリがみるみるうちに仲間を屠っていく姿を見て、魔族達は方針を変える。
後ろにカーマインという上位魔族が控えているため、彼らに退却や逃走という思考は存在していない。
イナリが強いのならと、彼らはローズ目掛けて移動を開始した。
だがイナリについてき続けた彼女は、もはや何もできなかったあの頃の少女ではない。
彼女は聖女としての力を遺憾なく発揮できるだけの精神とレベル、そして魔法の技術を身につけている。
「ホーリーゴッテス」
ローズの全身を包むようにして現れるのは、全身から高貴なる光を発する一つの女神像であった。
まるで我が子を抱擁する母のように慈愛のある笑みを湛える女神像目掛け、魔族達の攻撃が炸裂する。
黒色の弾丸、猛る焔に鋭利な水刃……けれどその全ては、ローズの柔肌を切り裂くことは叶わない。
女神像は全ての攻撃を、己が身に纏う光のヴェールで受け止めてみせた。
ホーリーゴッテス。
光の最上位魔法であり、自身が攻撃できなくなることと引き換えに相手の全ての攻撃をシャットダウンすることのできる魔法である。
攻撃が当たらないことにムキになった魔族達が、より一層攻撃の密度を上げて魔法をなんとか破壊しようと動き出す。
けれどローズに意識を向けたその瞬間、彼らの運命は決まっていた。
「光あれ」
「ジャッジメントサンダー!」
ローズの方も新たに手に入れたスキルや魔法を使いこなし、その支援能力は更に増している。
彼女がこの場に神域を作りだし、イナリへのバフと魔族達へのデバフを同時に発動。
そのタイミングを見計らいイナリが大技を放つ。
アクティブスキル、ジャッジメントサンダー。
頭上に巨大な雷を発生させ、叩きつける大技である。
本来であれば溜めに数秒が必要な大技が出された時点で、勝負は決まっていた。
突如として現れたイナリの一撃を無防備に食らった魔族達は、たとえそれが中位の魔族であろうが関係なく大ダメージを食らう。
そして怪我を負った彼らを、イナリは淡々と処理していった。
戦闘が終息すると経験値の分配が行われ、イナリ達のレベルが上がる。
負っていたわずかな傷をいやしながらイナリは淡々と魔族達の素材を魔剣に吸わせ、魔剣をレベルアップさせていく。
ふぅ、と一息ついてから辺りの気配を窺う。
(襲ってくる気配は……ないか。ほんならカーマイン戦の後やろな)
新たに手に入ったスキルの確認も兼ねて、イナリ達は敢えて時間をかけながら屋敷の中を回り魔族の残党を狩っていく。
そして館内にいる魔族達を狩りきり、今の自分達にできることが全て終わってから、彼らはゆっくりと本丸へと向かっていった。
三階にある伯爵の本邸に向かえばそこには……
「待っていたよ、人間」
冷ややかな笑みを浮かべている上位魔族、吸精鬼のカーマインの姿があった――。




