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誤算


「ソレラの街からの連絡が途絶えた……?」


 青い肌をした上位魔族、吸精鬼のカーマインはやってきた報告に眉根を寄せる。

 ソレラの街は彼が配下達を展開させていた街の一つだ。


 キルケランの街にほど近いこともあり調略は滞りなく進んでおり、下位魔族に市長を骨抜きにさせるところまでいっていた。

 もう少ししたら大量の魔族達を街中に入れさせ、キルケランと同様に支配してしまうつもりだったのだが……


「誤報ではないんだね?」


「はっ!」


 報告にやってきた中位魔族はびくっと肩を震わせながら、報告を続ける。

 中位魔族の中では強力な部類に入る彼であっても、上位魔族と話をする際には言葉の一言一言に神経を使わねばならない。


 魔族にとって、序列の差は絶対だ。

 上位魔族にとって中位の魔族は、機嫌を一つ損なえば吹き飛ばしても構わないと思えるほどの存在に過ぎない。


「何かしらのイレギュラーが起きた……聖女、ではないな。彼女だとしたらいささか動きが早過ぎる」


 聖女ローズは、以前の報告の際にはまだソレラの街にいた。

 未だ傷心してまともに動くこともできていなかったからだ。

 正直なところ、期待外れもいいところだ。


 だが彼女が魔族達を皆殺しにしたというのはどうにも考えづらい。

 彼女自身の戦闘能力はそれほど高くはなかったし、その力自体支援向けなため、彼女に単体で魔族を相手取れるだけの力はない。


「高ランク帯の流れの冒険者でもいたのか……?」


 魔族を倒せる存在はそれほど多くない。

 もし仮にソレラの街の魔族と眷属が全滅しているとしたら、考えられる可能性はいくつかに絞られる。


 まず始めに考えられるのは、魔族達を目の敵にしている復讐者達だ。

 魔族は戯れに人を壊し、遊戯として街を盗み、時に協力して国を落とす。

 彼らに人生を壊される者達は多く、その中には魔族を殺すことだけを己の生きがいにして戦い続ける復讐者達と呼ばれる者達がいた。

 彼らは総じてレベルが高く、中にはユニークスキルを持っている者も少なくない。


 だが事前に下調べをした段階では、存在は確認できなかったはずだ。

 魔族の情報を聞きつけてやってきた可能性はあるが……それならより沢山の魔族のいるキルケランの街にやってこないのはおかしい。

 復讐者達は総じて頭のネジが飛んでいる者が多いため、彼らなら間違いなくここまでやってくるだろう。


 だからといって、流れでやってきた冒険者達や領主などの軍による介入という線も捨てきれない。

 可能性はいくつか考えられたが、こうしてキルケランの街にいるだけでは正しい情報は得られない。


「君、ソレラの街まで行ってくれないかな? 明日までには帰ってきて様子を伝えてね」


「はっ、了解致しました!」


 中位魔族はビシッと敬礼をすると、そのままソレラの街目掛けて飛んでいった。

 魔物から進化した魔族の中には飛行能力を持つ個体も多く、彼は情報集めや連絡手段として非常に便利な駒だった。

 中位魔族を当然のように顎で使ってから、彼はじっと思案に耽る。


「下手に邪魔が入るんなら……プランBに切り替えようか」


 カーマインがこのキルケランに狙いを定めたのは、もちろん故あってのことである。

 つい数年ほど前に、魔王の代替わりがあった。

 今代の魔王は外征に積極的な人物であり、人類侵略のための作戦が各地で進行中だ。


 カーマインを始めとする上位魔族達が街を落としているのもその一環で、魔王軍が進軍してきた際に拠点として使ってもらうため。

 故に彼らは人間を皆殺しにすることなく、表向きは問題ないかのように街を存続させながら、キルケランの街を実効支配している。


 食べるための家畜を丸々と太らせるように、魔王様がやってきた時に役立ててもらえるだけのものを用意しておこう。

 彼の考えとは、突き詰めればそのようなものだった。


 ただ下手に人間側の軍の介入が入り街を落とされるくらいなら、街にいる人間全体を眷属化させてしまい、王国を内側からめちゃくちゃにしてしまうという手もある。

 それをすれば少なくとも人間側では魔王軍ほど周到に準備をすることはできないだろう。


(……まあ頼みの聖女があれでは、人間側も大したことはなさそうだけど)


 カーマインは人間のことを馬鹿にしていた。

 今まで彼は同じ上位魔族を除けば、まともに危機に陥ったことはない。


 人間相手に苦戦をした経験など一度もなく、それは魔王がその存在を危険視する聖女であっても例外ではなかった。


 故に彼は想像すらしていなかった。


 ソレラの街で魔族を倒した相手が、自分の情報を詳細に知っていることを。

 そしてカーマインが侮っている聖女は既にトラウマを克服し、己の命を脅かすほどに強大な存在として成長しつつあることを――。

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