魔剣創造
魔剣創造を使い、生み出したのは炎の魔剣。
屋敷の中では使えなかったスキルの威力を早速試してみることにする。
「ファイアスラッシュ」
「あがあああっ!?」
イナリが剣を振るうと同時、斬撃が炎となって男へと飛んでいく。
飛距離はイナリが使える火魔法に若干劣る位だが、その分火力は高そうだ。
攻撃を食らった男はあっという間に火だるまになりその場に頽れる。
「なっ、なんだよこれ、一体……ぐおっ!?」
仲間がいきなり燃え出し、ようやく襲撃者の存在に気付いたらしい。
イナリはそのまま剣を振るい、もう一人を剣の柄で強かに打ち付ける。
どうやらただ剣を振るうだけでは炎は出ないようだ。
ただ剣を持ち振るうと、その瞬間少しだけ魔剣に熱がこもる。
「工夫をすれば炎も出せそうや……ねっ!」
魔法を使う時と同じ要領で魔剣に魔力を流し込むと、想像していた通りにその刀身が炎を纏った。
魔法剣はイナリでも未だ使うことができないかなりの高等技術だが、魔剣と同じ属性のものであれば問題なく纏わせることができるらしい。
試してみたが、風や水、土を纏わせることはできなかった。
恐らくは属性ごとに相性があるのだろう。
(あれ、そういえば二刀流ってできるんやろか)
試しに水の魔剣を生み出してみると、右手に握っている炎の魔剣は消えることなく残り続けていた。
どうやら問題なくできるらしい。
水の魔剣の方も試してみると、こちらも水を刀身に纏わせることができることが判明する。
魔力の込め具合で水の形状も変えられるようで、薄く引き伸ばして網目を作ったり、鞭のような形で打ち付けることもできるようだ。
「ぐえっ、な……なんだこいつ!?」
「逃げろ、化け物だ!!」
「逃がさへんけどね」
水の魔剣に纏わせる水を伸ばし、逃げ出そうとする男達をがっちりと拘束する。
どうやら魔力を使用することで水の性質を変えることもできるらしく、トリモチのように粘性を上げて自由を奪うことに成功した。
「貴族相手に喧嘩売ったんや。命奪わないだけ、ありがたい思うてほしいけどなぁ」
プスプスと身体から煙が出ている男に水をかけてやる。
火傷を負っているその様子を見て、せっかくだからと光の魔剣の回復効果も試してみることにした。
「三刀流は……っと、流石にあかんみたいやね」
二本の魔剣がある状態で新たに光の魔剣を生み出そうとすると、脳髄の内側に痛みが走った。どうやら現状同時に使える魔剣は二本までらしい。
炎の魔剣を魔力に還元し光の魔剣を生み出す。
そのままヒールソードを使って男を斬りつけると、刀傷を負ったところが光り出し、傷が塞がり始める。
既にイナリの攻撃力がある程度高いためか回復量はかなり多く、全身火傷が一度の剣撃で治ってしまった。
一通り魔剣の効果を試し終えた時には、既に男達は全員気を失っていた。
貴族家の令嬢を手籠めにしようとしていたのだ、本来であれば一族郎党無礼打ちでも文句は言えない。
魔剣の実験に付き合って無罪放免なのだから、処置としてはずいぶんとマシな方だろう。
「イナリ兄ぃ、ありがとうございます~」
「ま、お兄ちゃんやからね」
イナリがくるりと振り返ると、そこにはたおやかな笑みを浮かべた一人の少女の姿があった。
つややかな黒髪に、各パーツが完璧に配置のされた顔立ち。
自分と似ても似つかない大和撫子は、着ている着物の袖で上品に口元を隠していた。
鼻腔をくすぐる金木犀のような甘やかな香りを漂わせる彼女はミヤビ・サイオンジ――『コールオブマジックナイト』のヒロインの一人であり、イナリの妹だ。
「あのままだとかわいそうやったからね……彼らの方が」
「イナリ兄ぃ、うちのことなんだと思うてはりますの」
「んー……基本的にはかわいい妹や思うとるで」
ミヤビは呪いにおけるメインヒロインであり、そのユニークスキルもかなり強力な能力なものだ。
なのでたとえイナリが間に入らなくとも、彼女は問題なく処理していただろう。
彼女は手加減を知らないので、五体満足で生かすことができていたのかは怪しいところではあるが。
――彼女はイナリの二つ下の十三才にもかかわらず、既にユニークスキル絶対必中を発現させている。
どれだけ低命中率の攻撃も必ず必中するようになるという、作中屈指の強能力だ。
彼女は既にサイオンジ家の宿痾といっていい辺境の防衛にも何度も参加しており、同じ年だった頃のイナリより高いキルレートを誇っていた。
「兄ぃ、それ……」
「うん、僕の力。ついさっき、ようやく発現したんよ」
ミヤビがどこか呆然とした様子で、ふるふると身体を震わせる。
彼女の視線は、イナリが握っている魔剣に固定されていた。
彼女が俯きながらそっと袖で目元を拭うのに、イナリは気付かないふりをした。
「良かった……良かったです、兄ぃ」
少しだけ目を赤くしたミヤビが、イナリに抱きついてくる。
抱き留めてやると、その身体はびっくりするほどに軽かった。
彼女はユニークスキル持ちで戦闘能力があるとはいえ、まだ十三才――前世で言えば中学一年生の未成年として扱われるような年齢なのだと、今更のように気付く。
(僕は……焦ってたのかもしれんなぁ)
自分より小さな身体に強力な力を宿すミヤビ。
小刻みに震える彼女の背中を、イナリは優しく、撫でるように叩いた。
――強さこそが正義であるサイオンジ家において、ミヤビが自分を超えることはそのまま、自分の嫡子の立場が揺らぐことを意味する。
イナリにとってミヤビはかわいい妹ではあったが、同時に自分の潜在的なライバルでもあったのだ。
そのため小さい頃から兄ぃ兄ぃとひな鳥のようについてきていたミヤビに対し、最近は邪険にすることも多かった。
イナリは後ろから追いかけられることに対し、焦りを覚えていた。
そのせいで視野が狭くなり自分と他人を共に追い込んだ結果が、あの煽り厨キャラだったのだろう。
ミヤビはイナリがユニークスキルを手に入れて強くなったことを、これほど喜んでくれているというのに。
自分はなんと了見の狭い男だったのだろうか。
「ごめんなぁ、ミヤビ。今まであんまり優しゅうできんで」
「いいんです、兄ぃが自分にも他人にも厳しい人ってこと、うちはちゃんとわかっとりますから」
「ん、でもとりあえずこれからミヤビだけは甘やかそかな」
「えっ……」
壊れ物に触るように、優しく頭を撫でる。
手ぐしでかきわけるミヤビの髪は、滑らかな絹のようだった。
「は、恥ずかしいです……堪忍してください……」
顔を真っ赤にしながらミヤビをもてあそび十分楽しんでから解放してやる。
そのまま別れようとすると、彼女はスッとイナリの服の裾を引っ張った。
「ついてったら、ダメですか?」
「ん、別にええよ。あんまり面白ぅないやろけどな」
「いいんです……兄ぃと一緒にいれば、何やっても面白いですし」
ゲームでは明らかになっていなかった事実だが、彼女とイナリは実は血が繋がっていない。
ミヤビはその将来性に惚れ込んだ当主ゴウク・サイオンジが在野から拾い上げた養子だからだ。
そのためミヤビは実家で常に肩身の狭い思いをし続けることが多かったと記憶している。
(鬱屈とした状態で勇者に会えば、惚れてまう理由もわかるからなぁ)
原作通りにミヤビとリオスをくっつけようとするのなら、何もせず見て見ぬふりをして、キツい態度を取り続けた方がいいのだろう。
けれどこうして自分に笑いかけてくれるミヤビのことを見てしまえば、そんなことはできるはずもない。
(かわいい妹をどこの馬の骨かもわからん勇者にやるのも癪やし……リオスには他のヒロインを選んでもらえばええやろ)
ミヤビ以外にもヒロインは何人もいる。
勇者には他の子とくっついてもらえばいいだろう。
そのせいでミヤビの隠されたユニークスキルが発現しないのは少し困るが、そのロックを外す方法ならイナリが知っている。
イナリはにこにこと笑いながらついてくるミヤビに笑いかけながら、そのまま防具屋へと向かうのだった――。