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合流



 なぜマクリーアがこれほどすぐにイナリ達と合流ができていたのか。

 それはイナリが領都を後にする時点で、彼女に手紙をしたためていたからであった。


 キルケランの街の情報収集のためにソレラの街に行くことまでは決まっていたため、マクリーアにソレラの街にやってくるよう事前に指示を出しておいたのだ。


 ちなみにもし予定が前倒しになりキルケランの街へ向かうことになった場合は、途中で合流するための手紙を倒してなんとかするつもりだった。


 どうやらかなり無理を押してきたらしく、彼女はかなり汚れている。

 ある程度レベルが上がると馬車より全力疾走の方が速くなる。

 恐らく彼女は自分の二本の足でここまで急いでやってきたのだろう。


「とりあえず旅の泥を落としにいこか。代金は僕が出すから、まずは宿に行こ」


 事前に会計を済ませていたレストランを後にし、行きから一人メンバーを増やして逗留している宿へと向かう。

 ちなみにこの宿にはローズも逗留しており、その代金もイナリ持ちだ。


 アラヒー高原で魔物を稼いだ分からすると足が出るが、彼はかなりの名家の御曹司。

 使える額は庶民とは文字通りに桁が違うので、この程度ならなんの問題もなかった。


「イナリ様、とりあえずまず彼女を紹介してほしいんですけど……」


「ああ、彼女はローズ。ローズ・アルマリカって言えば伝わる?」


「それって――聖女様やないですか! なんで気付いたら聖女様と一緒に行動しとるんです!?」


「あ、マクリーアって驚くと方言が出るタイプなんやね」


「ほ……方言は今関係ないじゃないですか!」


 彼女は顔を真っ赤にして黙ってしまった。

 どうやら方言が出るのを恥ずかしいと思っているらしい。


 細かい事情を説明するとローズのトラウマに触れてしまう可能性があるので、適当に茶化して流そうとするイナリだったが、意外にも助け船を出したのはローズだった。


「私……助けてもらったんです、イナリさんに。イナリさんがいなければどうなっていたか……」


「ああ……なるほど」


 イナリを見て、それからローズを見て、最後にもう一度イナリを見てからマクリーアはこくこくと首を縦に振った。

 どうやら納得したようだ。


「それに私、方言も好きですよ。なんだか地方に来たって感じがして」


「あー……ローズ、そのフォローは逆効果なんやないかな」


「――ふんっ、いいですよ! 私なんて所詮方言が抜けきらない田舎者ですから!」


「それ言うたら僕もミヤビも田舎もんになるわけやけどなぁ」


「そうだ、それですよイナリ様!」


 ぐるっと振り返るマクリーア。

 万が一のことを考え、彼女に宛てた手紙には簡潔に事情だけを書いていた。

 その中身は、突き詰めればこう要約できる。


『ミヤビを助けるために力を貸してほしい』


 一体どういう意味なのか、とマクリーアの瞳は何よりも雄弁に語っている。


 マクリーアはイナリの手紙を信じ、こうしてやってきてくれたのだ。

 であればイナリも、本当のことを教えるべきだろう。


 イナリはちらっと、隣にいるローズの方を見た。

 彼女に事情を教えるにも、今がいいタイミングかもしれない。


「実はミヤビがリンカ病にかかった。それを治すために上位魔族の素材が必要なんや」


「リンカ、病……だから……」


「上位、魔族……ですか?」


 ローズはリンカ病を知っているからこそ顔を青ざめさせ、そしてそれを治すと断言するイナリを見てはっとした顔をした。


 対しマクリーアの方は、なんだかよくわからないといった感じでおとがいに手をやる。

 魔族に上位、中位、下位の区別があること自体、あまりメジャーな知識ではない。


 魔物と日夜戦っていたローズでさえ知らなかったような、攻略情報を知らなければ得ることのない類いの情報だ。


「うん、簡単に言えば魔族の元締めみたいなやつやね。そいつの下に大量に魔族や眷属がうじゃうじゃいる感じや」


「そ、そんなの勝てるわけないじゃないですか! そりゃミヤビ様のことは助けたいですけど、いくらなんでも限度ってやつが……」


「いや、マクリーアが手伝ってくれれば、一体なら多分勝てんねん。けど多分もう一体の方は正直厳しい。そのための話し合いがしたいんよ」


 イナリは近くに置かれていた袋を手に取り、そこから無造作に素材を取り出した。

 眷属のものはかなり人間に近くグロかったので除外し、魔族達の中でも魔剣に吸わせることができなかった素材のいくつかが収められている。


「僕らだけでこの街の魔族と眷属を皆殺しにした。もちろん本番はこれからやけど、僕らなら上手くやってみせる」


 自信はあるが、確信はない。

 けれど敢えてイナリはそう言い切った。


 為すと決めたことを断じて為す。

 それがサイオンジ家の次期当主としての、彼のプライドだった。


 その本気が伝わったのだろう、マクリーアはこくりと一つ頷きを返す。


「本気……なんですね」


「当たり前やん、ミヤビのためやで?」


「イナリ様って話より大分、ミヤビ様のこと大事にされてますよね……」


「ちょっとつろう当たってた部分もあるからなぁ、その分今後は甘やかすって決めとんねん」


 イナリの溺愛ぶりに処置無しと両手を挙げるマクリーア。

 ただどうやらここを去るつもりはないようで、話を聞く体勢は維持したままだった。


「イナリさん!」


「どないしたん、ローズ」


 マクリーアの隣にいたはずのローズは、気付けばイナリのすぐ隣にやってきていた。

 なぜか彼女は目をキラキラと輝かせ、両手を前に組んでいる。

 清楚なお姫様を思わせる彼女は立ち上がると、


「私も、仲間として認めてくれたんですね!」


「え、ああ、うんそれはもちろん。ローズがおらんかったらかなり厳しかったと思うし……」


 嬉しそうにうんうんと頷くローズを見て、思てたんとちゃうなぁと苦笑いするイナリ。


 リンカ病の治療やミヤビの治療のことを突っ込まれるとばかり思っていたが、彼女が一番強く反応したのはイナリがローズを仲間として認めているところだったらしい。


 二人のやりとりを見たマクリーアが、イナリのことをじとっと睨む。


「ミヤビ様に言いつけますよ」


「ミ、ミヤビは今関係ないんとちゃう?」


 もしそうなったら……と考えるとちょっと恐ろしいが、大丈夫、自分は何もやましいことはしていない。

 身の潔白を証明すれば、ミヤビなら許してくれる……はずだ。きっと、多分、メイビー。


「う、ううんっ!」


 少し声が震えそうになったので、一度喉を鳴らして調子を整えてから、再度告げる。


「ま、まあなんにせよ今後はこの三人で動く。ただマクリーアには、途中からは僕らと別で動いてもらいたいんよ」


「それは、別に構いませんが……なぜですか?」


 その問いの答えは、なぜイナリがマクリーアを呼んだのかと関係がある。

 簡単に言ってしまえば、イナリがどれだけ強くなったとしても、彼が一人では上位魔族相手に勝つことができないからだ。


「上位魔族には、誓約ゲッシュっちゅう特殊能力がある。簡単に言うと、あいつらはただ殺しただけだと死なん初見殺しでもあんねん。やからマクリーアにはキルケランの街にいる吸精鬼の誓約を崩すために、キルケランの街で動き回ってほしいんや」

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