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仲間


 流石一流店なだけのことはあり、料理が出てくるまでの間はシームレスで、店員の知識量もなかなかに多かった。

 食材の説明や食べ方などを教えながら料理に舌鼓を打ちながら、和気藹々として食事を勧めていく。


「うーん、魔物の食材ってどうしてこんなに美味しいんでしょうか? 普段食べているものと全然違います」


「魔物の持つ魔力が原因っちゅう話やったっけ。多分やけど魔力で身体が変質して、グルタミン酸とかの旨味成分が増えてるんやと思うよ」


 この世界の魔物の食材は、前世と比べるとかなり美味いものが多い。

 オーク肉なども前世で食べていたブランド豚より明らかに美味いし、高級な魔物食材の中にはイナリでさえ唸らずにはいられないほどに質の高いものもある。


 ただ元の素材が言い分、この世界ではあまり調味料の類いが発達していない。

 イナリとしてはしょうゆや味噌がほしいが、そんなものの開発に手を出している時間もないので、もし数年が経ち全てにケリをつけることができたら、着手するつもりだった。


(将来のことを考えるなんて、僕もずいぶん前向きになったもんや)


 気付けば未来のことを考えている自分がなんだかおかしくなり、なんとなく気恥ずかしさからグラスを空ける。

 するとローズが何やら言いたげにこちらを見ていることに気付く。

 彼女は人生初めての飲酒をしているからか、ふわふわとしているように見えた。


「イナリさんは、どうしてそんなに沢山のことを知ってるんですか? 魔族のことだけじゃなくて、そんな料理に関することまで……」


「……サイオンジ家を継ぐには、あらゆる知識が必要やから。名家の看板って、そんな軽いものちゃうからね」


 そんな風に言って適当に誤魔化しておく。

 自分が前世の記憶を持っているということを、イナリは今のところ誰にも話すつもりはない。

 ある程度の知識の開陳はしても、その出所を教えるつもりはなかった。


 納得したわけではないらしく、ローズはうむむ……と唸りながらワインのおかわりを頼む。 明らかに飲み過ぎな気がするが、彼女なら回復魔法でどうとでもなるだろうと好きなようにさせておくことにした。


「イナリさんは……なんでそんなに強いんですか?」


「……僕は別に、強くはないよ」


 自嘲気味に笑うイナリのことを、ローズはじっと見つめていた。

 イナリは自分自身に自信や誇りを持ってはいるが、自分のことをそこまで強い人間とは思っていない。


 常に飄々とした態度を崩さずに、こともなげに難題をクリアしていく。

 本当はそんな風に全てを美しく進めることができればいいのだが、なかなかどうして思い通りには進まない。


 本来であればしっかりと全ての魔境をクリアするだけの実力を、ミヤビと一緒につけていくつもりだった。

 想定通りにいっていれば、そこまで無理はせずともゲーム開始時点である一年半後には魔王の四天王程度ならば倒せるくらいには強くなることができているはずだった。


 だが現状はどう。

 たしかに強くなっているのは間違いないが、この場にミヤビはおらず、更に自分は負ける可能性の方がよっぽど高い分の悪い博打に尚も突き進もうとしている。


 ゲーム知識があるのに破滅しかけているのだから、ゲーム知識がない状態であればバッドエンド一直線なのも当然だ。


「イナリさん……」


「まあでも、僕はこんな自分が嫌いやないねん。最初は負けたって、最後には絶対に勝てる。僕は他の誰よりも、僕のことを信じてるんよ」


 イナリはぱたぱたと自分の頬に風を送る。

 酒のせいか、柄にもなく熱く語りすぎてしまった。

 ローズの生暖かい視線がなんだかくすぐったかったので、話題転換も兼ねてこれからの話をすることにする。


 この街の魔族達は倒したものの、これはまだまだ前哨戦。

 この後に控えているキルケランの街での魔族達との激闘を思えば、四十を超えるレベルであっても、まだまだ心許ないのは変わらない。


「出発は一応明後日にするつもりや。明日は情報収集と事前の打ち合わせ、それから情報のすり合わせに使うつもり」


「情報のすりあわせ……ですか?」


「うん、実はキルケランの街での魔族攻略には、もう一人仲間を呼ぶつもりなんよ」


「仲間……ですか?」


「そうそう、多分そろそろついとる頃や思うんやけど……」


 ドタドタドタッ!


 突如として聞こえてくる、高級なレストランに相応しくない大きな足音。

 その正体がすぐにわかったイナリは、来客の正体を悟り、目を細くする。

 こちらに近づいてくる足音、その正体は……


「ちょっとイナリ様、どういうことなんですか!? 私に無理言わないでくださいよ!」


 イナリが呼び出したもう一人の仲間。

 以前と変わらぬ冒険者スタイルの格好に身を包む、マクリーアであった――。

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