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 ウェルドナ王立魔法学院はウェルドナ王国全土から幅広く生徒を採用する都合上、半寮制になっている。

 ただもちろん王都に家のある人間は屋敷からの通学が許可されている。

 サイオンジ家は王都に別邸を持っており、イナリはいわゆる通学組の一人であった。

 屋敷に戻ると、使用人達に出迎えられる。


「一人にさせてくれへん?」


 使用人達は何も言わず頭を下げると、イナリの部屋を出て行った。

 言うことを聞かない使用人は容赦なく首を切ってきたため、口を挟まれるようなこともなかった。

 まったく、しっかりと躾が行き届いている屋敷だ。


 イナリは使用人達が遠ざかったのを確認してから、現状を確認していくことにした。

 今後のことを考えるためにも、一人でじっくりと考える時間が必要だった。


(まず考えなくちゃあかんのは僕の今の力がどのあたりにあるのかやな)


 業腹ではあるが、今の自分の未熟さを認めないことには始まらない。

 今は己の弱さを認める強さが必要な場面だった。


 『コールオブマジックナイト』において、ある程度出番のあるネームドキャラクターは、基本的にユニークスキルを一つ持っている。


 主人公とヒロインを除くと、基本的に持てるユニークスキルは一人一つ。

 ヒロインは元来持っているスキルと主人公との関係性を深めることによって手に入るユニークスキルの二つを、主人公のリオスはプレイヤーの行動によって最大で五つまでユニークスキルを所有できるが、彼らは例外だ。


 当然ながらイナリも、持っているユニークスキルは一つである。


(わりと強めなアクティブスキルっぽいのはありがたいけどなぁ)


 ゲームではスキルは常時発動しているパッシブスキルと、戦闘の際に使用が可能なアクティブスキルの二種類に分かれていた。

 イナリの持っているスキルは後者、戦闘向けのアクティブスキルだ。


 ただこのユニークスキルという代物は、非常に当たり外れが激しい。


 サブキャラの中にはユニークスキルが雑魚過ぎるせいでどうあがいても二軍にもなれないような者も多く、彼らだけでラスボスである魔王を倒そうとするのならレベルを限界ギリギリまで上げる必要があったほどだ。


 イナリは味方にすることのできない敵キャラであるため、スキルの細かい仕様は不明だ。

 更に言うとイナリのユニークスキルは、未だ一度も使っていない状態であった。


 リオスの入学時には使えていたことを考えると、恐らく今から三年次になるまでの二年間のどこかで、ユニークスキルが使えるようになったのだろう。


 使えんゴミスキルやったらどないしよ……と内心では思いながらも、そんな態度はまったく表に出さず、イナリは早速ユニークスキルを使ってみることにした。


「――魔剣創造」


 彼のユニークスキルは、その名を魔剣創造という。

 イナリがスキルの名を口にすると、彼の目の前にホログラムが現れる。



炎の魔剣 レベル3

水の魔剣 レベル1

光の魔剣 レベル2

闇の魔剣 レベル1


「へぇ……なるほどなぁ」


 初めてスキルを使った瞬間、まるで最初から知っていたかのように、魔剣創造に関する知識が頭から湧き出してくる。

 封印されていた知識のロックが突如解除されたかのような不自然さに、イナリは思わず眉根を寄せる。


 何者かの作為を感じるのは若干不快だが、今は魔剣創造が使えるようになったことを喜ぶべき場面だと気を取り直し、ユニークスキルの把握を再開することにした。


 魔剣創造の能力は、想像していた以上にシンプルだった。

 魔力を使い、魔剣を造る。端的に言えばそれだけの力だ。


 魔剣の力はレベルが上がれば上昇していき、攻撃力や使用時に使えるスキルが上昇していく。

 魔剣の情報は魔剣創造というユニークスキル自体に蓄積されていくため、たとえ剣が折れても、魔力を使えば同じものを生み出すことができるようだ。


 魔剣のLVを上げる方法は二つある。


 一つはイナリ自身の魔剣の習熟度を上げていくこと。

 これは魔剣の使用だけではなく、同属性の魔法によっても上げることが可能なようだ。


 使ったことがないはずの炎の魔剣のレベルが既に3なのは、彼が火魔法にそれだけ習熟しているからということらしい。


 そしてもう一つは、魔剣の求める素材を吸わせていくことだ。

 イナリが生み出すことのできる魔剣はそれぞれ好みのようなものがあるらしく、好む素材を吸わせていくとそれだけで経験値が溜まっていくらしい。


「とりあえず、使ってみよか」


 物は試しと、早速魔剣を出してみることにする。

 まずはレベルが一番高い炎の魔剣を選ぶことにした。


 炎の魔剣と念じてみると、目の前にある空間に歪みが生じる。

 虚空から現れたのは、赤い刀身をした炎の剣だ。


 手に取り感触を確かめると、それはまるで自分のために誂えられたように、ぴったりと手になじんだ。

 触れてみると、現在の炎の魔剣の能力が脳裏に浮かび上がってくる。


「なるほど……攻撃力UP(中)にファイアスラッシュ……アクティブもパッシブも揃っとるんか」


 剣を振ると、先ほどまで腰に差していた剣よりもグリップの感触が心地いい。

 ちょうど今の自分にジャストフィットするように作られたグリップは手に吸い付き、一切の無駄なく力を剣に乗せる。


 ファイアスラッシュは斬撃に炎を纏わせるアクティブスキルだ。

 ちなみにこれは、リオスが序盤で手に入れるスキルの一つでもある。


 一度作った魔剣は送還する形で再度魔力に還元することもできるらしく、炎の魔剣をしまうと内側にわずかに熱が宿るのがわかった。


 そのまま再度魔剣創造を使い、新たな魔剣を取り出す。

 取り出したのは光の魔剣だ。

 この魔剣で使えるのはヒールソード、斬った者に自分の攻撃力分の回復を行うアクティブスキルだ。


 剣を振ってみると、何か違和感があった。

 考えながら色々と試しているうちに、その正体に辿り着く。


「炎の魔剣振ってる時と、剣に乗っ取る力が変わらんな?」


 現在振っている光の魔剣の効果は回復量アップ(小)のみ。

 けれど先ほど炎の魔剣を振るっている時と、力強さが変わらなかった。

 他の剣も使い試してみるが、やはり感触は変わらない。


「魔剣のパッシブスキルは、その魔剣を使っとらん時も常時発動したままっちゅうことか」


 それならアクティブスキルも使えるのかと試してみる。

 炎の魔剣を持ったまま、光の魔剣で使えるアクティブスキルのヒールソードを発動させようとすると……できなかった。


(なるほど、アクティブスキルを使う時はしっかり剣を使い分けなあかんねや)


 ただパッシブスキルが魔剣を出さずとも発動してくれるのは大きい。

 魔剣のレベルを上げ続けていけば、イナリの能力はますます向上するに違いない。


「それに魔剣の種類も、これから増えるはずやしね」


 ゲームの中のイナリはカウンター特化の柔剛の魔剣や、全体にスタン効果を持たせる雷の魔剣など、現在では使えないいくつもの強力な魔剣を使ってくる敵キャラだった。


 詳細な仕様はまだ不明だが、恐らく魔剣創造自体の熟練度を上げていくことで使用可能な魔剣の数も増えるのだろう。


「となると当面の目標は魔剣のレベル上げと素材集め、それに魔剣創造の熟練度上げってことになりそやね」


 脳裏に思い浮かべるのは、『コールオブマジックナイト』のイナリ戦だ。

 呪いはいわゆるターン制のゲームであり、素早さを参照しながら自キャラにコマンドを選ぶ仕様だった。


 そんな中でイナリ戦では、ほぼ全てのターンでイナリの攻撃から始まり、しかもイナリは1ターンごとに複数回の行動ができるキャラだった。


 魔剣創造を発動させ、生み出した魔剣を使って攻撃をしてくる。

 剣で広範囲への魔法から回復まで全てをこなすため、有志が負けイベをクリアするためにかかった時間は、一時間を優に超えていたはずだ。


 自分の強みは、いくつもの魔剣のパッシブスキルを合わせることによるステータスの暴力と、どんな相手に対しても魔剣を使って対等以上に戦うことのできる応用力の高さにあるのだろう。


 完成形を知っているからこそ、そこから逆算していけば今の自分に必要なものも見えてくる。


 何せ二年しか残されていないのだ。

 自分と魔剣のレベルを上げていくためにも、のんきに学院に通っているような時間はない。

 休学……いや、最悪の場合は退学も視野に入れつつ動くべきだろう。


「とりあえず、素材探しにでも行こかな」


 ただ今できることはさほど多くない。

 イナリは王都にある店に入り、魔剣に吸わせることができる素材を確認しに行くことにした。


 王都には素材がそのまま置かれていることは少ないので、鎧や胸当てなどの加工品を試してみる形になりそうだ。


 そんな風に考えながら足取り軽く商店街へ向かおうとすると、遠くから聞き慣れた声が聞こえてくる。


「せやからやめてください言うとるやないですか」


「そんなつれねぇこと言わずによぉ」


「そうそう、そんなに時間は取らせねぇ。ちょーっと天井のシミでも数えてればすぐに終わるからよ」


 声のする方へ向かい路地裏まで辿り着くとそこには――彼の妹でありヒロインの一人であるミヤビ・サイオンジと、彼女を取り囲みながらへらへらと笑っている男達の姿があった。


(あら、おあつらえ向きなことで)


 イナリはその場で魔剣創造を発動させ、男達の方へと斬りかかることにした。

 魔剣の性能把握は、なるべく早いうちにしておきたいと思っていたのだ。

 街のゴロツキだと少々物足りなそうではあるが、試し斬りにはちょうどいい相手だろう。

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