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 その後もイナリとローズによる眷属の討伐は続いた。

 何回も戦っているうちにレベルが上がって能力も上がり、更には段々と効率の良い倒し方などもわかってきて、今では無駄なスキルや魔法を使わずに淡々と作業のように眷属達を倒すことができるようになっていた。


 レベルは既にイナリが三十八、ローズが三十四まで上がっている。

 当初の目的だった上位の防御魔法であるアイギスシールドが使えるようになったところで、ちょうど昼時になった。

 せっかくなので回復と親睦会も兼ねて、昼休憩を取ることにする。

 

「ほならいったん休憩にしよか」


「はあっ、はあっ、はあっ……わかり、ました……」


 ローズの方は既に息も絶え絶えな状態で、顔から疲労の色が隠せていなかった。

 ちなみにイナリも涼しげな顔を崩していないが、実はめちゃくちゃ疲れている。


 けれど彼は自身の弱みを基本的に誰かにみせることを良しとしない。

 簡単に言ってしまえば、彼は見栄っ張りであった。


「しっかし、こうも連戦すると流石に疲れるなぁ」


「全然そんな風に見えないんですが……」


「そこはまあ、ほら、経験の差っちゅうやつで」


 魔法やスキルの行使には集中力を必要とする。

 二人とも戦う度に魔力を使うため、怪我を負っておらずとも精神的な疲労はかなり蓄積している。

 

 とりあえず街の中にある喫茶店の一つに入り、休憩を取ることにした。

 周りの様子を確認するために、店内ではなくテラス席を選んであちこちに視線を飛ばす。


「うーん、それほど問題は起きてなさそうやね」


 ソレラの街は、思っていた以上に何も変わっていなかった。

 眷属達は基本的に後ろ暗い商売か、ギャング関連の仕事についている者達ばかりだった。

 色街の支配人や柄の悪い用心棒達を何人倒したところで、どうやら街の風景はさほど変わらないということなのだろう。


「そうでもないと思いますよ。だってほら……あれを」


 ローズの視線の先では、慌ただしげにあちこちを走り回る黒服の姿が見えていた。

 恐らくは自分の上役達がいなくなり慌てているのだろう、周囲を恫喝しながら情報収集を行っている。


「まだ僕らにはたどり着けてなさそうで、何よりや」


「結構派手に動いてますし、バレるのも時間の問題だと思いますけどね……」


 頼んだサンドイッチを口に含む彼女の顔は渋面をしていた。

 睨むというほどではないが、じとっとした目でイナリの方を見つめている。

 あんなにバカスカ眷属を倒して良かったのか、と言いたげな視線だ。


「でもレベルを上げて上位魔法も覚えられたやろ? これで下級魔族と戦うことになっても、自分の身は自分で守れるようになったはずや。僕を恨むんはお門違いやと思うけどなぁ」


「ち、違っ、恨んでなんか……ただちょっと、説明が少なすぎると思っただけです!」


 ぷりぷりと頬を膨らませるローズを見て、イナリがプッと噴き出す。

 自分が情報を小出しにしているのが一番の理由なのに笑うとは、彼は相変わらずいい性格をしていた。


「せっかくの小休止やし、何か聞きたいことがあるなら答えるよ」


「……えっ、いいんですか!?」


「なんやねん、その意外そうって顔。僕、結構人が好いねんで」


「自分でそういう人に、性格がいい人はいないと思います」


「わかった、ほんなら教えるのはナシっちゅうことで」


「わあっ、今のなし! 今のなし! 性格がいいなら、教えてくれますよね?」


「……仕方ないなぁ」


 自分が持っている情報の全てを教えるわけにはいかないが、ある程度であれば情報の共有をしても構わないだろう。

 自分と共に戦ってくれている戦友に対価を出し惜しむつもりはない。


「それなら……魔族について、教えてください」


「魔族っちゅうても色々あるけど、何が聞きたいん?」


「もし知っているのなら……キルケランにいる魔族の情報を」


「なるほど、吸精鬼についての話か」


「吸精鬼……ですか?」


「うん、キルケランの街にいる魔族は、十中八九吸精鬼……つまりは上位魔族やね」


 吸精鬼とは魔族の中でも上位5%ほどしか存在していない、上位魔族の一角である。

 ただこの種の説明をするためには、そもそも魔族について述べておく必要がある。


 そもそも魔族とは何か。

 彼らは人類の敵として設定されている魔物が進化した先に到達する最終形態である。

 人を憎む魔物が人型になるのは一種のカリカチュアのようだが、彼らの実力は本物だ。


「魔族は下位・中位・上位って分けられ取るのは知っとるよね?」


「へぇ、そうなんですか。魔法と同じなんですね」


「まあ魔法の場合は最上位があるからちょい違うけどな」


「揚げ足取らないでくださいよ」


 どうやらこの世界において、魔族に関する情報はほとんど流通していないらしい。

 たしかに考えてみるとイナリが知っているのはゲームを何度も周回し攻略サイトを見ていたからで、ゲーム内の聞き込みなどで得られる情報の中には、ガセや知っても意味のないものが多かった。

 それならとイナリはなるべく基本的なところから話をしていくことにした。


「キルケランの街におるのは吸精鬼っちゅう種族や。この名前は知っとる?」


「いいえ、聞いたことがないですね……」


 魔物は最後まで進化をすることで魔族へと至ることができるが、魔族になってからもまだ進化の余地を残している。

 吸精鬼の場合は下位魔族であるレッサーヴァンパイアが中位魔族である吸血鬼になり、更にもう一度進化を行うことでたどり着くことができる、簡単に言えば吸血鬼の上位互換である。


「吸血鬼の上、ですか……」


「うん。吸血鬼は血液からしか精気を吸い取ることができんけど、吸精鬼は触れるだけで精気を吸い取れるからな。正しく上位互換って言ってええやろ」


「そんなやつを相手にして……勝てると?」


「条件を揃えさえすれば勝てる。この世界の敵にはね、絶対に倒せないなんてやつはおらんのや。手順を守って上手くやれば、僕と君の二人で力を合わせれば、絶対に勝てる」


 イナリの横顔を見たローズは一瞬ぼうっとした後に、慌てて顔を逸らす。

 彼女の頬は少し赤くなっていたが……やってきたデザートに視線を移していたイナリが、それに気付くことはなかった。

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