表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/66

正体


「ぐああああっっ!?」


(これは……光の結界?)


 イナリとアリコンの距離が肉薄したタイミングで、突如として彼らを覆うようにドーム状のバリアが生み出されていた。

 光属性は魔物に対する特攻を持つ。

 目の前でアリコンが突然苦しみ始めたのは、間違いなく結界の効果だろう。


 後ろから聞こえてきた女性の声と、突如としての助太刀。

 わからないことも多かったが、それでも一つだけたしかなことがあった。

 それは――


(今この瞬間が、千載一遇の好機っちゅうことや!)


 イナリが手にしているのは眷属に対する特攻を持つ光の魔剣。

 苦しみもがいているアリコンの眼球目掛けて、全力の突きを放つ。


 攻撃を放つ瞬間になってようやく気付いたが、彼が振るう光の魔剣は、先ほどまでと比べて明らかに輝きが増していた。

 狙いを過たず、イナリの突きがアリコンの目に突き立った。


「ぎゃあああああああっっ!!」


 魔剣と自身のレベルアップによる攻撃力の強化のおかげか、エルナの時と比べても明らかにダメージの入り方が違った。

 この光の影響でアリコンの動きがどこまで止まってくれるのかはわからない。

 己の魔力残量のことを考えれば、全てをこの一撃に込めることこそが、今の彼に残された唯一の勝機であった。


「おおおおおおおおおおっ!」


 ぐりんと思い切り奥へ突き込めば、水晶体を裂き、更にその先の脳へと到達する。

 更にダメージを与えるべく、イナリはそれをぐりぐりとかき回すように押し込んでいく。


「あがあああああああああっっ!!」


 アリコンも攻撃を食らっていることを理解し、ダメージを受けながらもその拳を振り回し始める。

 力任せのめちゃくちゃな一撃だったが、それでも当たれば甚大なダメージが入った。

 胸に一撃を食らえばイナリの肋骨が折れ、顔に一撃をもらえば歯の半本かが吹っ飛んでいく。


 ただ不思議なことに、負った怪我は剣を突き込んでいるうちに綺麗に治っていた。

 故に彼は追撃の手を緩めることなく、ひたすら剣でアリコンの脳を遮二無二かき回し続ける。


「これで……しまいやッ!」


 イナリが剣を思い切り突き込むと同時、アリコンが断末魔の叫び声を上げる。

 そしてビクビクと身体が痙攣したかと思うと……そのまま一度大きく跳ねると、その動きを止めた。


「やったんか……?」


 確認のために魔剣で斬りつけてみるが、アリコンはぴくりとも動かない。

 レベルアップによって生じる熱に勝利を報されて、ようやくほっと一息つくことができた。 イナリは軽く息を整えると、そのまま百八十度回転する。

 そして先ほどから自分の助力をしてくれていた人物のいる方へと振り返った。


「おおきに。正直、君がおらんかったらかなり厳しかった。ほんで君……一体誰なん?」


「話は後で、まずはこの場を立ち去りましょう。私の魔法は感知されやすいので、恐らくそう遠くないうちに魔族が来ます」


 そこに立っているのは、青と白を修道着を身につけた女性だった。

 彼女が着ているのは、イナリの記憶が正しければ聖教の本流のシスターが身につけているものだったはずだ。


 暗くてよく見えないが、その状態であっても美しいと一目でわかるほどに整った相貌をしている。

 彼女を見たイナリの脳裏に、色々な疑問がよぎった。

 ……が、彼女の言葉を信じるのなら、今すぐにこの場から逃げた方がいい。


「……わかった」


 頷くイナリを先導するように、少女が路地の中を駆けてゆく。

 前を行く彼女のペースは今のイナリからすると速いとは言えないが、それでも一般人と比べるとものが違う。

 恐らくだがある程度レベルを上げているのだろう。


 そして何より、彼女の足取りには迷いがなかった。

 何度も曲がりながらも、迷うことなく先へ進むことなど、このスラム街の地図を頭に入れていなければできない芸当だ。


 イナリは彼女の後ろ姿を見ながら首を傾げていた。


(名前のついてるキャラで、こんな子おらんかったよな……?)


 『コールオブマジックナイト』に出てくる登場人物の数は多い。

 前世では予約者特典設定集なども読み込むタイプだったので、イナリはそのほとんど全てを網羅しているが、少なくとも彼女の顔を見たことはなった。


 ただ先ほどの光魔法を見た感じ、彼女がただのモブではないということだけは確信できた。 眷属を弱らせることができる結界の展開など、この世界では最低でも大司教クラスでなければできないはずだ。


 スラムを脱出してから、そのまま市街へと戻る。

 喧噪の中を抜けていった先にあったのは、街の一件の古ぼけた家だった。

 彼女に連れられて中に入る。

 そこで振り返った彼女の顔が、つけられたランタンの明かりに照らされる。

 先ほど闇夜の中で見た時よりもずっと美しいと、そう思えた。


「ご挨拶が遅れました。私はローズ……ローズ・アルマリカと申します」


「――ローズ・アルマリカやて!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ